Episode︰2
その銃声は生徒の群れの前方の方から聞こえた。
明らかにホールの空気が変わったのを感じる。
そしてホールから人が雪崩のように出て行く。
俺はなぜだか分からないがボーッとしていて気付けば取り残されていた。
ふと、シャンデリアの明かりが再度つく。
この感じ完全にジャックされているみたいだ。
ホールの奥の校長先生が立っていた表舞台には黒いローブを着てそのフードを被るいかにもテロ組織といった感じのオーラを放つ10数人の集団が立っているのに気づく。
そして、表舞台より前の空間には『強い教師3人』と『優秀なクラスᏚの生徒十数人』の集団も見える。
その優秀な集団の中でふとランクA所属の赤髪の男の子を見つける。
(ライバ……!?なんでここに早く逃げろよ)
俺はそう思いライバに声を掛けた。
「なんでお前がここに!早く逃げろよ」
「か、カメタ!?それはこっちのセリフだ!」
そのライバのセリフのあと、突如として銃声が鳴り響く。
ふと、ライバの左半身に透明の大きな膜が形成され銃弾が弾かれるような音が軋む。
(ライバが狙われて撃たれた……!)
俺は恐怖に身体が縮こまるのを感じた。
ライバは撃たれたと言ってもクラスᏚの誰かの防御スキルで間一髪で死を回避したみたいだ。
敵の攻撃意識はかなり強いのが分かる。
「う、撃たれた……」
ライバは恐怖と同時にその撃たれたという事実に怒りを感じたらしい。
テロ組織の方を向きターゲットをロックオンしたライバは表舞台まで瞬時に走った。
その走りは音速の如く速かった。
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
ライバはその掛け声と共にテロ組織集団のローブに向かってスキル『光の弓』を発動させた。
光速の白き矢が連射し、テロ組織を『全体範囲攻撃』で狙い打つ。
ふとリーダー格のオーラを放つローブの一人が声を上げる。
「この程度で殺れると思っていたか……」
その落ち着いた声と同時にライバの『光の弓』の全体範囲攻撃はテロ組織集団の左端にいたローブの一人の防御スキルによりいとも容易く全体範囲の盾を展開され、全て防がれてしまった。
そして……
「ガッハッ……!!!」
ライバは身体から血を吐き出しホールの床に倒れ込んだ。恐らくリーダー格の男の隣にいるやつの攻撃スキルだ。
スキル内容は"魔法の拳銃"と言ったところか……
倒れるライバを見た教師の一人が咄嗟の判断でライバに回復スキルを使用する。
その回復スキルは有名な超級スキル『神・聖星輝』だった。
超級スキルとはこの世界におけるスキルの上位階級の事だ。
下級・上級・超級とあり最後に神級がある。
まぁ、『神級』なんてのは神話レベルの話でありお伽噺のような物だが……
「もう何やってんのよだらし無いね!」
ふと可愛いソプラノの声が聞こえその声の方向を見る。
クラスᏚ所属の『サリィ・ウルビーノ』
彼女は種族が人間ではなく吸血鬼の女の子だ。
黒い羽を背中に持ち、小さなツノを頭に持つ。
幼少の頃からこの魔法学校に入学していた天才だ。
現在の年齢は11歳である。
ゴスロリの青黒い服装をしている彼女はそのスカートをヒラヒラさせていた。
ライバはサリィに「ふん……!」と鼻を鳴らし威嚇をした。
サリィはそれを華麗にスルーしテロ組織に向かって叫んだ。
「あんた達……!よくも全校集会をめちゃくちゃにしてくれたわね!とっとと片付けちゃうんだから!」
すると、その発言にリーダー格のローブが言葉を返す。
「ふん……片付けられるのは果たしてどちらかな?」
「うるさい!」
サリィの怒号がホールに響いた。
その後、音速の如く彼女はスキルを繰り出した。
超級スキル『阿修羅』。
(巷では聞いていたが生で見られるとは幸運だぜ……)
俺はそう胸の中でガッツボーズを決めた。
阿修羅を発動させたサリィは赤色のオーラを纏っていた。
その後、高速を超えるレベルの『速さ』でテロ組織集団へ向かっていく。
無論、光を超える速さなので実際には目では追えない。その為、何だか分からなかったが何人かのテロ組織集団が倒れ込んでいるのが分かった。
「や、やった……!」
俺はいつの間にか隣に来ていたライバと歓喜の声を上げ、教師やクラスᏚの集団も同じく喜ぶ。
すると、リーダー格のローブが話し出す。
「ほう……やるではないか。では本気を出すとしよう」
くくく……とそいつが小さく嗤ったあと、俺の目の前では高速の戦いが繰り広げられた。
サリィのスキルと同じくその戦いはクラスBの俺では到底理解不能であった。
僅か10秒程でコチラの戦力はほぼ0へと落ちた。
つまり惨敗したのだ。
ボロボロになった教師とクラスᏚ集団を尻目に俺とライバはガタガタと震え出す。
(お、終わりだ……!)
