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旅立ちと、歪んだ愛の兆し

第1節:旅路の始まり、王都セントリアへ


 陽光が差し込む暁都・神苑通りの駅舎に、汽笛の音が鳴り響いた。


 赤煉瓦と魔導細工で装飾された古風な駅舎の中央には、煌びやかな魔道列車――《クリスタル・エクスプレス》が停車していた。

 未来的な魔導機関と和の雅が融合したその姿は、暁都という都市の象徴でもある。


 カインは仲間たちとともに、駅のホームに立っていた。

 旅支度は整えた。決戦を終えた身体にも、かすかな余韻が残っている。


「……本当に、行くんだね。王都セントリアへ」


 隣でフィリアが、どこか感慨深げに呟いた。


 彼女の優しい横顔に、カインは軽くうなずく。


「うん。あの戦いで、俺たちは強くなれた。でも、アクアリスが最後に言いかけた“あの方”――それを確かめたいんだ」


 その名が明かされることはなかった。

 だが、胸の奥に引っかかるあの気配――あの魔王の影は、決して無視できない。


「王都には、もっと多くの情報と、強敵がいるかもしれない」


「ふん、どんな敵が出てきても、ボクが一緒にいれば安心だよ」


 レオナが胸を張り、カインに寄りかかってくる。


 その勢いに少したじろぎながらも、カインは笑った。


「でもまぁ……まずは、ちょっと寄り道もしていこう。旅はまだ始まったばかりだしな」


 その言葉に、リオナが眉をひそめる。


「寄り道って……まさか、またレオナが変な場所に――」


「えー? ボクだけじゃなくて、リオナちゃんだって行きたいところあるでしょー?」


「なっ……!」


 リオナの頬が赤らみ、彼女はそっぽを向いた。


「……まぁ、仕方ないわね。せっかくの旅なんだから、少しぐらいは、ね」


 そんな彼女の姿を見て、カインは心の中で小さく笑った。

 ついこの前まで、たったひとりでスライム狩りをしていた自分が――

 今では、こんなに賑やかな仲間に囲まれている。


 魔導列車が、ゆっくりと発車を告げる。

 ガラス越しに見える暁都の街並みが、

少しずつ後方へと流れていく。


(さよなら、暁都……)


 その胸の奥には、アクアリスの言葉と、見えなかった“誰か”の存在が今も残っていた。

 けれど、もう怖くはない。


 仲間たちがいて、進むべき道がある。


 そしてこの旅の先には、王都セントリア。

 新たな出会いと、さらなる試練が待ち受けている。


「さあ、行こう。俺たちの次の舞台へ――!」


エピローグ 第2節:寄り道の記憶、交わる想い


 魔導列車はゆるやかに軌道を曲がり、分岐点に差しかかる。


 列車内で次の目的地の案内が響いた。


「――次は、《ルクスレーヴ》、港と祝祭の魔導都市です」


 レオナの目がきらりと輝いた。


「カインくんっ、ちょっと降りよう! ここ、ボクが行きたかった街なんだよね♡」


 勢いよく腕を引かれ、気づけばカインは列車を降りていた。


 


***


 


 ◆【レオナとルクスレーヴの街・デート】


 港町ルクスレーヴは、光と魔導の祝祭都市。

 華やかな魔導噴水や、空に舞う光の球体、鮮やかな露店が並ぶ大通りは、まるで夢のような景色だった。


「ねぇねぇ、こっちのアクセサリー、ボクに似合うと思わない?」


 レオナが胸元を強調するように身を寄せ、キラキラした髪飾りを試して見せる。


「……そ、それは……似合ってる、と思う」


「ふふっ、ありがと。カインくんには、特別に“ボクのかわいいとこ”見せてあげるね?」


 レオナは艶やかに笑う。


 だが、ふと真剣な目で空を見上げた。


「でもね……カインくん。強くなるって、簡単じゃない。ボクはそれを知ってる」


 甘い雰囲気の奥にある影――それを感じ取ったカインは、そっと彼女の手を取った。


「俺も強くなるよ。だから、レオナも……そばにいてくれ」


 その言葉に、レオナは瞳を揺らし、少しだけ照れて笑った。


 


***


 


 ◆【フィリアとシブリアの再建支援】


 次に降り立ったのは、かつてアクアリスが襲った街――《シブリア》。


 魔導交差点や地下街には、復興の音が響いていた。


 フィリアは神官として、治癒と再生の魔法で人々を支えていた。


「カインさん、こちらを手伝っていただけますか?」


 小さく微笑む彼女は、倒れた店の看板を直しながら、静かに言った。


「争いが終わったあとに、誰かの笑顔を守ること……私は、こういう時に、自分の力を活かしたいと思うのです」


「フィリアさんは……本当に、強いですね」


「いえ。私は、優しさを貫きたいだけです」


 彼女は夕焼けに照らされながら、そっとカインの袖を握った。


「カインさんが、誰に心を寄せても……私は、あなたのそばにいたいと思っています」


 その微笑みは、女神のように穏やかで――そして、少しだけ切なかった。


 


