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佐古下悠理は行方不明 『臙脂色の紫陽花』編  作者: はるたろー
深碧色の神隠し
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一歩一歩踏みしめる山道は、見上げると果てしなく空まで続いているようにも感じれば、深い森に沈んでいるようにも感じる。

黒姫山。黒姫伝説が根付く地でもある。

白蛇である小姓が黒姫と恋に落ち、また黒姫も白蛇に想いを寄せた。それを恨んだ高梨政盛に白蛇は仕打ちを受け、二人は嵐を起こし洪水で下界を沈めると、山へと移り住んだ。と言われている。

木々の隙間から差す陽光が、なんとか昼間であることを教えてはくれたが、左右に覗く漆黒の闇を携えた森は今にも佐古下を七人目にせんと目論んでいるようにも見えた。

六月の梅雨の晴れ間。気温は二十度を下回り、日差しも薄いこの辺りは一層気温が低いのだろう。

年間八万。

行方不明者の発生数である。一年で八万人もの人たちが行方不明となっているのだ。

もちろんその全てが完全に消失するわけではない。

六万人以上の人たちは所在の確認が数日間のうちに取れる。だが、中には二年以上確認されないケースや、死亡してしまっているケースがある。

それらは年間数千人にも上る。

九五%以上の行方不明事件は解決へと向かうのだが、残りは長期化するか未解決で終わることもある。

佐古下は世間の冷たさを知っていた。自分のことですら本当の意味で身近な人間を除いて、誰が関心を継続して寄せ続けるだろう。佐古下は自嘲気味な思考を、頭を緩く振って振り払った。

今はあらゆる媒体で事件事故、所謂ニュースを見ることができるがその関心は概ね数ヶ月で失せてしまう。

人々は忘れる。

覚えていられない。と言い換えてもよいかもしれない。

世間には事件事故が溢れている。そのうちの一つだけに関心が寄せられることは少ない。

日々生まれる事件事故の記事に埋もれていく。

(もし、私も行方不明になって今度こそ帰って来れなかったら、お母さんはどう思うかな)

佐古下はネガティブな思考に驚いて足を止めた。少しばかり一考して独り口角を上げた。馬鹿馬鹿しい。言葉にすることなく呟いてから再び歩き出した。



数十分歩き続けた。

行方不明者が続出しているからだろう。山道を行く人はほとんどいなかった。数分前に下山していく老夫婦と思しき二人組を見た限りだった。

目線の先には右に緩やかにカーブを描く山道と、それとは別に左脇の崖下に下る山道がある。

スマホのマップを拡大して確認すると、右に折れる道が本線で左側には森が続くのみで、道という道は書き記されていない。

しかし、獣道というにはいささか舗装されている気配がある。苔が覆ってはいるが朽ちかけの看板も主張をそこそこに立っている。

なんと書かれているのかは判別がつかない。

崖下に下る道も大きさはまばらだが石畳で形成されている箇所もあり、人工的な部分も覗いていた。

時刻は十三時前。

昼食も摂り日没まではあと六時間ほどはある。日が傾くまでの時間で言ってもあと四時間ほどはあるだろう。

佐古下は決心してこの道を左に曲がることにした。

真昼だというのに深淵が大きく口を開けていた。

佐古下は持参のライトを点けて、足を踏み降ろした。

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