俺はそう心でつぶやく。ライバは俺とは違いまだ立ち向かう意思を見せていた。
「やってみろよぉ!!」
そう叫びライバはまた『光の弓』を放つ。
勿論、表舞台の奴らに向かって。
今度は全体範囲攻撃ではなくリーダー格のローブに一点集中させ確実にリーダー格を倒す算段だ。
しかし……
バシャ……!!
いとも簡単にそれを見た事もない攻撃スキルで弾かれてしまった。
その攻撃スキルは見たところ『水を扱う物』でバシャという水の音がホールに響いていた。
そしてリーダー格のローブの男は余裕綽々と言葉を告げる。
「哀れな者だな……」
そう言い表舞台の階段からゆっくりと降り、俺とライバの目の前まで来る。
「やめろ……」
戦意喪失のライバは静かにそう言うが、それを無視しその男は笑いながらスキルを発動させた。
気付けば男の目の前には長さ3mはある透き通る水の大剣がありライバの胸元まで音速で駆け付ける。
水の大剣は水とは思えないくらいの切れ味でライバの胸元に刺さりダメージを与える。
「ぐ……はっ!!」
「ふはははは!!無力とはなんと悲惨なのだ!」
俺はその隣で咄嗟にスキルを発動させていた。
例え下級スキルのキュアハーツでも!
全く意味がなくとも!!
だって回復させなきゃライバが死んでしまう……!
視界が歪み絶望感が胸に漂う。
「ちくしょぉぉぉぉ!!」
その時だった。
覇王のような威圧が身体の淵から飛び出すのを感じた。
「な、なんだこの威圧感は……」
リーダー格のローブが俺を見て動揺しているのが見える。
「死ねよ」
怒りの篭った声でそいつに言い俺は片手を向ける。
その片手から信じられない程の白い蒸気の波動が飛び出しローブの男は吹き飛ばされた。
俺は自分でも信じられない事態に少し動揺したがすぐさまライバに振り返り、胸元に真っ赤な致命傷を負ったライバに回復スキルを唱えた。
(俺の下級スキルじゃ大して回復しないだろうけど。やらないよりマシだ……)
しかし、信じられない事がまた起こる。
ライバの身体は一瞬で何事も無かったように新品と化したのだ。
「あれ?痛くない」
そして全快のライバはそう呟いた。
「ライバ!本当に無事か!」
俺はすぐさまライバに問い掛けライバはそれにすぐに頷いた。そして驚いた顔で俺に言い放つ。
「それよりお前その回復力どうしたんだ!?」
「いや……自分でもよく分からない」
「な、なんだよそれ。そうだ!よく分からないけど先生とかクラスᏚの奴らも回復してやれよ」
「お、おう!」
俺はライバにそう言われすぐさま倒れ込んでいる集団へと向かう。
その時だった。
「させるか!」
リーダー格のローブの男が起き上がり、ライバの時と同じ水の大剣を俺に向かって飛ばしてきた。
俺はそれに気付けば両手を掲げていて透明な盾を形成し防いでいた。
(あれ?防御スキル!?)
「なに!?貴様やるな!」
ローブの男は焦ったようにそう言い、表舞台の仲間に命令を下す。
「おいお前らこいつに一点集中で攻撃だ!」
ローブの集団はそれを承知し、俺に攻撃を仕掛けてきた。
音速の如く迫る銃弾やファイアボール。
黒い波動などを蒸気の攻撃で全て相殺した俺に
テロ組織集団は焦り散らす。
「な、なに!?俺の超級スキル『ライフルガン』がいとも簡単に!?」
「私の『炎の剣技』がっ!」
「俺の防御スキルが全く歯が立たないだと!」
そして、リーダー格のローブの男も焦り散らしていた。
その焦りからか、男は例の透明な水の大剣をまたしても俺に撃ってきたのだ。