第31話 哀しみの蒼穹
───その日は前線に赴き兵士たちを鼓舞する予定だった。
だが実際には自分たちの敵であるはずの蛮族王の軍勢は10日も前に撃退されていたのだ。
何も知らされずに現地へ赴いたルクシオンを待ち受けていたのは味方であるはずの者たちの裏切りであった。
武力で討つことはできない事を理解している彼らは手にした幻竜武器の力を結集し彼女を封印空間へ閉じ込めようと試みる。
幻竜武器……後の世に聖遺物と呼ばれる事になる竜の魔力を秘めた武具であった。
自身を取り囲み、それぞれ手にした武器を天に掲げている騎士たち。
その頭上にあるものは巨大な黒い球体……次元の穴だ。
それが今、バチバチと青白く雷光を放ちながら迫ってくる。
直下の彼女を飲み込まんとして迫ってくる。
立ち尽くすルクシオンは自らを飲み込もうとするその虚空の穴の吸い寄せる力に必死に抵抗していた。
「何故です!! 何故貴方たちが……私を……!!! フォルキス……ッッ!!!」
叫ぶルクシオン。
騎士たちを率いる男は沈痛な表情で自分を見ている。
「わかりますまい……貴女には!! お恨みください!! 薄汚い裏切り者だと!! だが……我らはこうするより他ないのです!!!」
騎士団長は……フォルキス・バルディオンは慟哭している。
「わかりますまい!! 我らがどれ程貴女がたを恐れていたか……怯えていたかという事など!!」
「フォルキス……」
涙する反逆の団長にルクシオンが呆然とする。
「……人と竜は共には歩めぬのです!! 姫神様!!! ルクシオン様ッッ!!!」
……そして、
全ては闇に閉ざされた。
「…………………………」
ゆっくりと目を開く。
徐々に覚醒していく意識。鮮明になっていく景色。
ルクシオン・ヴェルデライヒは肺から息を押し出した。
……夢を見ていた。昔の夢を。
静寂の玉座。
青い鎧に白いマントのルクシオンが座っている。
今の聖殿には彼女以外には誰もいない。
(……うたた寝をしていたのね)
緩慢な動作で彼女は首を傾けると聖殿の外を見る。
辺りはまだ暗い。
だが……夜明けは間もなくだった。
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「下を、下を見るなよ……いいかッ! 下は見るなよ……!!」
「い、い、い、言わないで下さいよメイヤーさん。猶更意識しちゃうじゃないですか……!!」
空へと続く瓦礫でできた螺旋階段を登りながら騒いでいるメイヤーとクリスティン。
眼下の景色は遥かに遠い。
足を滑らせれば一巻の終わりだろう。
「そんなに騒いだら着く前に疲れちまうよ」
あきれ顔のキリエッタ。
残りの面々は平然と階段を登っている。
「思った以上に遠いな」
「……下から見上げてた感じだとどの位の高さにあるものなのかとかよくわかりませんでしたからね」
カエデの言葉に心なしかげっそりしているクリスがうなずいた。
「考えてみればこの国の一大事だというのに異人ばっかりではないか」
今自分のいる高度を忘れたいが為かブツブツとメイヤーは文句を言っている。
「リーダーがこの国の人間なのだ。構うまい」
そんな彼の肩で白猫が言う。
何となく全員の視線がクリスティンに集まった。
「はい……? 私? 私……リーダーです?」
「そうだ。お前が行くと決めたので皆付いてきたのだ。リーダーと言わずして他に相応しい肩書はあるまいよ」
呆気にとられているクリスにうなずくアルゴール。
誰もその事に異存はないようである。
