第五話:教室にて
ガラガラッとドアを開いて教室の中へと足を踏み入れた瞬間。
いつもならそれぞれが会話して、こちらになんて目もくれない。自分の席へ歩いていく間に会う友人達へ、挨拶を軽くする程度。
なのに、今日は違った。
「「「「魔王様だ」」」」
クラス全員がこっちを向いて、あろう事かそんな事を口を揃えて言ってきた。
「え……?」
思わず言葉に詰まった俺の後ろから、背中を押す人が。
「うおっチ、そこで止まられると私ら教室の中に入れないから!」
「とと、ごめん!だから押さないでくれると……!?」
けんけんぱをするように、前へと押し出される。
後ろから揃って出てきた三人の女の子達を見て……
「おお、流石魔王様。もう両手に花とか」
「女の子をはべらすのは男の夢だもんな、分かるー」
なんでやねん。俺は視線を彷徨わせて、この件の首謀者を見つけ出し、駆け寄る。
「おい宇游!お前の仕業だなっ!?」
「ぶはっ!迷わず俺を探し出すとかどんだけ!」
「お前ふざけるなよ!?クラス全員に言いふらすとかイジメか!?」
両肩を掴んで前後にブンブンと揺らすも、宇游は余程面白かったのか、笑いながら成すがままだ。
「ぶはははは!ちげぇって、言いふらしたのは俺じゃねぇって!」
なおも笑いながらそう言う宇游に、俺は言い返す。
「お前以外に、クラス全員を先導して魔王様とか言うように仕向ける奴は居ないだろ!」
「ははは!それなら後ろの三人組に言えって!はははっ!」
意味が分からないまま、後ろへと視線を向ける。
バツが悪そうに右を向く小鳥遊さん。
両手を合わせてぺこぺこと体全体を使って謝っている木之下さん。
そして笑顔全開でこちらを見て、口に手を添えてぶふっと吹き出した村上さん。
え?もしかして、そういう事なの?
俺は昨日、結局教室には戻らずにそのまま家に帰った。
だからあの後、教室でどんな話があったのかは知らない。
「魔王様が我らが癒しの桜ちゃんを助けてくれたって聞いてさ。皆で何かしようって考えたんだ」
君は、眼鏡が似合う委員長、御手洗勝夫君。
「そうそう。それで魔王様って、クラスではまだ皆とそんなに付き合いがないじゃない?ってまぁ、そこは皆も一緒だけど。でも、4月の終わりから5月の上旬にかけて文化祭もあるし、皆で交流があった方が良いじゃない?そこで、皆の中心になれそうな人の意見を出し合ったのよ、昨日」
昨日。そうですか、俺が丁度居ない昨日に、皆で集まって。
うちのクラスそんなに仲が良かったの?ちなみに貴女副委員長ですよね?
委員長と副委員長って、クラスの中心じゃなかったの?
あと、自然に俺の事魔王様って呼ぶの止めてくれませんか?
「それに、魚間君って反対から読んだら魔王様だし、良くない?」
「それ言ったらうちの家族皆魔王様だから!?」
「ぶははははっ!」
「笑いすぎだらな宇遊!お前なんてフルネームで勇者じゃねぇか!」
「おまっ!?それは秘密だって言ったろ!」
「言ってねぇだろ!?」
俺と宇遊が言い争っていたら、クラスメイト達も初めて気が付いたかのように、声を上げた。
「やし、うゆ……ゆうしや……勇者!本当だ!?」
「嘘だろ、魔王様と勇者が合わさり最強に見える!」
「これは今年の文化祭と体育祭は貰ったな!」
なんか、ざわざわと盛り上がってる。
……うん、うちのクラスこんなにノリの良い奴多かったんだ。
まだ一緒のクラスになって数日とはいえ、初めて知ったよ。
「おーい、席につけー。お前ら他のクラスより数倍うるせぇぞー」
担任の原場 鳥栖先生だ。
その巨体は場に居るだけで他者を威圧する。身長190㎝を越え、ボディービルダーかくやという肉体美を誇る。今もぴちぴちな服を着ており、筋肉の増長で服をぶちぶちと破いても驚かない。
この学校で生意気な態度を取る学生は、原場先生のおかげでほぼ居ない。
ざわざわとまだ熱気の冷めやらぬ中、皆席に座る。
すると、原場先生が俺の方をじっと見ていた。
「あー、お前らももう知ったと思うが、魔王様が魔王様である事はうちのクラスの秘密だ。ああ、保健のべリア……諸智先生は別だが。どこに敵が潜んでるか分からねぇから、そこんとこよろしくな」
「「「「「ハイ先生!」」」」」
いやハイじゃないよ?どうなってんのうちのクラス。
原場先生も、なに良い仕事したみたいな顔してこっち見てくるの?
昨日から何かおかしい。こう、見えない力が働いているとしか思えない。
「そんじゃホームルームをはじめっぞ。前の列の奴ら、プリント配るから自分の列の数取りに来い」
最前列の人達が立ち上がり、人数分のプリントを受け取ってから後ろへ回し始める。
「はい、魔王様。プリントです」
「あ、うん、ありがとう」
この前の子、確か名前は室井 晴子さん。昨日まで普通に魚間君って言ってくれてたのにな……。
にこりと微笑んでから、前を向いた。中には前を向いたまま後ろにプリントを渡す人も居る中で、きちんとこちらを向いて渡してくれる良い人だ。
俺は窓際の最後列なので、後ろに回す人はいない。
受け取ったプリントを中身も見ずに二つに折る。
このプリント、主に保護者の人達宛のプリントなので、俺達が読む必要はない場合が多い。
「ぶはっ!」
隣の席の宇遊が吹き出す。気になったので、二つ折りにしたプリントを開いて見て……顔をしかめる。
そこにはでかでかと
『2ーAの救世主、魔王様(魚間亮)』
と書かれていたからだ。
名前の所が魔王になってるから!普通逆だから!というか一般的に魔王に良いイメージないだろぉ!
これクラスメイトの家族が読むんですけどー!?
学校に登校して早々に帰りたくなる俺だった。