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集団修行と最終試験と休暇

第一節:集団修行、そしてそれぞれの成長


 朝のリーファリア練域には、いつもとは異なる緊張感が漂っていた。

 訓練鐘の音とともに、カインたちは中庭に集められた。


 「今日から一週間、特別な集団修行を行います」


 レイナ・ヴァルティアの声が静かに響く。

 その声音にはいつものような厳しさに加え、どこか“試す”気配が宿っていた。


 「この訓練の目的は、実戦における判断力と連携。

 あなたたちが“勇者とその仲間”として、どれだけ機能するか――それを確かめさせてもらうわ」


 彼女が魔導杖を振ると、空中に淡い光が集まり、幻影の地図が浮かび上がる。


 「第一目的地は、《隠神ノおんじんのやしろ》。霊力が満ちる社で、召喚した魔物との連携戦を実施。

 そこから《サンクチュア・スタジアム》と呼ばれる古代遺跡を通過し、再びこの学舎へ戻ってきてもらう。

 最終試練は、ここリーファリアの模擬戦場での“大型魔物戦”よ」


 「走破だけでも結構な距離ね」


 リオナがきりっと気を引き締める。


 「わー、楽しくなってきたぁ♡ 体力勝負はカインくんがんばってね~?」


 レオナはにこにこしながらカインの腕にぴったりとくっつく。


 「私は回復と支援に集中します。……無理は、しないように」


 フィリアは落ち着いた笑顔を浮かべながら、そっと魔導杖を握る。


 「全行程、走破と戦闘。途中で倒れたら、当然試験失格よ。

 だけど……それを乗り越えた時、あなたたちは確実に次の段階へ進めるはず。

 覚悟なさい」


 ***


 一行はリーファリア練域を出発し、森を抜けて霊力の漂う社《隠神ノ社》へと足を踏み入れた。

 社の中央、大木を背にした石壇の前で、レイナが詠唱を開始する。


 「封じられし獣よ、試練の刻を迎えよ。――顕現せよ、《雷火ノ獅子》!」


 雷と炎を纏った獣が、地を震わせる咆哮とともに姿を現した。

 黄金のたてがみ、火花を散らす瞳――魔力の奔流が空気を震わせる。


 「いくわよ! カイン、前衛をお願い!」


 「了解!」


 リオナがすでに盾を構えて前に出る。

 カインは二刀を構え、彼女と呼吸を合わせた。


 「《緋刃双閃ひばさそうせん》ッ!」


 リオナの剣が炎を纏い、獣の前脚を裂く。

 怒号のような咆哮とともに雷が迸るが、フィリアの《セイクリッド・シールド》が味方全体を守る。


 「今がチャンスだ、カインくん!」


 「行くっ……!」


 カインは前へと飛び込み、斬撃を叩き込む。


 「《双牙斬》ッ!」


 そこにレオナの《ブレイズ・スパーク》が連携し、炎と爆発が交錯。

 獣は一瞬たじろぎ、その隙にリオナの太刀が唸った。


 「《返し討ち・一閃カウンターブレイク》ッ!」


 鋭い光の線が獣を貫き、轟音とともにその姿が崩れ落ちた。


 「……全員、無事?」


 「怪我はありません。問題ありませんよ」


 フィリアが微笑む。


 「さっすが、カインくん♡ ボクたちのリーダーって感じ?」


 「い、いやいや……全員で戦ったからで……」


 「ふふ……謙虚なところも、悪くないわ」


 リオナがそっと呟いた。


 ***


 休憩後、一行は更に西へと進み、古代の競技場跡サンクチュア・スタジアムへと辿り着いた。

 苔むした石壁と崩れたアーチが、過去の栄光を物語っている。

 内部には、古の魔法の残滓が敵幻影を生み出し、連戦が始まる。


 「ここは“戦いの記録”が残る場。無数の戦士たちの想念が、挑戦者を試すのよ」


 レイナの説明に頷くと、次々と模擬戦が始まった。


 敵は重装騎士、魔導士、幻獣――その種類も数も多い。

 だが、今のカインたちは違っていた。


 リオナが先陣を切り、レオナが炎と爆発で援護。

 フィリアが絶妙なタイミングで回復と強化魔法を差し込み、カインは要所で斬り込み、流れを変える。


 全員が信頼し、呼吸を合わせる。

 その連携は、彼らを“真の仲間”へと近づけていた。


 やがて最後の幻影が散ると、石床の中央に青い光が灯り、遺跡が沈黙した。


 「……よくやったわね。これで、あなたたちは帰還する資格を得たわ」


 レイナがそう告げると、全員がほっと息をついた。


 「これにて修行は終了。明日からは一週間の休暇を与えます。

 その後に、“最終試験”が待っているから、心の準備も忘れずに」


 「休暇……! やったぁ! ねぇねぇ、カインくん、どこ行く~?」