リューやキリエッタもルクシオンとの戦いを望んではいるものの、それはそれとして他の全員が行かないとなれば1人で空まで行こうとはしなかっただろう。
……破壊されようとしているこの都にも命を懸ける理由となるような思い入れも義理もない。
「そ、そうですか……。なんだかムズ痒いような。責任感が湧いてくるような?」
照れ笑いをするクリスティンであった。
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東の空が薄っすらと白んでくる頃、ようやくクリスティンたちが浮遊大陸へと到着する。
踏みしめた草の大地の感触はしっかりしていて、ここが空の上だなどとはとても思えない。
階段の先には緑の大地が広がっていた。
「はぁ~っ……疲れましたね」
クリスは座り込んでいる。
肉体的な疲労はともかくとして高度による緊張感から精神的に消耗する登攀であった。
「まだようやくスタート地点まで来ただけだぞ」
そう言うカエデは流石に一流の密偵。
疲労のようなものはまったく感じさせない。
「この辺はただの野っ原か。金目のものはなさそうだ。ほらさっさと行くぞ」
急かすメイヤー。
この男も大概タフである。
「あっちに街っぽいものがあるね」
キリエッタが言う方を皆が見ると確かに白い石造りの建物の並ぶ市街のようなエリアがある。
『……ようこそ。私の蒼穹聖殿ザナドゥへ』
「! ルクシオンさん……!」
声が聞こえて慌ててクリスティンが立ち上がった。
『急がなくていいわ。時間は沢山ある』
聞こえてくるルクシオンの声には感情というものが感じられない。
淡々としていて……乾いている。
『……少し話をしましょうか』
市外へ向けて歩き始めた一行の頭上で竜の血を引く姫の言葉が続く。
『このザナドゥは私たちレム・ファリアスの神域。祭事や儀式のある時にだけ呼び出すようにして普段は私の幻竜武器の作った結界に収納していたわ。これだけのものが常に空にあると地上に大きく影が差してしまうから』
クリスティンたちは知る由もない事であるが、このザナドゥを封じていたのが数か月前に彼女が取り返した聖剣オメガである。
あの日……封印されて彼女が歴史から消えた日、彼女はオメガを帯剣していなかった。
だが彼女は死んだわけではないので聖剣は次の所有者を選ばず、浮遊大陸も結界の中に封じられたままだったのだ。
『フフ……貴方たちには聖遺物と呼んだ方がわかりやすいでしょうね』
空虚な笑い声を短く挟んで彼女は言葉を紡ぎ続ける。
『あれの本当の名前は幻竜武器、爪や牙……ドラゴンの一部を用いて錬成された武具。所持者の魔力に呼応して独自の結界世界を作り出す力を持つ武具』
クリスティンたちが無言で市街に足を踏み入れる。
美しい造りの白亜の建物が連なる無人の街に。
『「失われし聖域」……貴方たちは相手を攻撃することばかりを目的として物騒な結界ばかりを作っていたようだけど、本来はこういう巨大な何かやドラゴンを収納するための魔術だった』
ふと、クリスは通りを楽し気に笑顔で走る数人の子供の姿を見る。
その後ろには犬ほどの大きさの小さな竜がついてきていた。
瞬きの間に消える蜃気楼。
それは彼女に流れる竜の血が見せる過去の幻影だったのだろうか……。
市街を抜けた先は中心部。
そこに聳え立つのは巨大な純白の聖殿。
神聖にして荘厳たる竜神の祀られた聖殿だ。
……そして、そこの主は建物の中ではなく入り口で彼らを待ち受けていた。
