公女様と手紙の行方
2ヶ月前。
『それなら、完成したら見せてほしいな』
『えっ』
『刺繍の練習してるとこの前言ってたね。そろそろ完成できるならぜひ見せてほしい』
『えっと、それはちょっと……』
(あの何度もやり直したガタガタの刺繍をあまり人に見せたくないなぁ)
けれどなんか期待しているテオドール殿下の笑顔に嫌とも言い出しにくい
う~んと唸るわたしの何が楽しいのかニコニコ笑う殿下。
考えてることが分からなすぎてこわい。
けど、やっぱり見せるならもう少しキレイに縫えた物がいいし
『新しく縫った物ではダメですか?今のよりうまく縫えると思います』
『べつに出来映えがうまくなくても笑わないよ?』
『そっそれでも、できるだけキレイにできた物の方を見せたいのです!完成しましたらテオドール殿下へ送りますからっ』
『……へぇ。くれるんだ?』
『えっ?』
『くれるの?』
『はい、殿下さえよろしければぜひ』
『わかった。楽しみにしてまってるよ、そうだ、なら使う生地や糸はこちらで用意するから好きな生地を使っていいよ』
そうゆうと近くのメイドに何かを告げて、頭を下げたメイドはそのまま扉から出ていった。
これで部屋にいるのは私と殿下、殿下の護衛騎士そして離れたところに三人のメイドがたたずんでる六人だけとなった。
『あぁ、そうだ今のうちに教えとくね。近いうちにヨークットル公国から使者と共に公国のご子息方が来るんだ』
『ヨークットル公国の公子様と公女様がいらっしゃるんですか?』
『そう。使者が条約でこちらの官僚と会談してる間、彼らの案内など兄上とすることになってね。しばらく君と会える時間が少なくなると思うけど』
『手紙は書くよ、時間ができれば会いに行く』
『っ!?』
ゴホゴホっと飲んでた紅茶が変なとこに入りむせてしまい苦しい。
会いに行くって急にどうしたのこの人
咳き込む私の背中をメイドが優しく叩いて落ち着かせようとしてくれた。涙目になりながらチラッと殿下を見ればなんか面白そうに見てくる
なんなんだろうこの人こんな性格だったけ?
「お嬢様を見てると人は成長できるものなんだと実感します」
しみじみとアナベルが刺繍している作業を見守っていたスミレからの一言。
「それってどうゆう意味かな?スミレ」
「ほめてるんすよ?だって、勉強もできず運動を嫌がり好きなものしか食べないわがままばかりの注意をされたら癇癪おこしてあまつさえ刺繍とゆう赤とうがらしからのチューリップに進化を遂げた腕前がわずか2ヶ月でここまで成長するとはお嬢様の専属についた頃は想像できませんでしたから」
「ス・ミ・レあとで話があるから来なさい?」
「ちょっ、ミモザだって教会で『アナベル様が何事にもガンバるようになるなんて夢でも見てるのかもしれない。神よ夢ではありませんよね、あのこの努力が報われますよう』って言ってたじゃないイタタタッ!ふぉふぉ引っ張らないっ」
「あなたの口はどうしてこうも軽いのかしらっ、とゆうかどうして知ってるのよ」
フンッと鼻息を鳴らし頬を摘まんでいた手を離してそのままミモザは飲み終わった茶器を片付けて出ていった。出ていくときに耳が赤くなっていたのは多分気のせいじゃない。
いつも一礼してから下がるミモザがササッと出ていくなんてよっぽど照れてるのかもしれない。
「ミモザ教会に行ってたんだ」
「まぁ願掛けと報告にいってたんでしょう」
願掛け?どうゆうことかスミレを見るとあっやば。みたいな顔をしたけど少し間を置いて言いづらそうに
「……今言うのもどうかと思うすけど、以前までお嬢様の専属メイドになりたがる使用人がいなかったんす」
「そっかぁ……」
「うちとミモザが立候補して。ミモザはお嬢様が屋敷の中でも浮いた状態を見てられなくてよく注意してたじゃないですか、お嬢様何をやるにも空回りばかりだからすぐに止めてしまうし。だからお嬢様が何か始める時は上手くいくように終わったら結果報告に行くようになったらしいですよ」
ミモザがそうゆうことしてたなんて知らなかった。
癇癪を起こして散々周囲に迷惑をかけていたから屋敷の使用人に拒絶されてた話は当たり前だと思うからショックはなかった
「スミレはどうしてわたしのメイドになったの?」
「うちっすか?別に対した理由なんかないですよ。前にも言いましたけどお嬢様ってうちの弟妹ににてる感じがして面倒みるのが当たり前って思っただけです。まぁあとはここなら適度に休めるかもとか思ってたらミモザにダメだしくらう日々を送る毎日になってすけどね」
ニカッと白い歯をみせて笑ったスミレはわたしが手に持ってた刺繍を指差し
「猫ちゃんかわいくできてるじゃないすか、ちゃんとそれらしくみえます」
急に真っ正面からほめらたらやっぱり照れてはにかんだ笑い方になった。
テオドール殿下に送る白のハンカチの隅に白と黒の猫を二匹刺繍したそれは最後の仕上げを済ませなんとかチューリップよりもキレイに仕上がった出来映えだ。
猫は魔除けや幸運を引き寄せるとゆうし縁起がいい。あと殿下って猫ぽいし…
職人が作るほど立派じゃないけど殿下はこれを見たらどんな顔するんだろ
