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佐古下悠理は行方不明 『臙脂色の紫陽花』編  作者: はるたろー
深碧色の神隠し
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ただ、失っている訳では無い。例えば山中で人が倒れ、微生物の分解により腐敗が進み、元あった原型からはかけ離れた存在へと変異する。だがそれは失っている訳では無く人を形作っていた物体が別の物体へと変異しているだけである。地球上の物体を構成している原子は不変のものである故だ。

霜村は理化学専攻ではないがそう解釈している。

故に神隠しは行方不明であり、それ以上でもそれ以下でもない。

ただ、今見ている記事の内容には人為的な作意が感じられた。記事自体が虚偽ということではない。

記事の内容、長野県で神隠し。行方不明者が合計六人、たった二ヶ月の間に発生。こちらに作意が感じられるのだ。

それぞれ六人の関係性は明らかになっていないが、そのうち二人だけは県内の高校の同級生ということが分かっていた。現在クラスも同じらしい。それ以外には関係性は認められない。

記事によると齋藤益巳(さいとうますみ)(五二)、染島楓(そめじまかえで)(十七)、南雲聖(なぐもさとる)(十七)、塩原勇一郎(しおばらゆういちろう)(四四)、蒼野瞳美(あおのひとみ)(二四)、河野忠人(こうのただひと)(三二)ら六人の行方が分かっていない。行方不明になった順番は記事に記載の名前の順番と同様らしかった。

六人の足取りは途中まで掴めているようだ。記事にそれらも列記されていた。

齋藤益巳は製薬会社勤めで連休を使った一人旅行。別れた妻子がいるが現在は別居。県内のホテルのフロントに齋藤の姿が捉えられている。

染島楓と南雲聖はそれぞれ家族に野尻湖に出かける旨伝えていたそうだ。同級生野間では付き合っているとの噂。

塩原勇一郎はトラック運転手。町内のコンビニの駐車場に乗車していたトラックが放置されていた。所属会社に問い合わせると、確かに塩原の搬送ルートには長野県が含まれていた。

蒼野瞳美は作家であり、童話館へ足を運んでいたことが分かっている。館長が蒼野からアポイントを受け、先月交流を取っていると証言している。

河野忠人は都内在住のサラリーマンで、急遽有給を取得していたようだった。河野の会社では有給の申請は前月二十日までにする必要があるが、河野は今回の有給を三日前に申請してきたようだ。会社は営業に差し障りないとして承認している。

長野県に行った理由までは掴めていない。

目下のところ長野県警は警視庁などとも連携を取り、河野の足取りを中心に捜査を進めている。

「霜村先生」

記事に一通り目を通したあと、タイミングを見計らったように、地学準備室の扉の向こうから女子生徒の声がした。

生徒と断定したのは声に聞き覚えがあったからだ。

「どうぞ」

霜村はラップトップを自然と閉じた。

女子生徒が引き戸を開けて入ってくる。依田原澪(よだはらみお)、高校三年生で図書委員と吹奏楽部所属。

吹奏楽と連想すると、階下から僅かに金管楽器のチューバの低音やトランペットでルパン三世のテーマを吹いている音が聞こえた。

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