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佐古下悠理は行方不明 『臙脂色の紫陽花』編  作者: はるたろー
深碧色の神隠し
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東晴学園の教員室はニ階にある。教員玄関近くの階段を登るとすぐあった。霜村は普段この教員室にいることは割合少ない。

生徒たちが普段いる各教室、教員室、校長室などがある一般棟。それと対を成すように立ち並ぶ特別棟。

特別棟とは言うものの何が特別なのかは霜村には分からなかった。一般の対義語で構成されるその名称に正しさを感じなかったからだ。

実験室、音楽室、地学室、生物室、第二図書室、美術室等がある。

特別棟の出入りをする人間は少なく、部活動や社会科や理科の一部授業、音楽や美術の授業の際に生徒たちが訪れるくらいだった。

多少大きな発表会やミーティングをするときに特別棟一階と二階をくり抜いて鎮座している視聴覚室が用いられることもあった。霜村もそこに立ち外部の人間に講義をしたことがある。

一般棟の若く青い喧騒をやや遠くに感じながら、特別棟四階の一番北側の教室、地学準備室の窓辺から校庭とは反対側の薄く見える山並みを見ていた。地学準備室は霜村の城だった。

霜村は部活動を見ることも授業外で宿題を出すこともほとんどない。霜村の社会科は授業内で全て網羅できるように構成され、且つ授業の準備は完璧に年間単位で行われている為、授業以外で余計な仕事をすることなどなかった。

幸い今は受け持つクラスもない。昨年度までは三年生のクラスを受け持っていたが、彼らが卒業してからの今年度はフリーだった。

霜村は自分で淹れたコーヒーを片手にラップトップに視線を戻した。

長野県で神隠し。

霜村はコーヒーを啜りながら世聴社のネット記事に目を通していた。

神隠しとはよく言ったものである。昔の人は裕福な想像力を持っていたに違いない。学問が発展した現在において、科学的根拠を示さない現象はほぼ皆無である。

電子レンジがものを温められるのもマイクロ波で内部の物体を振動させ、その摩擦熱によって温められるのだ。

電子レンジに入れたから温まっている訳では無い。猛烈な速度で摩擦を起こすことで生じる熱エネルギーがそれを成すのである。

神隠しというのも、昔は忽然と行方をくらます人が見つからないという事実を神や妖怪のせいにすることで、自分たちを納得させていただけに過ぎない。そう解釈することで現象を理解しようとしたのだ。

解釈は受け手側の考えであり、そこに正しさも誤りも介入しない。

昔の人にとっては社会的背景が存在しない行方不明、それを神隠しと呼んでいただけなのだ。

だが、それは学問の発展が乏しかった過去のものである。

科学的根拠を示さない現象はほぼ皆無。これはほぼ間違いない。ほぼ、というのは、一部解明が進んでいない現象があり、科学的根拠を示せないものに絶対的な評価が下せないという意味だ。

科学的観点からは神や妖怪などの存在は否定できる。行方不明者も消失している訳では無い。

何を持って消失とするかにもよるが、元の原型を留めなくなったことを消失とするならばその可能性はある。

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