「完成もしたしあとは渡すだけ、前もって手紙を出してお城に持って行こうとおもんだ」
「いいんじゃないすか?前触れ出せば公子様達の相手をしてても時間開けることはできるでしょ。とゆうか、手紙出すとか時間ができれば会いにくるって言ってたのに全然ないなんてなんなんすか」
「……忙しいんだよきっと」
「四六時中ずっと相手してる訳じゃあるまいし変だと思うんすが。こっちの手紙の返事もしないなんて王子様でも失礼っす!」
次第に音沙汰ない殿下に対して憤慨を現すスミレを戻ってきたミモザがいい加減サボるなと叱責しそのまま部屋のそとに連れ出していった。
ハンカチを一旦畳んで机の脇に置いてからテオドール殿下に送る手紙を書いてミモザに配達人が来たら渡すように頼んだ。
それから数日いまだに返事が来ない。
* * * * *
「なにこれ」
王宮の来賓客が居住している一室にて
先ほどお使いが持ってきた上質な封筒の中から出てきたのはまたしても上質な紙だった。
「『約束の刺繍が完成したのでお持ちします』ーーー約束ってどうゆうこと?わたし知らないよ」
オレンジの髪を両サイドでまとめたシニヨンスタイルの髪型をした少女は生まれた頃から面倒を見てくれるメイドに読んでいた手紙の一部を指差し聞いた。
「おそらく、この手紙の方は殿下にハンカチに刺繍したものを送るつもりなのでしょう。完成したからこちらにくるようですね」
上質な紙にかかれた文字はお世辞にも達筆とは言えないことから代筆に頼らず自ら書いた手紙と推測できる。
「えぇーっこの子ここに来たらテオと一緒に遊べなくなるでしょ!やだやだっ」
「公女さまっ声が大きいです」
不満声を大にして訴えてくるが今王宮側の人にこの会話を聞かれたらまずい。
あわてて背後の扉の気配を探るがこちらの会話には気づかれてないようでほっと息が漏れる。
「何回も手紙送ってくるよねこの子、なんだっけ名前」
「アナベル・フローレスです。四代貴族の一家にして騎士の家柄でテオドール様の婚約者さまです。あなた様と同い年でもあります」
「……同い年ならわたしがテオと結婚したかった」
不満声を静かに落としながらドレスの端をにぎりしめ悔しそうに手紙を握りつぶして「あんなブタ女に横取りされるなんて聞いてないっ」壁に目掛けて投げた手紙は威力がたりずそのまま床にヒラヒラと落ちていく
「グレース様が相手だから、敵わないってあきらめたのにっなんで?」
「公女さまおちついてください、わたくしどももテオドール殿下にはあなた様こそがふさわしいと思っております」
「……ほんとうに?」
「えぇ、公女さまは愛らしく教養だって身につけてまいりましたでしょ?誰にも負けないように努力してきました。そんなあなたにこそ殿下の婚約者はふさわしいと存じております」
「フフっ」
ようやく花が咲くような笑顔が戻ってきた公女の様子にメイド達は安堵した。
先ほど公女を褒めた言葉も婚約者にふさわしいと言ったことも嘘じゃない
公女の見た目は愛らしいしオレンジの髪色と明るい色が日だまりの中のひまわりのようだと、さながら夏の花の妖精と云われるほど自国の国民に人気でもある
もしも、テオドール殿下と同じ国に生まれたのならこの子こそ婚約者に選ばれたのではないかと、グレース嬢の婚約内定が取り下げられたとき公国内で不正した官吏達を捕らえることに手を焼いてなければ公女を次の婚約者に進めれたはずだったのが悔やまれる
床に落ちたくしゃくしゃの手紙をひろげて内容を改めて読む。
字はキレイではないけどそれでも一文字ずつ丁寧に書こうとしたことが読み取れる。挨拶文から始まり当たり障りない文章が書かれていた
以前アナベル嬢の話は勉学一つせずわがままばかりの癇癪持ちだったが数年前からそれまでの様子がまるで人が変わったかのように教養を身につけようと努力し始めたと聞いたことがある
公国にまで知られてるアナベル嬢の怠惰な性格の持ち主を第2王子の婚約者に決めるなど大国が考えてることはわからないが、そもそも婚約が変わったのはそのアナベル嬢のわがまま一つだと言うではないか
四大貴族の生まれで兄は小国の王女と婚姻し姉は騎士団副団長と結婚したその上アナベル嬢が第2王子の婚約者などいくら砦を代々守ってきた騎士の一族といえど勢力が片寄りぎみではないか?
アナベル嬢は自らテオドール殿下の婚約者になったが重責からかストレスによる暴食によって肥満になるほど追い詰められたなら婚約が取り消された方が本人にもいいだろう
幸い公女は殿下に好意を持ってるし殿下も公女と話が合うのか頻繁に会いにくるようだ。
公国としても大国と婚姻を結べたならこの上ない
婚姻者が変わることですべてがまるくおさまるではないかとさえ思ってきた
「そうだ!わたしもテオにハンカチ縫ってあげたいわっ!2、3日で完成したら渡そう!いいと思わない?」
「殿下も喜ばれますよ、生地をお持ちしますね」
拾った手紙はそのままテーブルの蝋燭で燃やし灰を片付けて綺麗に拭いた
これで手紙などはじめからなかったことにできた
なんの刺繍がいいか、楽しそうな公女の様子に使者についてこちらに来たかいがあったと改めてそう感じた




