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走りのカズ 危険な郵便局員  作者: MAHITO


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22/23

アメ車登場

金髪らの乗ったアメ車が、カズと亜里沙の乗ったホンダを追いつめる。


  22


 バックミラーにきな臭い車が映る。見る見るその図体を巨大化させる。

 角ばった車体は低く、シャーシを路面に擦らせている。三十年以上前の骨とう品ともいえるアメ車だった。 

 まごうことなく、カズたちのホンダを追っかけてくる。祭囃子のように、立て続けにクラクションを下品に鳴らすと、ぴったりホンダの後ろについた。

 ――まただ。

 芸能プロの話を切り捨てたとたん、最悪の来客のお出ましだ。

 クラクションを鳴らし続けるアメ車の窓から三人の馬鹿どもが半身を乗り出した。この前、埠頭で亜里沙にちょっかいをかけたガキどもだ。

 黒の酒場から姿を消した金髪が、助手席の窓から身体半分乗り出している。その手には日本刀が握られている。

 同じように後部座席の窓からは、木刀と鉄パイプを持った短髪と長身が、上半身を突き出している。各々が狂ったように怒鳴り散らしている。

 カズはつぶやいた。

 ――おいおい、銃刀法違反に凶器準備集合罪だぜ。

 運転席の男ははっきりとは見えないが、角刈りで、金髪ら三人に比べると少し年長だ。ガキどもを手なずけている筋ものか? 兄貴分に連れられての復讐か……? 

 今回の襲撃はカズを抹殺することが目的だろう。

 友人である菊池が黒を撃ったことと、その結果、麻薬取引が明るみに出たことに対する報復だ。


 怒声が迫ってきた。ホンダの尻に噛みつきそうなほどだ。

「ぶっ殺してやる!」

「オラオラ、逃げんなよ」

「八つ裂きだ」

 後部座席の亜里沙が泣きついた。

「カズ! また、あいつらよ。みんな凶器を持っている」

 バイクが風を切っている。そのため大声で叫んでも、亜里沙の声は聞こえにくい。

 カズは叫ぶようにこたえた。

「あいつら、きっと薬の売買に絡んで、おれを追っているんだ! 亜里沙には迷惑をかける」

 カズはエンジンの回転数を上げ、車体を傾けカーブを曲がる。立体交差する幹線道路へと連結する車道を駆け上った。

 夜の九時という時間帯。幹線道路の交通量は渋滞とまではいかないが、そこそこ多い。間を置かず、数珠繋ぎで車が走っている。

 カズは幹線道路の左隅にバイクを押し込むと、流れに乗った。

 アメ車も追ってくる。背後でクラクションを鳴らし続けている。他の善良な車を威嚇し、スペースを開けさせると、幹線道路に割り込んだ。

 ホンダとそれを追う背後のアメ車には三台の車が入っていた。


 亜里沙は後ろを振り向いた。

「カズ。あいつら、すぐにもわたしたちの後ろにくっつくわよ!」

 凶器を持った三人は窓から半身を突き出し、周囲を走る車を怒鳴り散らした。怯えたドライバーたちは、アメ車から離れようと道を開ける。

 ホンダとアメ車の間にいた車はすぐにいなくなった。

 クラクションと怒鳴り声がホンダの尻を突こうとしていた。

「カズ。ダメよ、来たわ! このままじゃ、後ろから追突される!」

 亜里沙の悲鳴はマックスになっていた。アメ車が最初に追撃するのは、亜里沙の尻だ。

「国道に出る」

 カズも声を張り上げた。

 巻きついた亜里沙の両手が異常な力で、カズの腹部を圧迫した。

 信号がぎりぎり青のところでホンダは国道に入った。当然のことながら、背後のアメ車は信号無視で突入してくる。

 夜間の道路照明のもと、バックミラーには、何台もの車が、アメ車と衝突ぎりぎりのところでブレーキを踏むのが映る。

 亜里沙が繰り返し聞いてくる。

「どうするの? カズ」

 さすがの彼女も、日本刀を持った男たちに追われるのは初めてのことだ。ヘルメットのなかの顔は恐怖で歪んでいるのだろう。


「なぁ、亜里沙」

 ナイロンジャケットを通した胸のふくらみを背中に感じながら聞いた。

「なに?」

 背後に迫るアメ車との距離はまだ多少ある。決着をつける前に聞いておきたいことがあった。

「なぜ、美術館の絵を盗んだ?」

 その返事をするまで、少しの間があった。

 背後からは、クラクションと怒鳴り声が、津波のように襲いかかってきた。

「おんどりゃー! 止まりやがれ。叩き切ってやらぁ」

 亜里沙の恐怖が、カズの革ジャンを通して、心音となって伝わった。

 それでも、

「うるさいわね……」

 恐いくせに多分に強がっている。亜里沙はそうつぶやくと、他人事のように話しだした。

 最初はゆっくり、

「どうしてだったんだろうねぇ、わたしは芸能界に入るまで盗癖なんてなかったのに……。わたし、スターに祭り上げられておかしくなっちゃったのかなぁ。これってストレスかも?」

 亜里沙の口調は早くなっていった。

「わたし、歌手にならなきゃ、絵描きになっていたかもしれない。もとから絵が好きだから。好きだから、つい絵を盗んじゃったのかなあ? わかんないのよね。そのときの気持ちって。自分の身体が勝手に動いてしまった。主婦によくある万引き癖と同じかもしれない」

 立て板に水のようにまくしたてた。

「そうか……。しかし、美術館から盗むとはだいそれたことを」

「法律を犯しているって言うの? でも、カズのほうこそ、菊池さんの件で、今追いかけてくる連中とも関わって、何かと法律違反をしているんじゃないの? 郵便局ってお堅い職場でしょ。それこそ問題になんないの?」

「それをいわれると、おれの行動は違反だらけだ」

 カズが答えるのを見計らったように、アメ車はいっきに距離を縮めた。ついにホンダの横にくっついた。


 亜里沙がこらえきれずに叫んだ。

「そうよ! カズのほうこそ、おかしいわ! こんな暴力団のような連中に追われても、平然としている。わたしたち、どうなるの!」

 アメ車から半身をのり出した金髪がニッと笑うと日本刀を振りかざした。

「キャッ!」

 亜里沙は叫ぶと、上体をねじ曲げ、その刃先から身をかわす。金髪はエキサイトする。息つく間もなく、二の太刀を浴びせかけてきた。カズの肩をかすめた。

「キャッ!」

 悲鳴をあげる亜里沙。

 カズは舌打ちすると、さらにボルテージを上げた。

「しっかりつかまってろよ!」

 亜里沙に叫ぶと、アクセルとハンドルを、これまでにない技術で操った。縮まっていたアメ車との距離が再び開いた。

「亜里沙。だいじょうぶか?」

 背中に聞くと、カズの革ジャンに顔をうずめたまま、亜里沙は、「うん……」と一言だけ肯定の返事をした。

 カズのほうはといえば、いやに風で肩口が揺さぶられる。革ジャンに、ぱっくりと口が開いていた。

 安月給で、貯めに溜めて、やっとのことで買った高級革ジャンだ。

 ――許せん! 

 ヘルメットのなかで、鬼の形相になった。

 橋が見えてきた。

 いっきにアクセルをふかすと、橋を渡り、堤防道路へと進路を変えた。アメ車もついてくる。

 以前、金髪のバイクとやり合った場所だ。金髪は覚えているだろう。


 ( 続く )

 

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