竜の血を引き、竜の声を聴く巫女。
姫神と呼ばれて敬われていたレム・ファリアスの指導者。
ルクシオン・ヴェルデライヒ。
「ここが終わりよ。貴方たちの旅の終わり」
長槍を手にしたルクシオン。
腰に聖剣オメガを佩いてはいるが彼女の本来の得意武器は槍である。
先端には大きな刃の付いた東洋のナギナタに似た槍だ。
赤い髪の男がルクシオンに向かって1歩進み出る。
「退く気はないのか」
「それを貴方たちが言うの? ジルを殺してここまで来た貴方たちが。……私も同じよ。私は私の意思を……」
持ち上げた槍を……その鋭い切っ先をリューたちへ向けて突き付ける。
夜の色をした彼女の瞳が一瞬金色に輝いた。
「力で押し通させてもらうわ」
浮遊大陸が鳴動する。
竜の姫の力が巨大な陸地を揺らしている。
だが、もうそれに怯む者はいない。
「私の破壊も貴方たちの阻止も戦いの果てにしかない。来なさい。……どちらの望みが強いのか、見せてもらうわ」
クリスたちも……そしてルクシオンも、全員が同時に地を蹴っていた。
真正面から、上から、側面から……各自思い思いの方向からルクシオンに襲い掛かる。
キリエッタの放った鞭とリューの真正面からの打突……その着撃は同時。
前のように無防備で受けようとはせずルクシオンは斜めに構えた槍で2撃を同時に受け止める。
「ジルを殺せたという事はもうドラゴンスケイルを破る方法を見つけたという事でしょう」
攻撃を受け止めた槍の向こう側で細めた瞳を冷たく輝かせたルクシオン。
「凄いわね。この短時間で。……だけど、それだけではまだ私の脅威にはなれない」
槍を振るう。
石突で打たれたキリエッタは吹き飛ばされ次に来た蹴りをリューが両腕を上げてガードする。
「……ッッ!!!!」
歯を食いしばる赤い髪の男。
ガードしてもまだ全身を走る意識が遠くなるほどの衝撃。
そして振り向きざまにルクシオンが飛来したクナイを指先で摘まんでキャッチする。
「…………!!」
顔を顰めたカエデ。
完全に死角からの投擲だったのに……。
手の中のクナイをちらっと一瞥して彼女が軽く匂いを嗅いだ。
「毒ね。悪いけどこれも私には効かない」
そう言ってポロリと足元にクナイを落とす。
そうして彼女が視線を向けたのはクリスティンとメイヤーの2人だ。
未だに自分に攻撃してきていない残りの2人。
自分を見たと思ったメイヤーがため息をついて両手を上げる。
「……やめだやめだ! どうにもならんわい! 私は降りるぞ……降参だ」
うんざり、と言った感じで白旗を上げた髭の男にくすっとルクシオンは笑った。
「残念。信じてあげない。貴方が油断ならない相手だという事はよく知ってる」
余裕の表情で笑う彼女に忌々し気に舌打ちするメイヤー。
「ほらほらこっちもまだまだ元気だってえの!!」
声と共に降り注いだ無数の鞭打を最小の動作で回避しながらルクシオンはキリエッタに視線を戻した。
狙いを外し床を打った攻撃が硬い石を削り破片を散らす。
「キリエッタ・ナウシズ。ヒルダリアは貴女を高く買っていたわ。過去に自分のいた第3大隊を任せたのがその証」
「アタシもあの人はキライじゃなかったよ」
更に加速した鞭。
まるで嵐のように……視界全てを覆った攻撃がルクシオンに襲い掛かる。
「だけど袂を分かった事に後悔はないね!! アタシの生き方はいつだってアタシが決める! 前はアタシの生きる道がこの国にあると思っていたけどそうじゃなかったってだけの事さ!!」
無数の被弾の中を進むルクシオン。
