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だから、魔王やめたい  作者: 江村朋恵
一章 12歳編
9/18

1‐9【ラクエル】作中作ゲームと悪役令嬢物語、そして今

 突然「どうしたの?」などと言われて遭遇した顔には見覚えがあった。


 はっきりと思い出してきた。


 目の前の少年、設定通りなら今年十四歳の第一王子ノルベルトだ!


 紳士と何やら話している。紳士は「でん──でん──」と煩いがどう考えても「殿下」と言いかけてその度ギリギリでストップをかけている。お忍びなのを隠しているのだろうが、端から見れば滑稽でしかない。


 だけど、私はそれどころじゃない。


 少年の顔をジッと見上げた。


 多少、目がかすむみたいに顔まわりがブレて見えるけど、おそらく私と同じ変装の魔術。

 多分、髪色と瞳の色を変え、特徴的な泣きぼくろを消してるんだ。

 私の方が魔力高いのか彼の素顔が見えているけど、時々かすんで変装バージョンが重なって見える。

 術の魔力と本人の魔力が一致してるのを見るに、第一王子の魔力は既に魔術師団長クラス、いやそれ以上だろうね……。

 

 ちなみに、私の方が魔力高いとなると、私の変装魔術は見破られていないはずだ。多分。完全には、きっと。


 魔力はバレないように隠せるけど、こういうところでこっそりと力量がわかってしまう。

 彼も私も魔力ほとんどありませんってくらいにスッキリ隠しきっている。

 私の方が高そうだから、彼が隠してるってわかる話。


 魔力を発現するのは十歳前後で、隠すとかの芸当は十四歳でアカデミーに入ってから覚えるのが普通らしい。

 なので入学式なんかでは「アイツ魔力高いな……」とか「魔力ゼロ? あなた恥ずかしくないんですの!?」とか値踏みからの悲喜交交な学園生活をスタートさせる。

 イジメなんかにも発展しちゃう嫌な感じの設定。



 目の前の少年──ノルベルト王子は「完璧」かつ「美形」キャラ。

 父王譲りの緑髪は毛先ほど黒に近く濃い色に……色で魔法の種類がわかる世界観のこの世界では風属性と全属性持ちということが一目でわかる。

 あー……今、変装魔術で茶目茶髪に変えているみたいなんだけど、私には素の色が見えてるんだよね。


 黒に近いほど濃い色は混色を示して数多の属性魔術を使いこなす設定。

 なお、黒と分けて漆黒、完璧な黒髪は全属性はもちろん、黒魔術を使える……黒魔術は魔王や魔族の得意とする強力な魔術だけど、自分に付与された女神クリアレイスの加護を打ち消す呪いの力だとされている…………。

 路地裏の占い師が「不幸になる」とか言っていたのはこの女神の加護関連のせいだろうね、聞くまでもないわ。


 自分が魔王になって黒魔術バンバン使えるからわかる、確かに黒魔術は女神の加護をそれなりに打ち消す……。

 ……でも今はもう、多分……地上の人間に女神の加護はいらなくなってると思うんだよね……二千年前ならともかく。

 過剰な、ほら、勇者とか聖女に付与されたチート級な加護は……あれもうとんでもないから……負け魔王的にはトラウマ……。



 緑の髪と金の瞳を持つ第一王子。

 肩くらいの長さをハーフアップにして他キャラとは明確に差別化されたデザイン。攻略対象並にちゃんとキャラ立てされている。

 そりゃ、第二王子の上から目線でくる王子様だしね。


 立場上ってのもあるだろうけど、超腹黒で表の顔と裏の顔の落差がすごいという設定のキャラクターだ。


 人当たりの良い笑みを絶やさず、人使いが荒く……いや、人を上手に使い、痕跡を残さずあれやこれや画策出来る……うん、イジメの証拠を取られまくってマヌケに没落する悪役令嬢とは違う感すごく出してくる。


 ゲームの立ち絵では一人になったあとの「…………」で、薄っすらと笑みを浮かべていた二番目の悪役ポジションが第一王子ノルベルト!


 私にしろ、彼にしろ、第二王子ルートの悪役仲間だね。




 あ、ゲームのお話は基本的に──


 その①、まず出会って惹かれ合い想いを確かめるまでの章で攻略対象とそれぞれキャラクターごとの物語テーマに沿った敵が現れる。第二王子ルートだと私だね。


 その②、次に婚約等結ばれるための敵が登場。私が関わるとするなら第二王子ルートで、第一王子ノルベルトが該当する。


 その③、最後に平和な世の中で結婚するためにとラスボス魔王を討伐ということで、敵は三段構え。なお、魔王は私。こんな残酷な2役ってある?