 レオナがくるりと身をひねりながら腕を組んでくる。


 「ボクね、行きたいところあるんだ。海とビーチのある……あの港街♡」


 「……“ルクスレーヴ”か。あそこなら、確かに気分転換になるわね」


 リオナが少し顔をそらしながら頷く。


 「私はあまり派手ではない水着を選びます……準備、しておきますね」


 フィリアもやんわりと口元をほころばせる。


 「よし、じゃあ決まりだな。行こう、ルクスレーヴへ!」


 仲間の笑い声が、夕暮れのリーファリアに響いた。

 新たな試練の前に、ひとときの癒しと青春の幕が――静かに上がろうとしていた。


第二節:ルクスレーヴの休日と恋の波打ち際


 訓練の疲れが、波の音に溶けていくようだった。

 煌めく海と魔導の塔が立ち並ぶ港湾都市――《ルクスレーヴ》。

 昼でも街灯が灯るほど賑やかな観光地には、旅人、商人、舞踊師、魔導芸術家が溢れ、色とりどりの旗が潮風に揺れていた。


 「海――来たああああ!!」


 歓声を上げながら、レオナがカインの腕を引っ張って走り出す。

 その姿は、ひらりと波打つパレオに包まれた、まさに“水着姿の魔導師”。

 大胆なデザインのトップスは、見事な谷間を強調していて――


 「えっ、あ、ちょ、ちょっと近……」


 「ほらほら、もっとボクのこと見なきゃ損だよ? カインくん♡」


 きゅっと腕に身体を寄せてくるレオナ。

 彼女(?)はこの日、街の店で選んだというマリンブルーの水着に身を包み、その美貌と肢体を存分に輝かせていた。


 「……はしたない。あなた、もう少し恥じらいってものを持ちなさい」


 後方から冷ややかに放たれた声。

 赤いビキニの上に白い薄布を羽織ったリオナが、ジト目でこちらを見ていた。

 やや露出控えめではあるものの、彼女の引き締まった身体は十分に視線を集めていた。


 「カイン、変なとこ見てたら殴るわよ」


 「な、何も見てませんっ!」


 「ふふ……」


 苦笑混じりにリオナが頬を染めると、その後ろからフィリアがゆっくりと歩いてきた。


 「皆さん、あまりはしゃぎすぎると転びますよ」


 水色のワンピース型水着に、薄く透ける魔導シルクの羽織。

 派手さはないが、母性的な柔らかさと穏やかな微笑みは、海辺の陽光の中で女神のような存在感を放っていた。


 「……お似合いです」


 思わず呟くと、フィリアはわずかに顔を赤らめた。


 「ありがとうございます。でも……少し恥ずかしいです」


 こうして、カインと三人の仲間による、ひとときの“平和な休日”が始まった。


 ***


 海辺では、魔導水球を使った遊びや、焼き貝の屋台、歌姫たちの海上コンサートなどが賑わいを見せていた。

 カインたちはビーチマットを敷いて昼食をとり、それぞれが自由な時間を楽しんでいた。


 リオナは筋トレがてらに浜辺で軽く剣の素振り。

 レオナはカインの隣で日焼けオイルを塗ってもらおうと挑発。

 フィリアは近くの子供たちに水魔法の小技を披露し、静かに微笑んでいた。


 「なあ、みんなって……こうやって、騒いだり、遊んだり……よくあるのか?」


 「どうしたの? 急に」


 「……いや、前の世界じゃ、こんなこと、あまりなかった気がして」


 「ふふっ、だったら、今は“こっち”に馴染んでください。

 私たちは、あなたがここにいることを、ちゃんと受け止めていますから」


 フィリアの言葉が、カインの胸に静かに染み込んだ。


 ***


 夕暮れ。

 ビーチの賑わいが落ち着きはじめた頃、カインはひとり波打ち際に立っていた。


 足元を撫でる潮の冷たさが心地よく、夕日に染まる水平線をじっと見つめていた。


 「……カイン」


 後ろから声がした。振り返ると、リオナが髪を風になびかせて立っていた。


 「今日は楽しかったわ。……ほんの、少しだけ、ね」


 「うん。オレも、来てよかったって思ってる」


 「あなたって、いつもどこか無理してる感じがする。誰かのためとか、誰かに応えようとしてる。

 ……でも、それって自分を壊すこともあるのよ」


 リオナが小さくため息をついたあと、波の音に紛れるように呟いた。


 「……でも、あなたが“私の横に立とう”としてくれてるなら、それは、ちょっとだけ――嬉しいって思ったの」


 「リオナ……」


 ふたりの影が、夕焼けの中に重なる。

 そして、その時だった。


 どこか遠く、高台にある魔導塔の上――


 ひとつの“視線”が、彼らを静かに見下ろしていた。