彼女を覆う魔力の被膜が少しずつ傷付いていく音がする。
「その考え方には共感はするけど……」
遂にルクシオンは鞭の生み出す弾幕を抜けてキリエッタの前に立った。
「……くッッ!!!」
「だけど、どうするの……? 貴女の言うその道は今ここで途絶えるわ」
再度距離を取ろうと背後へ跳ぶためにキリエッタは身構えた。
その彼女にルクシオンが右手を翳す。
周囲に衝撃が走った。
聖殿は揺れて柱にヒビが入る。
ルクシオンが翳した掌から放ったのは魔力の衝撃波だ。
それをまともに浴びたキリエッタが吹き飛ばされて何度も床の上を跳ねる。
「……キリエッタさん!!!」
クリスティンの悲痛な叫びが木霊した。
うつ伏せに倒れて動かないキリエッタのからじわりと床に血が広がっていく。
「結局……残酷なまでに全ては力によって決まる」
たった今攻撃を放った自らの右の掌を見てルクシオンが言う。
「だから竜と眷属たちが貴方たちを治めていた。貴方たちは私たちの庇護の下で大人しくしているべきだったのよ」
見つめる右手をぎゅっと握る。
「私たちは私たちなりに……人を愛していたのに」
俯いた彼女の視界に映った高速で迫る人影。
赤い髪を風になびかせてリューがルクシオンの間合いを神速で侵略する。
「クリストファー・緑……旅するラーメン屋さん」
矢継ぎ早に繰り出される無数の拳打を表情を変えずに捌くルクシオン。
「貴方は何故ここまで来たの? 強敵を求めているわけでも死に場所を探しているわけでもない……富も名誉もいらない貴方がどうして?」
「さてな」
そっけなく答えつつ更に攻撃を加速させるリュー。
だが、ほとんどの攻撃は無情にも彼女によって阻まれてしまう。
魔力や身体能力が優れているというだけではなく、ドラゴンスケイルに守られているだけではなく……。
単純な武術の腕だけで彼女は誰であれ圧倒できるのだ。
「言えないのなら……私が言ってあげる」
激しい攻防の中でチラリと相手ではない方を見たルクシオン。
視線があったクリスティンが「え?」と一瞬呆気にとられる。
「貴方は愛の為にここまで来たのね」
「お前には関係のないことだ」
鋭い蹴りがガードの上に炸裂しルクシオンを数歩後退させた。
だが即座に彼女は槍を構えその穂先をリューへ向ける。
「その愛も……ここで終わり」
竜の姫君の眼が冷たく光る。
「……リューッッ!!!」
叫んだのはカエデだった。
その呼び掛けの意図を一瞬で察したリューが横っ飛びにその場を離れる。
カエデの放った無数の炸裂弾がルクシオンの周囲で爆ぜ、周囲が黒煙に包まれた。
「目くらまし。子供だましね」
冷めた声で言うルクシオン。
こんなもので視界を遮られた所で彼女は目を閉じていても相手の攻撃を察知できる。
「ここよ」
煙の向こうから自分を狙ってきたリューへ向け槍を突き立てる。
狙いを過たずその一撃は赤い髪の男の胸板を刺し貫いた。
「……!!!」
そして初めてルクシオンは驚愕に目を見開いた。
武器に伝わってきた感触が人を刺し貫いた時のそれではない。
ぼわん!とリューの姿が爆ぜて槍の穂先にはヒラヒラと突き刺さった紙人形が揺れていた。
(……ニセモノ!!)
……そして、その生まれた彼女の隙に十分に溜めの時間を作ることのできたリューの本命の拳打が横合いから襲い掛かる。
「俺たちは誰もこんな所で終わりはしない」
「……ッ!!!」
無防備な胴に突き刺さる拳。
ドラゴンスケイルの立てる不快な軋み音が周囲に響き渡る。
「クリストファー………ッッ!!!!」
ギィン!!!