 第二王子攻略ルートだと、ちょっとなよなよしい第二王子が、なんでも完璧にこなす超美形第一王子への劣等感から先走って時の最高位令嬢ラクエルと婚約する。

 この時の第二王子が求めていたのは、兄の第一王子が将来婚約する令嬢よりも地位も見た目も何もかも優れている令嬢であること。つまり公爵令嬢ラクエルな私。

 そんな理由なもんで、後からヒロインちゃんと恋に落ちてしまうとラクエルなんて邪魔な障害にしかならない。


 しかもゲームのラクエルなので、テンプレートに悪役令嬢化していて悪さばっかりするんだな。

 主人公ヒロインちゃんもいろいろ耐えている間に第二王子とはラブラブになるわけ。相思相愛。

 悪役令嬢はサクっと婚約破棄、悪さ度合いで没落ザマァと。


 その②ではヒロインちゃんに励まされ、第二王子もついに第一王子と真っ向対峙する。

 己を磨いて立派に王族の勤めを果たそうとする第二王子を支える主人公ヒロインちゃん。

 立ちはだかる次なる悪役が第一王子ノルベルト。


 弟に相応しくないと身分低めの貧乏令嬢ヒロインちゃんをいろいろ試すので、悪役というより成長の為の壁なんだけど、これもまたヒロインちゃんと第二王子は手と手を取り合い仲を深めながら乗り越えるんですよ、美しい。


 ヒロインちゃんは第一王子の試練を破り、より垢抜けて綺麗に、王族の婚約者にふさわしい令嬢へと成長する。

 第二王子も頼りなく逃げ回っていた公務も凛々しくこなしていく。

 第一王子も認めたくはないが認めざるを得ない……という辺りで、お話は最終章へ。

 国の最南西の領地に魔王城がドドーン!

 ちなみに、今現在の話をすると魔王城はもう出来ていて、隠してあるよ。

 魔宰相クインシーがクラフトビルドが大好きだから任せてある。毎回いろんな仕掛けを加味する、サービス精神旺盛なダンジョンマスターなんだよね。


 その③の魔王登場!

 魔王の出現に呼応するかのように女神の啓示を受けた勇者が発見される。

 あちこちで暴れ回る魔獣達に、王国軍や冒険者のみならず、王立アカデミーから学徒動員で魔力の高い生徒も戦力として駆り出される。


 そしてですね、ヒロインちゃんは勇者と出会ったバトルで聖女として覚醒!(今のヒロインちゃんはただ魔力の高い庶民枠だよ。魔力で魔王陣営(われわれ)には聖女ってバレバレだけど。)

 はい、勇者くんったら噛ませ犬役です。

 第二王子に嫉妬させるための役どころに「勇者」なんだから、乙女ゲームすごい。恋愛脳炸裂。


 くぅ……! 王子様と勇者様に恋い慕われる三角関係!! どっちを選ぶの!? 主人公ヒロインちゃん!

 ──という流れですよね。


 もちろん、難易度は高め設定だけど勇者ルートも存在する。

 勇者ルートなんて……第二王子に感情移入してみてみるとエグい話……可哀想……。考えてもみて欲しい……断罪され終わっている悪役令嬢ラクエルの存在意義……泣くよ?


 逆ハーレム要素の薄い、魔王討伐までは各攻略対象ごとにキャラによって独立した展開が用意されているゲームだったけど、この嫉妬勇者と魔王は全ルート共通。


 悲しいね、噛ませ犬勇者なんて役、悲しいね……わかるよ……。







 なお、ここまでは作中作ゲームのお話。


 悪役令嬢ラクエルが主人公な小説……漫画……いやもう両方あったのかなぁ? そこまでは覚えてないな。

 なんせよ?

 初代日本人として読んで、二回魔王としてそれぞれ三十年くらい生きてた。

 よくある合計年齢で言ってしまうならば、百歳は超えてる……さすがに多少忘れていくよ、許して。


 それで悪役令嬢ラクエルの物語は当然ながら攻略対象が第二王子ルート。  

 まずラクエルは八歳で悪役令嬢転生に気付くとワガママをやめる。

 お茶会で知り合った令嬢やツテを辿り、また城下町へ行って先行してヒロインちゃんと出会うと腹黒く優しくして仲良しになるんだ。

 無害な友達と思わせる……。


 そうこうしてお茶会を重ねていく中で、第二王子が婚約を打診してくるが、公爵邸での顔合わせに無理やりヒロインちゃんを連れ込み二人を出会わせる……。

 そこで第二王子は「好みドンピシャ」なヒロインちゃんを目の当たりにして正式な婚約の打診を先送りにするのだ。


 本来なら王立アカデミーで出会う二人が十歳で仲良しお友達から……をはじめると、不審に思って調査に乗り出してくる第一王子。

 一方、その間にも第二王子とヒロインちゃんを引き合わせまくる悪役令嬢。

 そんな中、ヒロインちゃんは魔力の高さからも男爵家へ。

 第ニ王子は貴族になったヒロインちゃんと「もしかしたら婚約できるかも……」と思い始めるわけですよ。


 様子を見ていた第一王子もいよいよ動かないといけないなと腰を上げ、王家主催のお茶会でヒロインちゃんを招待する……。


 はい!

 そのお茶会が、明後日のやつです!


 ヒロインちゃんも第二王子も、いま目の前にいる第一王子ノルベルトも勢揃いする……。

 うわぁ……会いたくない……!

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