第四話:称号を得てしまった
ひそひそ。ひそひそ。
朝の7時30分。まだ少し肌寒い中、学校へと歩いて向かっていると、こんな声が聞こえる。
「聞いた?昨日……」
「うんうん。あの人だよね、ほらいつも椰子君と一緒に居る……」
「えー!全然そうは見えないのに……人って見かけによらないんだね」
くぅ、全部聞こえてるからな。明確に中二病と言われてはいないけど、大体察せる。
だって、今朝「ステータス」を見たら、こんな事になっていたから。
魚間 亮♂ 14歳
職業 魔王(転生者)
称号 一般人(中二病)
戦闘力 6
魔法 今は使えません
スキル 今は使えません
一般人にかっこして中二病ってなんやねん。
称号って、人の噂でつくものなの?あと、地味に戦闘力が上がってるんだけど、中二病って戦闘力補正があるの?
普通、力とか素早さとか、そういう局所的な能力を載せるのが「ステータス」じゃないの?
なんで戦闘力っていう大雑把なものしか載ってないの?
魚間 亮♂ 14歳
職業 魔王(転生者)
称号 一般人(中二病)
戦闘力 6
魔法 今は使えません
スキル 今は使えません
いや同じ情報を二度も必要ないから。ああ、今思ったからか。何気に邪魔なんだよね、この機能。
消えろと思えば消えるから、良いんだけど……。
「行ってきます」
誰も居ない家に、そう言って鍵を閉める。いつもの事だ。
うちの両親はアメリカへ海外出張しており、今は居ない。
妹と弟も両親についていったので、今は俺一人だ。
父さん達が居ない間、マンションを借りても良いとは言われたけど……うちには大型犬を3匹庭で飼っているし、これが他の人には全く懐かないので預ける事も出来ないから諦めた。
称号の事で肩を落としながら歩いていると、後ろからざわざわとした声が聞こえ始める。
ふと振り返ってみると、クラスのカーストトップの三人組が仲良く揃って登校していた。
皆に声を掛けられながら、普通に返事をする人、可愛らしく笑顔で挨拶をする人、ダルそうに「おっすー」と返事をする人と三者三様だったが、その三人の視線がふと俺で止まる。
げっ……と思った。俺はクラスでは最底辺も良い所の、陰キャであまり目立たない存在だ。そんな俺と仲良く会話でもしようものなら、彼女達に悪いイメージがついてしまうかもしれない。
なので、俺は小声で「おはよう」と言って頭を軽く下げ、また前を歩き出した。
陰キャの俺が、クラスで人気の彼女達と会話など烏滸がましいだろう。
まぁ、こんな卑屈な事考えるから、自分で自分の事を陰キャなんて思ってしまうんだけど。
相変わらず後ろがざわざわと五月蠅いけれど、気にせず学校へと向かっていた。いた、のだけど……そのざわめきが何故か近づいてきて……
「うおっチマジ足速くてウケるんですけど。やっぱ男の子だねー、やっと追いついたし」
「おはよう魚間君。どうせ同じ道なんだし、一緒に行きましょう?」
「そうだよ魚間君!さっき挨拶してくれたよね?お返しする前に行っちゃうんだもんー」
心臓が止まるかと思った。だってあれだぞ、クラス最底辺の男に、クラスの、下手したら学年の頂点に位置する女の子達が話しかけてきたんだぞ?
そんなの、陰キャの俺には荷が勝ちすぎている!
「お、おはよう。その、俺こういうの慣れてなくて……気を悪くさせたなら、ごめん」
三人の女の子が、皆きょとんとした顔になったかと思えば、凄く可愛らしい顔で笑い出した。
「あのやっチといつもつるんでるうおっチが、まさかの免疫ゼロとか超ウケる!」
「そうね、少し意外。あの椰子君がいつも一緒に居るのに」
「椰子君と一緒で、きっと女の子達といつも遊んでるんだろうなって思ってました」
三人の評価に驚く。そうか、宇遊のせいか!確かに宇遊はいつも俺の所に遊びに来るし、学校でもいつも一緒に居る事が多い。
だけど、放課後はそうじゃない。何故なら、俺が一人でゲームして遊ぶのが好きなのを宇遊は知ってるので、気を使ってくれていたのだ。
それでも、週に一度は必ずうちに遊びに来る。もしくは俺を誘って、宇遊の家でゲームして遊ぶ。
ポケモンを育てたのを対戦したり、スマッシュブラザーズとかマリオカートとか、インドア派の俺に付き合ってくれる。
昔、一度言った事がある。
「俺、あんまり外で遊ぶのが好きじゃなくてさ……でも、宇遊は外で遊ぶの好きだろ?だから、無理に俺に付き合わなくて良いんだぞ」
って。そう言ったら、珍しく宇遊が怒ったのを覚えてる。
「亮!てめぇふざけんなよ!?確かに俺は外で遊ぶのも好きだけどさ!親友の亮と遊ぶのなら、なんだって楽しいぞ!無理に付き合った事なんて一度もねぇよ!」
息を荒げてそう言った。後にも先にも、宇遊が俺に対して怒ったのはこれが初めてだったと思う。それから俺は謝って、俺もたまには外で遊ぶ宇遊に付き合うようになった。
まぁ外でって言っても、俺と遊ぶ時はゲームセンターとか、そういう場所をチョイスしてくれるんだけど。
そういう奴だから、どんなに他の人にチャラく見られていても、俺は宇遊を嫌いになれない。
「宇遊は良い奴だよ。俺なんかとも気兼ねなく付き合ってくれるからね。俺は女の子とあまり話した事がなくて、宇遊も気を使ってくれるんだ」
そう言ったら、三人共微笑んでくれた。その優しい笑みに心臓がドクンと跳ね上がる。
くっ、これだから免疫のない俺はっ……こんな事で恥ずかしがってたら、いつまでたっても普通に話す事もできやしない!
「しし、それじゃ今日から、うおっチの耐性上げに協力しようじゃん!」
「へ?」
「あら美穂、たまには良い事を言うじゃない」
「たまには余計だしー!」
「あはは。その、魚間君が迷惑じゃなければ……私達と、友達になってくれませんか?」
なんて、もう朝から心臓を驚かせっぱなしだけど……
「えっと、その……俺なんかでよければ……よろしく、お願いします」
「硬いしうおっチ!」
バン、と背中を叩かれる。
「痛い!?」
つい声に出してしまったけど、本当に痛かったわけじゃない。
いや痛かったけど軽くだよ。
村上さんはしししと笑っていて、その笑顔は本当に可愛らしい。
「ふふ、少しづつ慣れて行けば良いじゃない。これからよろしくね」
「嬉しいです!魚間君って趣味とか何かあります!?」
「えっと……」
なんて、俺はずっと顔を真っ赤にしながら話をして登校した。
もう中二病の事なんてすっかり忘れていた。
普段女の子と会話なんてした事のなかった俺は、緊張しっぱなしだったけど……なんとか逃げ出さずに下駄箱までこれた。
精神的にいっぱいいっぱいで、早く自分の席について体重を机に預けたいと思いながら。
三人と居るのが嫌とかじゃないんだけどね。
そうして三人と一緒に教室のドアを開けて足を一歩踏み入れた瞬間、思い出す事になったのだけど。