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だから、魔王やめたい  作者: 江村朋恵
一章 12歳編
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1-4【ラクエル】ストレスは発散するためにある

 悲しいかな、明後日に迫る王家主催のお茶会参加を避けられないそうにない……ハゲそう。


 前前前世は日本人だったけど、その次からはこの世界で転生を繰り返している。

 もしかすると死んだエリアで生まれ変わりの初期スポーン地点が変更される? なんてゲーム臭いことを考えてみたり。


 農民やら庶民で産まれて多兄弟で好き放題育って──そのうち魔力がデカ過ぎることに気付くと過去世を思い出して魔王覚醒……。

 そうやって魔王をやってきた今までは、本当に気楽だった……。

 思わず遠い目になっちゃう。


 ──貴族令嬢! めんどくさっ!!!!


 なんかもう、やっと十二歳……、やっとだよ。

 記憶ありで乳幼児期、学童期何度もやるの、飽き飽きしてる。


 赤ちゃんの度にオムツ生活だし? トイレトレーニングだし? 歯も生え変わるし? 成長痛も何回経験すればいいんだって感じだし? その土地時代の生活習慣学び直しも心底ダルい。


 最初、私は日本人の小娘としてこの世界に転移してきた。

 そのときから、この世界は西洋風ファンタジー+魔法の世界と思い込んでた。髪がちょっとばかりカラフルな……。


 来たばかりの頃は女神クリアレイスと対立することになるなんて思いもしなかったしね。

 まして、自分が魔王になるなんて事も……。


 でも今回、悪役令嬢設定転生を果たしてしまったせいで、この世界は日本で魔改造されてゲーム風剣と魔法の世界を再表現化した漫画風異世界ファンタジーワールドなのだと理解も深まった……。

 オープンワールドにしては広すぎるけど。


 それにしても、今回は特に……貴族!!


 三歳から何人もの家庭教師がついて毎日毎日座学にマナーにダンスに……ッ死ぬ!!!

 朝食後三時間、昼食後三時間。お茶して二時間……長くない?

 中高生の年齢ならわかるけど、これ三歳からだからね……。


 前前前世日本人時代の経験から言えるのは、精神的大人になってから、小学中学等教育機関のような束縛・押さえ付け集団生活って苦痛というか無理……。

 

 学校で一律右に倣えの暮らしも、決まった答えを覚え込むような学習スタイルも、私なら仕事(金稼ぎ)でなきゃ出来ない! って思っちゃう。


 学校って金払っていくよね、ほんとツライ。


 学生時代なんて記憶ある限り一時期一回目限りでいいよ。

 何度もいらないよー。

 宿題もテストも集団生活も、あの逃げ場が無い感じとかいやだよぉ~~……こんなこと言ってたら情けない魔王と思われそうだ……でも、ヤダモン……。魔王でも苦痛だよ。


 確か、悪役令嬢設定のせいで十四歳だったか、貴族の子女向け学園+寄宿舎生活が始まる。

 ……二年後かよ、もうあと二年しかないんかい……。


 しかも、しかもだよ? 侍女? 侍従? なにあれ。

 いっつもいっつも張り付きおって。

 プライベートがないじゃないか!!


 先月からタチアナという代々公爵家に仕えるとある一族の娘さんが私の侍女兼護衛としてあてがわれたのだけど……いらない!

 魔王の私にはいらない。


 私は一人でのんびりぷらぷら好き勝手するのが幸せなの!

 その為なら、もう赤ん坊でもないし、身の回りの世話もなんなら金稼ぎだって出来るってのに!


 ──てな感じでいろいろと鬱憤が溜まってきていたので街へ出ることにした。

 なお、私ことラクエル公爵令嬢は生まれてから首都の超巨大なタウンハウスで育っている。が、邸の外にはほとんど出たことがない。買い物だって店の方が来るからね。うん、店が来るんだ……。どんだけ金持ちなの。


 抜け出すに当たってもちろん、スーパー侍女らしいタチアナもサラリーンとまいた。

 例えば前世魔王の私を討伐した時点の勇者が100レベルだったとして、スーパー侍女タチアナは楽々50くらいかな。

 今回、初脱出につき油断されまくってて……あとは帰ってきた時に広いお庭に隠れてましたって事に……出来ればいいねってとこ。

 出来なくてもまぁ、どっちでもいいけど。


 悪役令嬢転生なるものをしてしまったわけだけど、それ以前に魔王として君臨した身だ。

 全盛期の力はまだ出せないけど、そこらの有象無象の小悪党なんて服に入り込んだ蜂!


