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自称転生者が冒涜的な調理法を用いて名状しがたき料理を作る街

作者: 二筒

 やあいらっしゃい。私が移住審査官です。といってもそんな堅苦しい審査はしないんだけどね。君が移住希望者でいいのかな?合ってるね?


 さて、先にこの街について説明しておくね。外の世界でも色々噂を聞いて移住を希望してくれたと思うんだけど、まあ半分は正しくて半分は間違ってるんじゃないかな。昔は噂と実態がほぼ一致してたんだけどね。しばらく前に自称転生者さんが引っ越してきてからというもの色々とね……いや、彼はそんなに頻繁にトラブルを起こすわけじゃないよ。ただちょっと排他的だったり街に馴染んでくれなくてね……その頃からか何かこの街について変な噂が流れたりしてさ……証拠もなく疑っちゃいけないんだろうけど……


 ああ、そうそうその人だよ。外の世界じゃあ有名な人だったのかぁ……まあ転生者を自称している時点でよくわからない人だなあとは思ってたけどさ。


 さて、まずこの街の歴史を軽く説明しようかな。ずっと昔は海神様を祀る村だったんだよ。あ、過去形なのは村の部分ね。海神様は今も昔もずっとお祀りしているとも。で、そこから人が増えて町になって街になった。なにせ海神様の加護がある海辺の街だものじゃんじゃん魚が取れて平和で、あっという間に人が増えたよ。当時は移住者なんて誰でもウェルカムで活気が溢れて、気楽でいい時代だったなあ……あ、ごめんごめん話がそれちゃった。


 で、この街に住むということは基本的に海神様を祀ることに協力するってことでいいよね?信仰しろとまでは言わないけどさ、最低限神様を敬ってほしい気持ちはあるんだ。それができない人がいるってことがわかったからこうして移住する人に事前に審査っていうか説明会というか面談することになったんだよ。


 海神様を祀ることに協力してくれれば、もれなく加護がもらえるよ。ほら、このエラとかがそうだね。こうしていろんな種族が海の幸を取れるようになって、神に頼ることなく自立してほしい、って言うのが海神様の教えだからね。昔は海神様が浜辺の方まで魚を追い込んでくれたりしてたらしいけど、今はもうそういう手助け無しでみんなでうまくやってるんだよ。山の方の狩猟の神の加護だって弓がうまくなるとか足が早くなるとかでしょ?草原の方の狩猟の神の加護だと下半身が馬になるんだっけ?あれいいよねえ。逃げ足も早くなるらしいし。でも獲物を集めてくれたりするような神様ってもうほとんどいないって聞くじゃない。人が住むには厳しいところだとそういった手助けをしてくれるときがあるって言うけど今はもうねえ。


あ、あとこの水かきも加護だけど、これは人によって差があるね。細かい手作業をやる人はあんまり水かきが発達しないみたいだね。毎日泳いでると発達するのは間違いないんだけど、こうやって……こうすると……ほら、こんな風に引っ込むから邪魔にはならないよ。


 鱗?鱗なんか生えないけど?ああ、それは間違った噂の1つだね。鱗が生えてる人はもともと魚人族なんだよ。それが海神様の加護で陸でも生活できるようになった人たちさ。陸だと火が使えるからって海神様に捧げる料理の研究をしてる人が多いね。もちろん自分たちで味見するんだけどね。グルメなだけじゃないかってよくからかわれているよ。


 他にも気になる噂はあるかい?尻尾?あー……それは合ってるとも間違ってるとも言えるなあ。人魚族の人は最初から下半身は尻尾なんだよ。獣人族の人の尻尾が魚の尻尾になるケースがあるのは海神様の加護で一時的なもので、あとは高位の巫女さんとかは海中の神殿にお参りしたりするからね、そういう人たちも一時的に下半身を魚の尻尾にしてもらったりしてるね。うん、さっきの草原の狩猟の神の加護でさ、下半身が馬になっても元に戻るでしょ?あれと一緒だよ。陸でも尻尾だと不便でしょ?だから元に戻るのさ。


 新月の夜の儀式?そんなのあったかなあ?え?あの岩礁にみんなで捧げ物をするって?うーん???なんだろうなあ。いやね、満月と新月は大潮の晩だからさ、あの沖の岩礁も沈んじゃうんだよね。だから儀式って言われてもなあ。生贄を捧げる台?ますますわからないよ……一体誰から聞いたどういう噂なんだい?


