剣聖は台風ならば?
翌日。
昨日の薔薇園が想像してたよりキレイでグレース様のおかげで新たな友人もできて、行って良かったなぁ……。
思い出に浸りながら家庭教師の方に授業見てもらい午後には予定がないので、最近お母様が教えてくれた初心者用の刺繍の続きを居間でお母様にここはどうするのか、こうした方が良いとか教えてもらいながら二人でのんびり過ごしていた。
ーーー思えば、これが嵐の前の静けさとかゆうやつだったんだと思う。
「ふぅ~……。だいぶ縫えてきました」
チクチクと白生地にチューリップの刺繍をほどこしはじめて2週間。
「まぁ!うまく縫えたじゃない」
「最初の頃は盛り上がった糸のかたまりにしか見えませんでしたが、だんだん赤唐辛子からのチューリップに進化したんですからたいしたものです!お嬢様」
「スミレっ!申し訳ございません、お嬢様。あとで再教育しておきます」
ハハハ……。ひどい言われようだけど、スミレの言う通り最初は花に見えなくて見る人みなに「??」って顔をされた。
私自身も縫ってく最中今なにを縫ってるのか分からなくなったのも多数。
それが「これは何か分かりますか?」って聞いたら「チューリップ?」って見せたらわかってもらえるようになったんだから我ながら頑張った。
「頃合いですし、奥様、お嬢様少し休憩なさりませんか?」
「ちょーどパイが焼き上がったそうですよ!焼きたて熱々っ」
休憩をとろうと席を移動して、ミモザ達が運んできた紅茶とアップルパイにフォークを刺せば、サクッと焼きたての香りがいっそう食用をかりたててきた。
一口食べるごとに口の中がリンゴとほどよいシナモンの味がして疲れも溶けていく感じ、やっぱりうちの料理人が作るのはどれもおいしい!!
アナベルだけでなくお母様も幸せそうにパイを口に入れながら穏やかな午後を過ごしてることに何気ない日常が一番良いよなぁ、なにも起こらなければ人生幸せだよねぇ……。
「うまそうな匂いの元はここかぁぁぁ!?」
「「「「っ!?」」」」
ドカァァァァンって効果音が似合うほどの爆音を鳴らして扉から現れたのは、例のごとくのお姉様が仁王立ちしていた。
(因みに扉は無傷です。とゆうかこんな扱いを受け続けても壊れたことがない耐久性優秀すぎ)
「お姉様っ!あれっ今日戻ると言ってましっけ?わたしが忘れてるだけ…とか」
「いいえ、お嬢様。ルイーズ様のお戻りは私どもも聞いておりません」
「あらあら、なら今ここにいるのはそっくりさんかしら?」
「いいや、そっくりではないぞ母上!正真正銘ルイーズが今戻って来た!」
ズンズンとこちらの困惑など気にしない足取りで室内にはいるとおもむろに皿に残ってたアップルパイを手でわしづかみパクパクとあっとゆうまに食べてしまった。
「ルイーズ様っお皿に取り分けますので手掴みはお止めください!」
「ん?あぁすまないな、うまそうなあまりつい」
「ルイーズ、アナベルが真似するからそうゆうのはおよしなさい。まさか貴方、外でもそんことを?」
「まさか、外ではフォークを使いますよ、アナベルー私の真似はするなよ?」
「あはは、しませんわお姉様……」
あっとゆうまに騒がしい空間になったけど、嫌な空気になることもせず少したしなめるお母様と呆れつつもお茶のお代わりを用意するミモザ達。
お姉様は今度は席につきフォークで新たに出されたアップルパイをまたペロリと平らげていた。
ふと気になっていたのかテーブルに置かれていた布を指差し「刺繍でも始めたと言っていたがどうなったんだ?」と聞かれたので、成果を見てほしくて刺繍途中の布を見せてみたら「お!……チューリップか?」と、普段ハッキリ物を言うお姉様が自信なさげに答えを当ててくれたから我ながらなかなか腕前が上がってきたみたい。
「刺繍をできるようになれば繕い物もいざとなれば出来るようになるし覚えといて損はないな。かくゆう私は縫い物は苦手だが久しぶりになにか繕うか…」
「お姉様は細かい作業が苦手なのですか?」
「そうゆうわけではないが、体を動かす方が向いてるんだ。座りっぱなしはしょうにあわなくてな」
紅茶を飲みながらチューリップの刺繍を指でなぞりながら、ここをこうしたらもっとよくなるとか、そう縫う場合縫い方はこうするとキレイに見せれるとかアドバイスをしてくれた。
破天荒な登場だったけど勉学や礼儀作法をマスターしてるだけあり自分の姉ながら尊敬する。
そんな風にあっていない間の互いの生活の話が尽きることなく気づくともう夕暮れで街の明かりも付きだした頃そういえばお姉様は何をしに里帰りしてきたんだろう?もともと来る予定がないなか急遽来たならよっぽどの用があったんじゃないかな?