***


 


 ◆【リオナとハルミュールの街・初恋の告白】


 最後に立ち寄ったのは、魔導装飾街ハルミュール


 カインとリオナは、カフェのテラスで肩を並べていた。


 夕暮れの街路には魔導ランタンが灯り、幻想的な光が2人の影を重ねていた。


「ねぇ、カイン」


 リオナが静かに言った。


「……私、あなたと出会って、初めて“誰かのために強くなりたい”って思った」


 彼女の真っ直ぐな目に、嘘はなかった。


「きっと……これが、“初恋”ってやつだと思う」


 頬を染めたリオナが目を伏せる。


 けれど、誤魔化すようなそぶりはなかった。

 彼女は戦士として、ひとりの女性として、真摯にその想いを伝えていた。


 カインは、そっとうなずいた。


「ありがとう、リオナ。……俺、ちゃんと向き合うよ」


 


***


 


 そして、再び4人は魔道列車に乗った。


 窓の外に流れる景色は、刻々と変わっていく。


 新たな場所、新たな戦い、そして――新たな想いが、カインたちの中に育っていた。


 車窓の向こうに、王都セントリアの灯がぼんやりと映り始める。


(次は――どんな出会いが、待っているんだろう)


 その胸に、微かな期待と不安を抱きながら、カインはそっと目を閉じた。


エピローグ 第2節:寄り道の記憶、交わる想い


 魔導列車が軌道をゆるやかに滑りながら進んでいく。


 王都セントリアまでの旅路の中、カインたちは小さな寄り道を重ねることにした。


 それは、修行を乗り越え、共に戦った仲間との絆を、確かな形に変えていく時間――

 そして、それぞれの想いが静かに交わっていく、小さな旅でもあった。


 


***


◆【レオナ × 港と祝祭の都市ルクスレーヴ


 最初に立ち寄ったのは、煌びやかな港町ルクスレーヴ


 水晶の塔が輝き、魔導ショーの光が宙に踊るこの都市は、年中祭のような賑わいを見せていた。


「ねぇカインくんっ! 今日はぜーんぶ、ボクに付き合ってもらうからね?」


 レオナは嬉々として腕を組み、魔導アトラクションやスイーツ巡りへと連れ回してくる。


 街の海辺にある魔導噴水レイヴ・ゲートの前で、レオナはふとカインの袖を引いた。


「……ボクね、昔はこういうキラキラした場所にいるの、似合わないって思ってたんだ」


「でも今はちょっとだけ……誰かと並んで歩いていいのかなって思える」


 その横顔は、普段の妖艶なギャルとは違い、どこか儚げだった。


 カインは言葉を選びながら、静かに応えた。


「レオナは、誰かの隣にいる資格、あると思うよ。少なくとも、俺は……」


「――んふ、ありがと♡ じゃあ今夜は、特別に……ナイトショーの後、2人きりね?」


 そう言って彼女は、からかうように微笑んだ。


 


***


◆【フィリア × 再建のシブリア


 次に訪れたのは、かつてアクアリスによって蹂躙された《シブリア》。

 復興の槌音が街の至るところで響き、焦げ跡の残る街路にも活気が戻りつつあった。


 フィリアは神官服をまとい、回復魔法で負傷者を癒やしつつ、街の再建を支えていた。


「こうして人々の笑顔が戻っていくのを見ると……やはり、争いには意味がなかったと感じます」


「私の力は小さなものかもしれません。でも、それでも、誰かを癒せるなら」


 彼女の背に夕陽が差し込み、金糸の髪が揺れる。


「……カインさん。あなたが誰と歩もうとも、私は……あなたを見守っていたいと思います」


 彼女の声は、まるで聖母のように静かで優しかった。


 


***


◆【リオナ × 魔装飾街ハルミュール


 そして最後に、カインはリオナと共に、魔装飾街ハルミュールを訪れた。


 ここは彼女の故郷ではない。けれど、不思議と似合っていた。

 凛々しくもどこか可憐な彼女の姿が、幻想的な街に馴染んでいた。


「……カイン、少し歩くわよ。街案内ぐらいしてあげる」


 そう言ってリオナが連れてきたのは、活気あふれるスイーツ通り《タケシェ=ヴェール通り》。


「これ……美味しそうね」


 目を奪われたのは、宝石のように彩られたクレープ《クリスタル・クレープ》。

 小さく並んだ苺、キラキラ光るゼリー、香ばしい生地――


 カインは微笑んで、2つ注文した。


「エネルギー補給は大事でしょ? リオナ先生」


「……調子に乗るな、バカ」


 そう言いながらも、クレープを頬張る彼女の笑顔は――どこか、少女のようだった。


 