 ……うん、まぁ、ボチボチね……。


 優秀な我が主席補佐官に前もって庶民服を頼んでおいたのだが、先日の二人お茶会のときに受け取ってある。

 朝食後、私室で一人になるやさくっと庶民服に着替えた。


 ──落ち着く……。


 貴族のドレスなんて言わずもがな、普段着ワンピースもやはり汚したらマズイ高いと貧乏性が捨てられない。

 町娘風の少しくたびれたワンピースにフード付きポンチョを羽織る。

 なんか、もっと薄茶色いよれよれの作業着くらいがいいんだけどな……。


 着替えついでに大きさ自在で親指サイズに小さくなってくれてる神獣ララを護衛役にと貴族ワンピースのスカートのポケットから引っ張りだす。


 軽くつまんでみるけどグースカ寝ている。

 魔王(わたし)の復活と一緒に封印を破ったんだろうけど、十年以上経ってるのにまだ本来の(ドラゴン)形態にならない。

 最後まで、勇者聖女と戦う私達を庇って女神と対峙してくれてたからね……まだ疲れが取り切れないんだね……。


 とはいえ、そんなララニールもさすがに子猫感はなくなり、頭の小さめなヤマネコみたいな雰囲気になっている。が、本性は立派なドラゴンなので護衛として有り余る十分感。


 なお、私がこけてポケット踏んだとしてもその程度で潰れたりするヤワなモフモフでもないので気にせず持ち歩く。

 護衛なんて正直いらないのだが、他の大幹部連中がうるさいので私はララ(だいたい寝てる)を免罪符にうろつくのだ。


 家庭教師や来客も何も一週間七日で七日間くるわけではなく、ニ~三日おきに休みがある。

 その日に予定を入れこんだりするが、今日はポカっと空いた完全な休日!


 お休み、大事! 


 変装の仕上げに鏡を見つめつつ無詠唱魔術を使っていく。


 髪色チェンジで金髪からオーソドックスな茶髪に変えて乱雑に流す。

 瞳も鳶色に変えてしまう。

 魔力がめちゃくちゃ高い相手は欺けないが、そこらの人々にはこれで十分なのだ。


 よく知らない相手なら髪色髪型と瞳の色で簡単に記憶に残る印象を変えておけるのだ。

 人が誰かを「文字情報」で記憶するのに髪と瞳は大きな特徴になるから。そこを逆手に取る。


 フードをかぶり姿隠しの魔術をかけ、窓の外に出ると軽い魔力の放出で浮く術で広すぎる公爵邸の敷地内を抜ける。

 そのままふわっとメインストリートではない路地へ着地。


 今までと違い、貴族としては最上位の公爵家になんか生まれたもんだから、外を独り歩きなんてしたことがないのだ。この人生では。

 前回魔王やってたときから500年ほど経っているはず。


 ──どんな風に変わってるかな♪


 貴族街を魔力ブーストした脚力──ジャンプ力建物三階分、一蹴りダッシュ十メートル──を使って数分で抜け出す。

 一度ポーンと高く飛び上がると、見渡しきれない街並みが広がっていることを知った。


 ──は!? 人口やばいのでは……!? はぁ!? いや……えー……。


 五百年前の首都の人口はせいぜい五千人程度……。

 昔の規模の首都は確かに神獣ララニールの一蹴りで破壊出来ただろうが、この広さ、抵抗されなかったとしても破壊しつくすには十日以上必要だ。そもそも何せ、巨大竜化したララは燃費が悪い。


 ──一万…いや、人口数十万人単位の街だこれ……。


 目の前に臨む景色は、三階建て以上の建物も延々と連なっている。

 もし間違って街で乱闘(あばれ)でもしたら、簡単に他人を巻き込んでしまうだろう。


 ──うわぁ……住民増えすぎ……魔王だからって「人間どもは皆殺しだああ」ってやりたいわけじゃないんだぞ。


 飛び上がって◎と十字が重なった看板モチーフが見えた。教会だ。

 街が大きくなっている分、いくつか見える。


 ──魔王(わたし)が消したいのは女神信仰と女神であって、人間じゃないからな……。


 目標達成の難易度が討伐される度に上がっている気がするが、一先ず陰鬱な気持ちは頭の端に追いやった。


 地上の裏路地に降り立ち、馬車が六台入れ違う王都センターストリートを目指す。


 姿隠しの述を解くと裏路地を駆け抜け、ワイワイガヤガヤと朝から人通りも激しい城下町一番の繁華街へと足を踏み出した……のだけれども……。


「──おんや~? こんなところにお綺麗なお洋服のお嬢ちゃん、なんでかな~??」


 暗い角を曲がったところに五人のゴロツキが歓談していたらしいところに出てしまったようだ。


「お貴族かねぇ? お嬢ちゃん、お名前は~??」

 下卑た笑いを浮かべて五人は各々立ち上がり、周りを取り囲んだ。



 

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