悪役令嬢の娘の母親として転生したけど、最悪な家庭と崩壊寸前の立場にめげず、私が全部立て直して幸せを掴むまでの物語
気づけば、私はこの世界の住人になっていた。
目の前で美しい金髪の少女――娘が泣いている。
「ママ、またお父様に怒られたの……」
ああ、そうか。私は――この子の母親だ。
ゲームの世界、『聖女と六人の王子様』。その悪役令嬢、クラリッサの“母親”として転生していた。
でもこのポジション、控えめに言って地獄。
夫である侯爵は愛人に夢中、娘は愛情不足で性格が歪み、義母は嫁いびりを楽しむ日々。
あまつさえ、私はこの世界で“モブ中のモブ”。原作でも名前が出てこない。
……でもね。
「誰がモブで終わってやるもんですか!」
私はこの家庭を立て直して、娘を“悪役”なんかにさせない。
そして何より、私自身も幸せになってみせる!
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まず私は、夫の浮気現場を押さえることにした。
使用人からそれとなく聞き出した情報を元に、夫の秘密の別宅を訪れた。
「……あら、あなた? こんなところでどうしたの?」
ベッドの上で抱き合っていた夫と愛人。
私が黙って写真魔法を起動すると、二人は凍りついた。
「侯爵閣下が家族を裏切っていた証拠は、これで十分ね。貴族院に提出するから、覚悟しておいて」
夫は顔面蒼白になり、愛人は絶叫した。
ふふん、ざまぁみろ。
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次に義母。
彼女は私に日々嫌味を言ってきた。
「本当に育ちの悪い女。クラリッサもあなたに似てしまって、憐れなこと」
「そうですね。でも“育ち”って、結局“環境”の影響ですよね? あなたが育てた夫の有様を見ると、納得ですわ」
その瞬間、義母の顔が怒りで赤くなった。
けれど、それ以上何も言えなかった。私はにっこりと、貴族夫人として完璧な笑みを浮かべていたから。
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娘のクラリッサとは、毎晩一緒に眠った。
頭を撫で、抱きしめ、「愛している」と伝え続けた。
「クラリッサ、あなたは悪くない。ママはずっとあなたの味方よ」
涙を流しながら、娘は小さくうなずいた。
それが少しずつ、彼女を変えていった。
かつて侍女を突き飛ばしていた娘が、今では「ありがとう」と素直に言えるようになった。
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半年後。
貴族院で、私は正式に離縁を勝ち取り、侯爵家の財産の半分と、クラリッサの親権を得た。
義母は家から追い出され、夫は爵位の剥奪こそ免れたものの、社交界では完全に孤立。
そして私は――
「閣下、どうかこの家でクラリッサ様と共に暮らしてください」
そう懇願されたのは、クラリッサの婚約相手の父親であり、大公家当主。
「あなたほどの賢女を、我が家に迎えたい」
その言葉に、私はほほ笑む。
「それは、クラリッサが立派に成長したおかげです。私たち母娘は、どこにいても幸せになりますわ」
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数年後。
クラリッサは心優しい令嬢に成長し、大公家の若君と幸せな婚約を交わした。
私は大公家の“教育顧問”として迎えられ、今では社交界の名士の一人となっていた。
もう、誰も私をモブなんて呼ばない。
「……ママ、本当にありがとう。ママがいてくれたから、私は幸せになれたの」
「ううん。私の方こそ、あなたがいてくれたから戦えたのよ」
娘の笑顔が、私にとって何よりの報酬だった。
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こうして、モブ中のモブだった私は――
全てをひっくり返して、手に入れたのだ。愛と、誇りと、幸せを。
この人生、もう誰にも脚本は書かせない。
私の物語は、私自身の手で綴っていく――そう、これからもずっと。