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だから、魔王やめたい  作者: 江村朋恵
一章 12歳編
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1-6【ラクエル】図書館にて

 おばちゃんに聞いたとおり進み、警備の人を見つけた。


「ん? この首都にある公立図書館ならここルーンライトだけだろう?」

 警備のおじさんはしゃがんで目線を合わせてくれる。

「はい。一人で来たことがなくて……」

 適当に言い訳をすると、おじさんはハハハと笑う。


「門も忘れちゃったか? 図書館ならここだぞ?」

「え!?」


 と、いうわけで、おばちゃんは図書館までの道を教えてくれてたし、おじさんは図書館警備のおじさんでした。


 ──始めたて、インしたてのゲームでNPC巡りクエストさせられた気分……初心者にやさしい。

 今後一切関わり無さそうなのに親切にしてくれちゃうなんて……。

 第一現地人(ゴロツキ除く庶民)は胡散臭い占い師だったから余計に染みる……。

 私、魔王だけど、このおっちゃんおばちゃんの親切に免じてこの王都は決して傷つけませんぞ……!


 そうして、私は手を降ってくれるおっちゃんに曖昧な愛想笑いで手を振り替えし、門をくぐった。


 悪役令嬢モノの定番は『よし! 状況確認だ!』とペンと紙持って前世の記憶で攻略対象やらをおさらいするわけですが、そんなことより気になることがあるので省略。


 そう、やっておかねば。

 ──前世魔王で死んでからこっちの歴史チェックですよ……!


 主席補佐官のアイリに聞けばわかる話なのだけど、彼は魔王軍側のバイアスがかなり、かーなーりかかってしまう。

 基本的に女神クリアレイスを崇める人間を極度に、重度に嫌っているからね、表情には出さないけど糞やらブタ扱いというか。いや、豚さんは綺麗好きなんだけど。侮蔑語じゃないはずなんだけど……。


 人間側の記録だけ見ても人間の方の補正がかかる。

 どっちも把握しておかないと、トップたる魔王は身動きとれないんだな。

 なので、図書館。


 門を抜けてエントランスまでは庭園のような噴水付きのアプローチが繋いでいて、圧巻。左右は王都の中ってことを忘れさせる、手入れされた木々で覆われている。

 街の図書館規模じゃないな。

 超豪邸、洋館の趣き。


 街の繁栄具合についてだけど──。


 前回の魔王の時は、前前回、前前前回の反省から細心の注意を払って一般人やその住処に被害が出ないよう頑張った。魔王わたしは頑張ったんだよ。


 刃向かってくる女神の使徒のみを荒野とか特撮向けバトルシチュエーションみたいなところまで「──こっちだ!」とかなんとか言って誘導してから戦うようにしてたりとかね?


 人の住んでたとこは壊さず済ませた(……私が殺された)はず(切ない)。

 最終バトルだっていつも私達が頑張って作った魔王城だったしさ。

 きっと復興らしい復興も必要なく、どんどん発展出来たんだろうねぇ。

 良かった良かった。

 単なる災禍になりたいわけじゃないんだよ、魔王だなんて呼ばれていてもさ。


 そうだよ! 単に女神クリアレイスを、ここ二千年ほど主神扱いされている女神をぶち倒す為の活動してたら魔王呼ばわりされただけだし、自称するのは勝てない自虐みたいなもんだし………それはまぁ、いいわ。


 門柱が重厚なエントランスを支えている。要所要所のアイビーが素敵だ。

 スロープと階段を備えたバリアフリーの入り口を通り、図書館の中へ……豪華だな。公立……もしや肝いり国立なのか??


 だいたい通りを歩いてても思ったもんだ。


 ──めちゃくちゃ人口増えてね? とか。


 私達が潰したいのはアイリオルが言っていたように、似非神話であり、流布に熱心な女神クリアレイスなのだけど……一体、世界人口は、女神の信奉者は何人くらいになってんだろう……。


 ──女神の力は民心の信仰に比例する……あの女、どんだけ強くなって……。


 暗くなりそうな気分を首を降って追い払う。

 

 特に受付もなく、奥へ進めばさらに巨大なトビラが──中は、完全吹き抜け構造四階建て、四階までの壁一面に本がびっっしり!!


 中二階、中三階、中四階の通路には読書スペースが設けられている。

 一階は広々としたあちこちに本棚があり、センターに丸い貸出等カウンターがある。重厚な木製机だ。


 吹き抜け四階の上、天井はガラスでなんと、お空が丸見え!! 採光すばらしく、めちゃくちゃ明るい!!


 ──なんっ! なんこれ!? うわっ、本とか抜きですごい! ステキ!! 設計者どこのどいつです!?

 

 しかも一階の読書スペースはアーチ区切りの個室みたいになってて、雰囲気がステキ(語彙力)……!

 ちょっとこのあちこちからきてる間接照明発生源どこよ!? センス良すぎ!

 これでジャズサウンドでも流れて、コーヒー飲めたら最高じゃないかな。

 ──住ませて……。


 そこまで考えて、私はまた頭をぶんぶん振った。


 ちがうちがう、こんなわかりやすい観光客みたいなことしにきたんじゃない。


 決意を改たにして奥へ進もうとすると──。


「お嬢様、こちらはルーンライト国立大図書館になります。身分の証明を頂かないとご入館頂けません」

 受付カウンターから中年の紳士が出てきて言った。


 ──身分、証明……な、なるほど!


「あの、今日は証明になるものを持ち合わせてはいないのです……」

「左様でございますか、ではこちらへ──」

 ニコッと微笑み、出口へ誘導してくる。


「ええっと、身分というと」

「はい。こちらは子爵家以上のご子息ご令嬢までがご利用になれます。また、高額にはなりますが入館証をお買上げ頂いた第三身分の皆様がお入りいただけるようになっております」


 王侯貴族と大金払った大商人やら各種ギルド長クラス、または学者、はたまたさらにもっと大金払ったA級以上の冒険者まで……かな。


「お嬢様がもし該当されるようでしたら、何か証明するものをお持ちではありませんか?」

 あくまで対応は柔らかい物腰の紳士。教育が行き届いてる……。


 まいったな。

 お忍びでこっそり来てるのに『私はアルティネンス公爵家令嬢ラクエルよ! そこをおどきなさい!』とか出来ないしな。

 一度お忍びが見つかったら、次の脱出が難しくなる……。



 ──どうしようか。


 悩んでいると、紳士の後ろからひょっこりと少年が顔を出した。


「──どうしたの?」


 ……少年は少し年上、ハーフアップに左目下に泣きぼくろがある。



 ──うわ……コイツ知ってるわ。



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