 ふむ……そういうことか。そっかぁ、そいういう妙な話じゃないんだよ。確かにそれらしいことは過去に1度だけあったけどさ。神鳥の渡りって知ってるかい?そうそう神獣の代替わりの儀式さ、神鳥は海を超えて旅をする試練だったりするあれ。数年前に神鳥の代替わりがあってさ、不死鳥が渡ったじゃない?あの不死鳥さんは海上で竜巻に巻き込まれたらしくってね。力尽きてあの岩礁の上に降りたのさ。あとちょっとで陸だけどそこまで飛ぶ体力もなかったらしくって。で、その夜がちょうど新月だった。あのときは焦ったよ。神鳥の渡りに誰かが手を貸すことはできないから不死鳥さんを陸まで避難させることはできないでしょ?だからみんなで岩礁の上に台を作ったのさ。満潮でも水没しないようにってね。もちろん階段も作って、不死鳥さんがよたよたしながら自力で台の一番上まで登るのをみんなで応援しながら見届けた。多分それのことじゃないかなあ?え?自称転生者さん?あの人は海神の加護がないみたいだからね、自力で岩礁まで泳ぐのは無理だし参加しなかったよ。多分自宅から眺めて勝手に勘違いしたんじゃないかなあ。近所付き合いも全然しない人だし。


 他に先に聞いておきたいことはあるかい?移住してからでもいいけどさ。一旦引っ越しちゃうと次の引っ越しっておっくうでしょ?自称転生者さん?あの人のことが聞きたいの?ひょっとして外の世界じゃあ相当有名なのかい?あの人。


 へー……たまに分厚い手紙を出してると思ったけど、あれって原稿だったのか。僻地に残る忌まわしき風習ねぇ……それが本になって色んな人が読むのかい?……ふーん。


 うーん。君はその本が愛読書で、ぜひこの目で見たいと思って移住を決意したと……そういうことなら移住はお勧めできないよ。拒否するつもりはないけどね。君が期待しているような冒涜的って言うのかな、そういう風習とか儀式は無いもの。それに最初に説明したけど海神様の加護のある街だからさ、海神様を侮辱するようなことを積極的にやるのってどうなんだろうね?君はどう思う?


 例えば君が結婚していて、君の奥さんが魚が食べられないとするでしょ?でも食生活は個人の問題だし、暮らしにくいかもだけど我々は歓迎するし、海神様をお祀りするのに問題にはならないでしょ?そういうことだったら我々も、よく考えて移住を決断してくださいね。って言うだけさ。そうだろう?


 あんまりこういうことを言うのは良くないけどね、君があの自称転生者さんに憧れてるとか、冒涜的なことに興味があるというなら、この街で一番冒涜的なのは自称転生者さんだよ。海神様の像を見たかい?そうそうタコとかイカとかに近いって思っただろ?自称転生者さんはね、タコを切り刻むのさ。いや、我々もタコやイカを食べないわけじゃないよ。でも海神様に似ているんだから他の魚や貝よりもたくさん感謝して食べようってことでなるべく原形に近い形で食べるんだよ。彼はそれを切り刻むんだ。そして小麦粉とかと混ぜてボール状にして焼いて、中にタコが入っていることをわからないようにするんだ。我々からすればなんとも冒涜的で名状しがたい忌まわしい料理だよ。

 あろうことか、ある日彼はそれを街のみんなに食べさせたんだよ。あれが未だにどういうつもりだったのかわからないんだけどね。善意だったのか悪意だったのか……結局大騒ぎになって、それ以来彼はこの街じゃあ腫れ物扱いだよ。知らずにやったことだって一言謝ってくれれば誰も責めたりしなかっただろうけどさ、今でも彼の家ではあの料理が作られてるって噂だよ。まあ他人に見られないように気を使ってくれているなら、あとは彼の自由だからやめさせたりはしないけどさ。


 え?街で襲われたら刻んだタコを投げつけると安全?それも本に書いてあったの?あのさあ、言っちゃ悪いけど君は移住してこないほうがいいよ。この街はそうそう人を襲うような事件は起きないよ。海が好きで魚とかの海の幸を食べるのが好きっていう人が集まってできただけの平凡な街なんだ。どこの街だって村だって何かの神様を祀ってるだろ?それをないがしろにしようとする人が住みやすいと思うかい?その本がどれだけ売れているかは知らないよ。でもこの街のことを悪く書いて、それを信じて冒涜的なことをしようとする人は移住しないほうがいい。海神様も今は許してくれているかもしれないけどね、加護がもらえるということはバチが当たることだってあるってことさ。


 うん。わかりました。今回は御縁がなかったということで。いえいえ、不快に思うというのはまあありましたけどね、それよりも彼を早くこの街から逃さないとですね。そうそう、バチが当たる前に逃がしてあげないと。君はその本が出るたびに買ってるんでしょ?そのうち彼が街を出た話が書いてあったら、無事に逃がしてあげられたんだなって思ってくれると嬉しいかな。


 はい。じゃあ今日はお疲れ様でした。良い移住先が見つかるといいですね。


たこ焼きを食べていてふと思いついたので。

自称転生者さんは、神様を信じてなくて街の文化を学ぼうとしないままタコパをやりました。

彼が定期的に書いてる原稿の元ネタは、きっと前世で読んだ小説が元ネタなのでしょう。想像でゴシップ記事を書いているつもりなのか、もしも妄想も現実の区別がつかなくなっているなら町の人達は彼が岩礁にダイナマイトを放り込む前に街から出てってもらう必要があるに違いないです。多分。きっと。

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