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だから、魔王やめたい  作者: 江村朋恵
一章 12歳編
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1-5【ラクエル】魔王サマ、城下町に立つ

 ──当然と言えば当然なのだけれど。


 腰に下げた武器を抜かなかったのはこちらを傷つけず身代金でも取ろうとしたからか。


 洗練された騎士でもないただのゴロツキの動きなんてバレバレ。


 ささっと避け、壁をトントンと駆け上がるとゴロツキ達の頭の上へピョーン、ピョーンとジャンプ。


 気分は赤とか緑の服の配管工兄弟である。いや、あの兄弟(ブラザーズ)は公式サイトによると配管工をしていたこともあるらしいと伝聞形式で伝えていて……。


 一踏みする度に「ふぎゃ!」だの「んぐっ!」と悲鳴を上げて気絶してしまうゴロツキ達。


 全員を()してしまうと両手を広げて華麗に着地。


 ポケットの中の護衛役ララも目覚めない程の雑魚戦を終え、表通りへ向かう。


 はぁ……普通の悪役令嬢だときっとヒーロー枠の男の子とかが助けてくれたんだろうなぁ。

 けど私、魔王だし……ゴロツキ風情じゃねぇ、展開(のぞみ)薄すぎ。







「──お嬢さん」


 薄暗い路地しばらく歩き、通りの明るさが眩しく見えた頃だ。

 路地端のゴミ山だと思っていた黒い塊に声をかけられた。


「お嬢さん……あんたァ、少しいいとこのお嬢さんだねぇ?」


 裏路地なのに人が居すぎじゃなかろうか。治安が悪いのか人口が多いのか。


「……へぇ? 占い師かなんか? なになに?」


 お邸の外、こっちの立場を知らない庶民との会話第一号だ。なお、ゴロツキは除く。

 ゴロツキにも良いとこのお嬢さんバレしてたけど、この服、まだ高価なのか。アイリめ……奴もなんだかんだ伯爵家令嬢なわけで、ズレてんのか。

 あとでクレームつけよ。


 ──で、そいつは路地裏の片隅にミニマムなテーブルセットを置いて待ち構えていたようだ。


 テーブルに怪しげな紋様の書かれた紙や巻物、布を広げ、真ん中にデカい水晶玉、縦長のカードを並べて手招きしている。いかにもすぎる。


 近寄れば、そいつは目深に被った深緑のフードの奥から睨みつけてくる。怪しさ満載だな、笑っちゃう。

 いや、私もフードだし、どっこいどっこいなのか?


「この世にはね、恐ろしい黒魔術が存在するんだ。オマエはその才能が飛び抜けて高い……。でも手を出してはいけないよ? 一度黒魔術に染まろうものなら、二度と人としての幸福は味わえないんだ……」


 性別不詳のしゃがれた声。失礼にもしわっしわの手で指さしてくる。

 ほんと、いかにもぼったくりそうな占い師だな、偽物かな。

 テーブルに置いた水晶体の上で手をうごめかせ、ニタニタした笑みを投げかけてくる。


 とはいえ、会話者第一号なので少しは興味を出しておく。

 十二歳という歳に見えるよう、コテンと首を傾げてやった。


「……もし、黒魔術に手を出したらどうしたらいいの?」

「それはもちろん女神クリアレイス様のお許しを頂くために──」

「ために?」

「おっと、ここから先は有料だよ」


 ──……はン………だろうな。


「じゃ、いらない。バイバイ」

「な!? もし黒魔法を使ってしまったとして、気にならないのかい!? 不幸になるんだよ!? ──お待ち!!」


 ま、路地裏の占い師なんてこんなものか。


 私はニコッと微笑み──「もう何度も使ってるからね」と告げて立ち去ったのだった。

 魔王サマを舐めないで頂きたいもんだ。一番の得意が黒魔術だぞ。ふんすふんす。


 ストリートに出るや、リズミカルでなんだか陽気な感じのバグパイプで奏でる民俗音楽というかケルト民謡的というか、踊りたくなる音楽が聞こえてきそうな雰囲気だ。明るくて、ほどよく雑踏で──。


 六台がすれ違える馬車道の両サイドは四~五階建ての立派な町並みが続いている。レンガ作りや白塗りの壁に黒い板を縦や×に配置して、ザ・ゲーム風ファンタジー!という様相。