 黒いマント、仮面、あるいは別の何か。

 その姿ははっきりとは見えず、ただ静かに、そして確かに“彼”を注視していた。


 風が、海を抜ける。

 カインはその違和感に気づくことなく、微笑むリオナと肩を並べた。


 ――その視線が“何者”であるか。

 それを知るのは、まだ少し先の未来だった。


第三節:最終試験、そして旅立ちの朝


 休暇の終わりとともに、再びリーファリア練域に緊張が戻ってきた。

 訓練場の中心、模擬戦用に強化された特設魔導結界の中に、カインたちは整列していた。


 「本日の最終試験は、“導師レイナ・ヴァルティア”との実戦形式。

 第一段階は、召喚術による魔獣戦――ではなく、レイナ本人の“変身形態”との模擬戦」


 リオナの説明に、カインが眉を上げる。


 「変身って……レイナさんが?」


 「ええ。姉さん、本気でやる時は、竜に変わるのよ。しかも、制御型の完全融合魔法」


 「それ、普通の人間がやっていいことなんですか……」


 「さあ、準備を」


 レイナが静かに歩み出ると、魔導陣が彼女の足元に展開される。

 美しい詠唱とともに、彼女の身体は輝きに包まれ――次の瞬間、黄金の鱗に覆われた竜の姿が結界内に出現した。


 「……本気だ」


 「いっくぞー! カインくん、燃えてこー!」


 「連携重視で、無理は禁物です」


 リオナ、レオナ、フィリアがそれぞれに構え、カインも二刀を抜く。


 黄金竜となったレイナは、知性を宿した瞳で彼らを見下ろした。

 その瞳に、怯えも情けもない。――弟子として“本気で試す”意志だけがある。


 「来なさい、勇者」


 竜の声が低く響いた瞬間、戦いが始まった。


 「右から来るッ!」


 カインが叫ぶと、リオナが跳び出し、盾で前脚の攻撃を受け止めた。


 「《緋刃双閃》!」


 「《ブレイズ・スパーク》!」


 「《フォース・ブレス》、全体展開!」


 連携が決まり、カインが一気に懐に飛び込む。


 「喰らえ――!」


 だが、次の瞬間、竜の尾が一閃し、カインを吹き飛ばす。


 「ぐっ……!」


 「カインくん!」


 「下がって、フィリア! 回復を!」


 「はい、《ヒール・ライト》!」


 再び立ち上がるカインに、竜の瞳が向けられる。

 その瞳には、わずかに――笑みが宿っていた。


 「……試すに値するな」


 レイナの声が戻った瞬間、竜の身体が光の粒子となって崩れ落ち、人の姿へと戻っていく。

 しかし、息つく間もなく、レイナは今度は人の姿のまま剣を抜いた。


 「次は第二段階。私自身が、勇者としてのあなたを確かめましょう」


 その言葉に、仲間たちがカインを見つめる。


 「カイン……ここからは、あなたの戦いよ」


 リオナが真剣な眼差しで頷いた。


 「行け、勇者くん♡ ボクらのリーダーだもんね」


 「あなたなら、きっと勝てます」


 カインはゆっくりと一歩、前に出る。


 「……わかりました。師匠。全力で、いかせてもらいます!」


 剣が交錯するたびに、風が唸り、地面が裂ける。

 レイナは一切手を抜かず、剣技・魔法・体術を織り交ぜて攻めてくる。


 (速い! 重い! けど――)


 彼女の動きには、確かに“導き”があった。

 攻撃の隙には微細な調整が施されていて、弟子が“読める”範囲で組み立てられている。


 (これは……教えてくれてる……剣で、魔法で、“お前は立てるか”って――)


 「俺は……絶対に、負けられないんだ!」


 「ならば――来なさい!」


 最後の一撃が激突した瞬間、光の衝撃が弾けた。

 静まり返った空気の中、立っていたのは――カインだった。


 「……合格です、カイン・アークライト。あなたは、間違いなく“勇者”としての資格を得たわ」


 「……ありがとうございます、導師様」


 レイナはそっと微笑み、頭に手を置いた。


 「さあ、全員で前へ進みなさい。次は……この世界そのものが、あなたたちを試す番です」


 その言葉に、仲間たちは静かに頷いた。


 ***


 その夜、月光が照らす高台の影に、“誰か”が佇んでいた。


 マントに包まれたその姿は、仮面のようにも、獣のようにも見えた。

 その目は、遠くの訓練場をじっと見つめている。


 「――ようやく目覚めたか、“彼”が」


 声のない声が、風に紛れて消える。


 闇は、確かに動き出していた。


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