第二話:記憶①
これは、『いつ』の時代の事だろう。
まるで城の中に居るような雰囲気の場所。
俺は大きな部屋?の空の上から、下に居る人?達を見下ろしている。
あれは人だろうか?頭に、ツノがあるんですけど。
背中に真っ黒な羽が生えている人?も居る。
うん、どう見ても人じゃないな。自分の姿を見ると、体が透けている。一応見えるんだけど、半透明なのが分かる。
「魔王様、勇者がすぐ近くまで来ております!撤退を……!」
「ならん。俺は勇者に討たれ、この戦争を終結させねばならぬ。お前達は、逃げよ。人間達の蔓延る世界で魔族が生きるのは、辛くなるであろう。だが、魔族を絶やしてはならぬ。泥水をすすってでもお前達は生きるのだ。それが、俺が下す最後の命だ」
「「「魔王様っ……!」」」
魔王と呼ばれた、他の人よりも体が大きく、威厳のある男。
その瞳は優しく、臣下を心から大切にしているのが伺えた。
しかし、その顔を見て俺は驚く事となった。
鏡で毎朝見ている俺にそっくりなのだ。勿論、今の俺よりも多少老けてはいる。だけど、少し若くしたら、俺そっくりだ。
男は玉座より立ち上がると、手をかざした。すると、玉座がゴゴゴッと地響きを立てながら移動する。
玉座のあった場所に、階段が出てきた。
「この先に、俺の魔力で創った転送陣が複数設置してある。どれも片道切符だが、行先はどれも山の中にしてある。人間の世界に溶け込むも良し、関わらず生きるのも良し、ただし死ぬ事は許さぬ。生きよ、そして俺の分まで……幸せになれ」
「「「魔王、様ぁっ……!」」」
あれは俺じゃないと瞬時に悟った。顔は似てるけど、あれは俺じゃない。
あんなに恰好良い事を俺が言えるわけない。
臣下達は涙を流しながら、男に頭を下げ、階段を降りて行く。
そうしてこの場に居た全ての者達が階段を降りて行ったあと、玉座は元の位置に戻り、男は座ってこちらを向いた。
「!?」
体が震えた。俺の体は今、半透明になっている。俺は見えていないはずと思っていたのだけど。
けれどあの男は、まるで俺がここに居るのが分かっているかのように、視線がこちらを射抜いている。
「ふぅ、長い道のりだったぞ。これでようやく、俺も……」
その言葉が全て終わる前に、閉まっていた扉が大きな音を立てて、開いた。
「魔王!ようやく辿り着いたぞっ!」
頭には青く輝く丸いオーブのようなものがはめ込まれたティアラをつけているが、その顔には見覚えがあった。
「来たか勇者よ。様式美だ、一応言うぞ。俺の味方にならないか?そうすれば、世界の半分を勇者にやろう」
「断る。俺は世界なんて要らない。俺が欲しいのは、お前だからな!」
「そうか、勇者が欲しいのは俺か。……は?」
勇者の言葉に、魔王が固まった。
どうなってるのか。魔王と勇者が対峙して、これからクライマックスが始まる前、その舌戦だと思ったら変な雰囲気になってきた。
「正確にはお前の協力が、だな。聞いてくれよ魔王!王国軍の奴ら、俺に力があるからってすり寄ってきてさ。魔物を倒したら喜んでくれるけど、そんなん俺が魔王を倒したら、絶対次は俺に対象が向くじゃん!?そんなん嫌だし!」
「……」
魔王が絶句してる。いや気持ちは分かるけど。
「だからさ!芝居打たねぇか?俺と魔王で、生き残りを賭けた大勝負!」
「いや、俺が仮に死んだとしても、勇者は死なぬだろう。世界を救った勇者になるのだぞ?」
「いーや、違うね。あいつらは魔物の脅威が無くなったら、次はその魔物より強い俺を恐れるね。断言できるね」
「ふむ……」
魔王が悩む仕草をする。確かに勇者の言も一理あるけど、そうだろうか?魔王を倒したらお姫様と結婚してめでたしめでたし、なのでは?
「頼むよ魔王!俺、ここまで魔物は倒してきたけど、魔族は殺してなかったろ?倒す為に傷つけるしかなかったけど、治せるレベルに抑えてたの、魔王なら分かっただろ?」
「ああ、不思議だったが、やはり意図的か。俺はまた、自分の実力を見せつけているのだと思っていた」
「違げぇよ!魔王とこうして話せるようにするには、必要だと思ったんだよ。な、俺に協力してくれねぇか?頼むよ魔王」
「……分かった、俺は何をすればいい?」
「おお!ありがとう魔王!絶対、俺達揃って生き残ろうなっ!」
そう良い笑顔で言うこの男の顔は、俺の幼馴染で、悪友……椰子 宇遊そっくりだった。