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それぞれの修行、始まりの絆

第一節:戦士、魔導師、神官との出会い


 翌朝、リーファリア練域の空には薄雲がかかっていたが、風は爽やかだった。

 カインは目覚めと同時に身支度を整え、学舎の中庭へと向かった。


 昨日の夜、見かけた3人の人物が、今朝は並んで立っていた。


 「ようやく来たわね、勇者さん」


 最初に声をかけてきたのは、赤いポニーテールの女戦士だった。

 鍛えられた身体に赤系の戦闘服、鋭い眼差しと背筋の通った姿勢。

 声は強気でハキハキとしており、まるで軍人のように厳格な印象を受ける。


 「私はリオナ・ヴァルディア。導師レイナの妹で、今日からあなたの剣の指導を担当するわ。……覚悟してね」


 カインが反応する前に、今度はその隣に立っていた金髪の人物が近づいてくる。


 「ねぇねぇ、カインくん♡ 思ったより可愛い顔してるじゃーん♡」


 緩やかにウェーブがかかった金色の髪。艶やかな肌と、大きく開いた胸元。

 第一印象は“完全に女の子”だったが、ふと視線がぶつかった時、どこか中性的な色気を感じさせる。


 「ボクはレオナ。魔導担当の先生ってことでよろしくねぇ♡」


 「……あの、君って……」


 「ん? なになに、気になるのぉ? ボクの性別の話ぃ?」


 レオナはわざとらしく胸を張って笑う。


 「内緒♡ 魔法も恋も、謎めいてる方が萌えるでしょ?」


 戸惑うカインに、最後に声をかけたのは静かで穏やかな女性だった。


 「初めまして、カインさん。私はフィリア・ルミナスと申します。癒しと支援を担当いたします」


 その声は、水のように澄んでいて、落ち着いた印象を与える。

 青く長い髪と尖った耳、白と水色の神官服。どこか神聖な雰囲気を纏っていた。


 「ウンディーネとエルフ、シルフ、人間の混血……と言えば、少しは珍しがっていただけるでしょうか」


 「い、いえ……なんか、皆さんすごくて……」


 カインは一歩引きそうになるのを、ぐっと堪える。

 リオナの鋭さ。レオナの妖しさ。フィリアの母性。

 それぞれが圧倒的に“プロ”の雰囲気を放っている。


 (でも――ここで逃げたら、何も始まらない)


 その時、レイナが現れた。


 「さて、紹介は終わりましたね。今日からあなたたちは、正式に“仲間”として修行を重ねていきます。

 それぞれの得意分野を担当し、カインに鍛錬を施してください」


 「了解」


 「ボク、優しくしてあげるぅ♡(時々、厳しくね♡)」


 「はい、導師さま」


 彼女たちの返答に、カインは一礼して答えた。


 「よろしくお願いします!」


 これが、勇者と仲間たちの、絆の第一歩だった――


第2節:修行の日々


リーファリア練域の朝は、鐘の音とともに始まる。


「……今日も、逃げないことね」


訓練場に立つカインに、赤髪の女戦士・リオナが厳しく言い放つ。その口調には確かな信頼と期待が滲んでいた。


カインが剣を構えると、リオナは微かに口元を緩めてから抜刀した。


「さぁ、来なさい。今日は昨日より一段厳しいわよ。……あなたなら、乗り越えられるわ」


彼女の剣は真っ直ぐで鋭い。だが、その動きの中にほんの一瞬だけ、迷いを拭うような優しさが見えた。


「強くなって……あなたと並び立ちたいの」


その小さな呟きが、風に紛れて消える。


カインはその声に気づかぬまま、真剣な眼差しで剣を振るい続けた。



午後には、魔法訓練場でレオナの指導を受ける。


「はーい、カインくん♡ 今日はちゃんと魔力の流れ、整えてきた?」


レオナはいつものように艶やかな笑顔で歩み寄り、腕を組んでぴったりと寄り添ってくる。


「ほらほら♡ 火の魔法ってのは情熱が命なんだからね? しっかり感じて、燃やして♡」


(あいかわらず距離が近すぎる……!)


とはいえ、魔法の説明は的確で、レオナの本気度もカインには伝わっていた。


「……それにしても、カインくんの魔力って、なんか……ドキドキするんだよねぇ」


「な、なんでそこで頬を赤らめるんだよ!?」


「んふふ♡ どうしてだと思う?」


そんな彼女の姿に、カインは不思議な“ときめき”を覚えるが――まだ、それは恋というよりも予感に近いものだった。



夕方。庭園では、フィリアとの回復魔法訓練。


「深く息を吸って……はい、《ヒール・ライト》を私の真似で」


柔らかな光と共に、フィリアの魔法が空気を浄化するように流れていく。


「あなたの力は、きっと誰かの心を救えます。だから、焦らないでください」


フィリアの声は、まるで祈りのように優しい。


だが、彼女は決して踏み込もうとはしない。ただ静かに、微笑みながら寄り添うだけだった。



第3節:仲間と夜を過ごして


夕食の後、リオナが静かに声をかけた。


「カイン。ちょっとだけ、外を歩かない?」


月明かりの下、2人で歩く夜の庭園。


「あなた、頑張ってるわね。……見てると、心がざわつくの。たぶん、これって……」


そこで言葉を飲み込んだリオナは、小さく笑って続けた。


「……まだ言わない。けど、訓練だけじゃなくて、気持ちもちゃんと、受け止めてよね」


その言葉に、カインは真っすぐ目を合わせ、ゆっくりと頷いた。



その後、レオナがひょっこり現れた。


「ねぇねぇ♡ さっきリオナちゃんとデートしてたでしょ~? ずるいなぁ……ボクも交ぜて♡」


軽く言いながらも、どこか少し拗ねたような笑顔。


「でもね、焦らないよ。だって……ボク、まだ“始まったばっか”って思ってるから」


レオナの言葉には、未来を見据えた芯の強さがあった。



フィリアとは、神殿棟前で星を眺めながら静かな会話。


「私にとって、誰かを“想う”というのは、ただの感情じゃないんです。

 ……それは、信じたいという祈りなのかもしれません」


彼女の言葉は穏やかで、けれど決して踏み込みすぎることなく、そっとカインの隣に立ち続けてくれていた。



その夜。


ひとり中庭で剣を振るカインに、レイナが声をかける。


「仲間がいると、人は強くなれる。そして、愛を知ることで……迷いも、乗り越えられるのです」


カインは剣を収め、静かに応えた。


「――俺、絶対に負けません。今度こそ、守るために戦える自分になります」


空を仰ぐと、満天の星が瞬いていた。

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