 人通りはやたら多く、馬車一つ分の幅がある舗道なのにすれ違うのもやっとという感じか。


 ──随分、栄えてるなぁ。


 歩いているのは下級貴族一割、金持ってそうな庶民三割に仕事着の庶民四割か。残り二割は旅人や冒険者、商団の傭兵という感じかな。

 貴族の大半は馬車なんだろうね。


 これが、うろ覚えになりつつあるけど、前前前世で読んでた悪役令嬢が頑張って幸せを掴んでいく物語の世界観……のはず。

 作中作レインボーなんちゃらの可能性が無きにしもあらず……なのだけど、この私が悪役令嬢としてヒロインちゃんをイジメる展開なんて有り得ない。なので、作中作ゲームの線は、私が記憶を持っている時点で無いのだ。


 王道ヒロインちゃんの物語が一次創作だとして、悪役令嬢物語が二次的創作という位置づけならば、私の魔王が悪役令嬢転生って展開は三次的と呼べるのかな。もうわけわかんないね。


 物語として、ジャンル二次的悪役令嬢主人公は、例えば婚約破棄前、あるいは婚約破棄後、さまざまなルートがあった。


 破棄前に諦める、悪役のノリにのる、必死で抗ったり強制力にひっぱられたり、思い出せなかったり……破棄後は準備していた「ざまぁ!」を炸裂させたり、他のヒーローキャラに愛でられたり、逃走したり、開放されたとスローライフしたり、とにかく自由なジャンルで私はとっても大好きでそれはもういっぱい、いっぱい読んだもんです。


 まさか自分がその立ち位置とは……。

 でも、私の読んだ物語の場合、悪役令嬢主人公が幸せになっているからそれをなぞれば問題ないように思える。


 ──って思うじゃん?


 残念、私、魔王なんだよなぁ。しかも負け魔王。

 聖女ヒロインの逆ハーレム展開を阻止したところでハッピーになれないというか……。


 そもそもさぁ、悪役令嬢主人公ちゃん、復活しちゃう魔王を聖女と一緒に倒してなかったかなぁ…………?


 もうなんか、魔王=悪役令嬢主人公になっちゃって、すでに物語から遠のいてる気がするよ。

 んだからもう、行きあたりばったりしかないよね。

 基本的に危険なことは物理的なゴリ押しで排除できるのだし。


 何もしないで王道ヒロインちゃんが主人公になっちゃう展開なぞってもさ、せいぜい悪役令嬢ちゃんは国外追放か修道院行きの途中で野盗に殺されるか、娼館ボテ腹出産即死亡エンドか下っ端兵士による折檻拷問死かのどれかだし……。


 別にどんなバッドになってもさぁ、自力で脱出出来るし、魔王軍大幹部じゃなくても幹部の子達がチョロっと顔出すだけで回避出来ちゃうんだよね。


 ──問題は、物語の魔王の絡み方だよ。

 王道ヒロインちゃんが主人公でも、悪役令嬢ちゃんが主人公でも、どんな進み方をしてもラスボスは魔王なんだよ。


 魔王を倒してカタルシス。

 恋愛方面も素敵にまるっと大団円。


 ハッピーエンドの定義とは……。

 あ、ちょっとしょんぼりしそう。

 悪役の切なさってコレなのね。


「…………」


 舗装路には一定間隔でベンチが置いてある。

 人混みを抜け、ベンチに座る庶民ぽいおばちゃんを見つけて公立の──誰でも入れる──図書館の場所を聞いた。


「ああ、図書館? お嬢ちゃん、休日にも勉強? えらいねぇ。ほら、お城の下、手前に時計塔が見えるだろう? そう、一番大きなサイドストリートだよ。この中央通りとの交差点を北東側へ渡りな。サイドストリート沿いに大きな門扉があるんだけどね、警備の人が二人立ってるから、そこでまた聞いてみるといいよ」


 物凄く丁寧に教えてくれた……優しい……。

 庶民に紛れて、悪役令嬢の立ち位置も魔王であることも忘れて生きられたら、どんなに楽なことか……なんて、考えちゃうね。優しくされちゃうとさ。


 ふと「みゃーうー?」とポケットから聞こえた。

 ララだ。

 わかっちゃうのかな、動物的勘かな。


「……大丈夫だよ、ありがと」

 小さく呟いた。きっと聞こえてるはず。


 強いチートな魔王サマではありますが、最後はいつも女神の勢力に魔王城ぶっこわされ、幹部も大幹部も次々と破られ、ララも封印され……私も殺されるんですよ。四肢もブチ切られて……粉々に砕かれる。

 悪役なんです……どこまでも。ざまぁされる。いいよね、スッキリする方は……つらい。


 全然、楽勝な道行きはないよね、勝てたことがないんだから。


 でも、前前前世……この世界に最初に生まれ変わったとき、戦うって決めたから。

 ──打倒! 女神!!


 おし! 図書館行こっ!


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