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己を知る

 さて、散々分裂の危険性を説いておいて何ではあるが、自我の分裂の前に、統合を目指すメリットや、統合に向けてのアプローチ方法を述べていく。

 かつて孫子はこの様な言葉を残したと、中国の後漢末~三国時代の政治家である曹孟徳氏はその著書に記した。曰わく、彼を知り、己を知らば百戦危うからず。彼を知らず、己を知らば一勝して一敗す。彼を知らず、己を知らざれば戦う毎に必ず敗る。恐らく、孫子は記録に残る最古のリアリストの一人だ。迷信が蔓延る世において出た言葉としては普遍的に過ぎるが、私の中の擬似的孫子に対して「何をどうしたらこんな言葉を残せるのか?」と問うと「こんな平凡で普遍的な言葉が出てこないのか?」と問い返されるだろう。確かに、二千年以上の時を超えて、今なお戦争に関係の無いところでも語り継がれているのだから、普遍的な言葉なのだろう。そしてわざわざ語り継がれているのだから、平凡ながらも忘れがちな言葉なのではないだろうか。

 普遍的であるならば、幅広い状況で役に立つという事だ。ならばこの言葉の意味を考えよう。もっとも、とっくに様々な人に散々考察され尽くした言葉だが。

 相手も自身も知らざる状況とは、最も酷い状況を考えると5W1Hの何一つを知らない状態だ。もしあなたが突然指揮官になったとして「報告!我が軍がいつ、どこで、どのように、何をしているか不明!敵も同様!ところで、我が軍とは何で、敵とは何でありますか!?」という報告を受けたとしたら、そんな軍は投げ捨てて逃げ出すだろう。効率的なリアリストならばその場で血を吐いて死ぬかもしれない。己を知らざるという事は勝利条件を定義出来ないという事だ。目的を定義出来ない以上、計画策定の初期段階から破綻している。もしこのまま計画策定を続けると「とりあえずいつもの場所で会戦して、勝てるまで戦えば良いか。敵がいつ来るか分からないけどなんとかなるだろう」という計画が出来上がる。敵も同じ状況だとすると、互いの資源を吐き出し尽くすまで戦争が続く。まさに地獄である。

 現実にはこんな愚か者はそう居ないが、現実においても、目的の達成状況を知る指標たる目標が目的に成り代わっていたり、手段自体が目的に成り代わっている事は意外と多い。己とは知っているつもりでも、意外と知らないものだ。あなたが知っている己とは、厳密には過去のあなただ。現在のあなたは概念、或いは可能性なので、あなたが知覚している己とは過去のあなたである。あなたが知覚している己が新鮮ならば現在のあなたに近い存在だが、気が付けば乖離している事も意外と多い。己とは何者か、定期的に問う必要があるだろう。適切に実行出来れば、老害とは無縁で居られる。

 計画策定の初期段階で必要とされている以上、まずは己を知る事がスタートラインである。そして自我の統合は己を知る為に役に立つ。自我が統合されると、その思考はよりシンプルとなり、より理解し易くなる。これが自我の統合による効果だ。自己理解自体も自我の統合をもたらすので、自我の統合は結果でもあり、その結果を目指す為の目標でもあり、その目標を達する過程でもあり、その過程を経る手段でもある。互いを繰り返す事で自我は統合され、安定した状態に近付く事が出来るだろう。歳を重ねると疎かになりがちだが。

 己とは何者なのか。己を推し量るのは意外と難しい。何故ならば、観測者と観測対象が同じという事は、観測者に変化があった場合は観測対象も変化するからだ。例えば熱膨張の影響を受ける同じ長さの定規を用意し、常温と熱い状態で互いに測っても、同じ長さとして観測される。もちろん実際の長さは違う。そして実際の長さを測るには別な定規が必要だ。事実上、絶対的な長さは測れないが、相対的に観測する事で長さの違いを認識する事が出来る。

 絶対的な己は、恐らく自覚も理解も出来ない。だが相対的に観測出来るはずだ。その手段として、過程として、時に目標としても役立つのがエニアグラムだ。自己理解の邪魔にならないなら、エニアグラムが示す健全な性格を目標としても構わないだろう。だが、もしエニアグラムが示す性格があなたの人格そのものに見えてしまったなら、少し休んだ方が良い。自身を定義する事は、時に危険行為になり得る。


 さて、直接的アプローチ方法を好む方はとっくに退屈になっているだろう。楽しい実践編を始める事にする。

 先に断っておくが、私はエニアグラムに関する本を15年前に一冊読み、気の向くままにWEBサイトを読み込んだ程度のおじさんである。エニアグラムについて修めていない私がエニアグラムを語るのは真に笑止な事だが、活用した時の経験則を元に記述していく。

 エニアグラムの基礎理論によると、ヒトが何らかの行動を取るに至る動機を3種類に定義出来るとしている。突き詰めれば無数に存在するが、一旦割愛する。そして、その3種類とは即ち、本能、感情、理屈の3つである。ヒトはこの全てを兼ね備えるが、これらの相対的なバランスや、その値の高低が人の性格として顕れるという。そしてそのバランスや高低は、同じ人でもその時のコンディションによって変化する。性格がコロコロ変わるというのも妙な話だが、事実として人が何らかの決断を下す時に、その時抱えているストレスの影響を大いに受ける。そこまで想定している割に、エニアグラムは実に分かり易く、解りやすい。話が逸れたが、これからは人々の取る行動が何に影響されて生じているのかを解説していく。

 次回は前述の3種類の動機について解説する予定です。

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