 裏路地の《ミューア通り》では、ペンダントや小物を見ながら肩を寄せ合い、

 聖なる空中庭園《聖樹庭園》では、並んでベンチに座って風を感じる。


「ねぇ、カイン。私……あなたと一緒にいると、強くなりたい以外のことを考えるの」


「……それが、きっと初恋。なんだと思う」


 まっすぐな瞳が、カインを見つめる。


 カインは、その想いを真剣に受け止めるように、頷いた。


「ありがとう、リオナ。……その気持ち、大切にする」


 


 夜、2人は《幻華楼》へ。煌びやかな魔導建築がきらめく中、手を取り合って回廊を歩いた。


 最後に立ち寄った“聖樹の鐘”の前で、リオナはふいにカインの手を強く握った。


「……私の願いが、叶いますように」


 その願いが何かは、言葉にしなかった。


 だが、その手のぬくもりが、すべてを語っていた。


 


***


 再び旅路に戻った魔導列車の中――

 車窓の向こうに、巨大な白塔のような都市の影が見え始める。


 王都セントリア

 かつて数多の勇者が集い、魔王との決戦に向けて旅立っていった始まりの地。


 カインの胸に、微かに緊張と期待が交差する。


(ここから、何が始まるんだろう)


 ――しかし、その想いを見ていた存在が、遠くの城から微笑んでいた。


エピローグ 第3節「歪んだ愛、魔王の微笑」


黒曜石のように輝く漆黒の玉座の間。その中心に座す女が一人、銀白の長髪を波のように流し、赤き瞳に妖しい光を宿していた。


「……ふふっ、ようやく……見つけたわ、愛しいひと♡」


女は、ふわりと指先を動かす。魔法陣が浮かび上がり、その中心には、魔導結晶に投影されたひとりの少年の姿——異世界に転生し、勇者として戦う青年、カイン・アークライトの姿が映っていた。


「昔も、今も……あなたは変わらない。優しくて、真っ直ぐで……ほんっとに、罪な男♡」


その唇から甘く妖艶な声が漏れる。艶やかな黒いドレスが彼女の豊満な身体にぴたりと張りつき、赤き玉座に座る彼女の存在をまるで“神”のように見せていた。


その女の名は——魔王シルヴィア。


地上に混沌を齎す存在にして、ただ一人の男に執着し、狂おしいまでの愛を注ぐ存在。


「誰に微笑みかけてもいい。誰と手を繋いでもいい……でもね、最後に選ぶ相手が私じゃなかったら、絶対に許さないわ♡」


彼女の視線がスクリーンの向こうのカインに注がれる。慈しむような、奪うような、情熱に満ちた視線。


「……貴方が“彼”だった頃から……ずっと、見ていたのよ」


その囁きは、玉座の間の闇に静かに溶ける。


かつて、現実世界で数多のファンを魅了し、白銀の髪をなびかせて歌っていた“彼女”。ステージに立つたびに観客の心を奪っていったその姿は、今はこの異世界で、魔王として“彼”を見つめていた。


誰にも名乗ることはない。だが、かつてのファンなら一目でわかるだろう。


——彼女こそが、「白銀白亜」だったと。


「次に会う時は……もっと近くで、触れられる距離で。ね、カイン……いえ、相坂優希♡」


彼女の唇が、懐かしくも禁断の名前を紡いだ瞬間——空間に揺らめく黒い蝶が一斉に舞い、玉座の間は再び沈黙の闇に包まれた。


物語は、ここで終わらない。


それは愛の物語か、狂気の物語か——その答えは…

ここまで読んでくれて、本当にありがとうございます!!


この第1巻では、異世界に転生した勇者・カインがいきなり挫折したり、

変なヒロイン(褒めてます)たちに囲まれたり、

最初の宿敵(でも惚れてくる)とバチバチやりあったりと、盛りだくさんな内容でした。


第2巻からは、ついに物語の舞台が王都へ。

新しい仲間、新しい敵、そして――ヒロインたちとの関係も、恋愛的にグッと進展していきます!


誰とどうなっていくのか?

誰が一歩リードするのか?

そして、魔王様の“愛”もついに……?


続きも感情爆発な展開を予定してるので、よかったらまた読みに来てください!


お気に入り登録・感想などいただけたらめちゃくちゃ励みになります!

ではでは、また第2巻で!


――如月キャシリア


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