不協和音を響かせて砕け散るドラゴンスケイル。
渾身の一撃を受けたルクシオンが血を吐きながら吹き飛び柱を折り壁を突き破る。
崩れた聖殿の一部が彼女に降り注ぎ周囲を再び黒煙が包んだ。
全精力を傾けた一撃を放ったリューもその場に片膝を突いて荒い息を吐いている。
「リュー……!」
駆け寄るクリスティンたち。
「よしよし良くやったぞ! まあ私のスペシャルなサポートがあっての事ではあるがな……がははは!」
調子のいい事を言って笑うメイヤー。
だが、リューはそんな仲間たちを片手を上げて制止した。
「ダメだ来るな! ……倒せてはいない!」
その叫びに……まるで応えるかのように。
周囲全体が真っ白な光に包まれ、次の瞬間に何もかもが爆散した。
地鳴りはまだ続いている。
あれほど美しく壮大だった純白の聖殿は無残な瓦礫の山と化し、周辺には幾筋もの地割れが走りそこかしこで蒸気を噴き出している。
「……もう一度言うわ」
……その爆心地に彼女が立っている。
「全ては力によって決まる」
ルクシオン・ヴェルデライヒ。
今、彼女の左の瞳は金色に輝いている。
左側の頭部には山羊のそれに似た角が生えている。
そして……その背には竜の翼があった。
「……………………」
呆然と跪いているクリスティン。
負傷はしているが傷はそう深くはない。
その理由もわかっている。
あの爆発の瞬間……リューが、そしてメイヤーとカエデが……自分を庇ったからだ。
その仲間たちは全員周囲に倒れている。
誰もがピクリとも動かない。
「……行くぞ。クリスティン」
いつの間にか自分の傍らに白い猫がいた。
皆に庇われた自分の……さらに後ろにいたので無事だったアルゴールが。
「先生……」
「もうお前しかいない。お前が彼女を倒すのだ……クリスティン」
いつもの穏やかで静かな低い声で猫はそう言うが……。
クリスは目を白黒させるばかりだ
「わっ、私ですか……! なんかボコボコにされる未来しか見えないです!」
何しろ自分よりも数段強い者たちが束になってかかってこの結果である。
そう言いながらも彼女は脇に落ちていた大剣を持って立ち上がった。
「でも、私しかもういないんですよね。それならもう……やるしかないですね!」
ふんす!と鼻息を荒くしてずんずん進むクリスティン。
一見自棄になっているようにも見えるがそういうわけではない。
この時点で彼女の心中にはある1つの決意があった。
ルクシオンを倒す、というものではなく……別の決意だ。
その先に立つルクシオンは表情もなく近付いてくる彼女を見ている。
「クリスティン・イクサ・マギウス……とうとうここまで来てしまったのね。手を引くようにと言ったのに」
「……ルクシオンさん」
そして……2人が対峙した。
共に竜の血を引いた2人が。
一瞬強い風が吹き、2人の長い髪……ルクシオンの赤紫色の長髪とクリスティンの銀の長髪を揺らしていく。
「混ざっている気配の強い子には、やはりどうしても甘くなってしまうわ。だけど、もう容赦はできない。私の邪魔をするというのなら……そこに倒れている仲間たちと同じ運命を辿ることになる」
「あんまり怪我するわけにもいかないんですよ。皆が歩けなかった場合、私が全員担いで帰らないといけないので……」
その彼女のセリフにルクシオンがピクッと眉を揺らした。
「私に勝って……無事で帰るつもりでいるのね」
「勝ってというか、まあ、無事には帰りたいです。あんまりボロボロになるとパパとママも悲しむと思うので……」
気まずそうに言うクリスティン。
思わずルクシオンが軽く吹き出す。
それから……口元から笑みを消してルクシオンは改めてクリスティンを見た。
「……あの日、私は約束していた毒薬をパウルから受け取るために大聖堂へ行った」
「!!」
目を見開いたクリスティン。
「それを貴女が見ていたのでしょう? そして彼に命を狙われて返り討ちにした。……思えば、そこから遠くまで旅をしてきたものね、クリスティン」
「ええ、もう、ほんとに……あれこれありすぎて、人生観はめちゃくちゃ変わっちゃって。挙句の果てが今こんなお空の上にいるわけなんですけど」
大剣を構えるクリスティン。
ルクシオンはまだ構えは取っていない。
「それなら貴女も見てきたはずでしょう。力のある者が正しい。何かをしたいと願うのならそれを押し通せるだけの力が必要なの」
左手を持ち上げるルクシオン。
竜化の進んだその手は青黒い鱗に覆われ鋭い爪が生えている。
「私は私の力で復讐を果たす。それを止めたいなら貴女の力で貴女の正しさを通しなさい……クリスティン」
そして左の金の瞳を輝かせると翼をはためかせてルクシオンがクリスティンに襲い掛かってくるのだった。