でも今はお父様もお祖父様もいない。お兄様に至っては学園にいるのでこの三人に会うにはまだ時間がかかると思う。
お母様に用があるのかそうでなければ本当にただ実家に遊びに来たのか、でもお姉様の住居からここまで気軽にこれる距離でもないし……。
「そういえば、ルイーズあなた今日はなにしに来たの?イーサン様はあなたがここに来ること知っているの?」
同じく疑問に思っていたのか、お母様が紅茶をテーブルに戻しながら聞いてきた。ちなみに、イーサン様はお姉様の旦那様です。
「………。」
モグモグとアップルパイを食べ続けているお姉様。とゆうか何個食べれば気がすむんですか?やけ食いですか?スタイル変わらないなんていいなぁ……。
「お姉様、胸焼けおこしませんか?普段あまり甘いもの好きじゃないって言われてたのに食べすぎると体調壊してしまいます!」
「そうよね、もう4切れ目よ。どうしたとゆうのルイーズ。イーサン様となにかあったの?」
何があったのか話してみなさい、お母様に諭すよう言われたけどお姉様は眉間にシワを寄せ髪をかきあげながら溜め息をついた。誰がどう見ても不機嫌に間違いない。その様子にお母様の目が厳しくなり
「ルイーズ」
「……べつになにかトラブルとかあった訳じゃないよ。ただ……あいつがしばらく騎士団に来るなと、仕事を休み安静にするように言われただけだ」
「えっお姉様体調がどこか悪いんですか?」
「いいや?至って健康だよ。ただ目眩で倒れたことがあるだけなのに大げさなんだよ、あいつは」
生まれてから軽い風邪を引いたことはあってもそれ以外で体調を崩したことがないお姉様でも目眩起こすことあるんだぁ。場違いにそんな考えがよぎってしまった。
いやだって、お姉様が幼少の頃何を思ったのか森に遊びに行ったさいに毒キノコ食べても本人ケロリとしてた強者なんですよ?この人。
他の友人も食べたとき嘔吐と発熱で一刻を争う状態の中、生焼けぽいのが原因だったのかもとか考えてる人だったからなぁ……。私の生まれる前の話らしいけど
「私は体調はもう平気だと言ったのに勝手に休職届けまで出したんだ!私は騎士団でこれからも鍛え続けるつもりだったのにっ!!」
若干目が涙目なりつつあるお姉様が胸の思いを打ち上げる様子はなんだかこっちまで泣きそうになる(←もらい泣き)
とはいえ
「休職届けって何の理由なの?」
「知らない」
「「えっ」」
「産休ですよ。5ヶ月になります。」
「「「えっ?」」」
新たな、しかも聞きなれない男性の声に振り返ると銀糸の刺繍がほどこされた青い上衣に黒のズボンを履き同じく黒のブーツを履いている。腰には長い剣が下げられていた様子から騎士の服装なんだと思う。
茶色の長い髪を一つに髪留めの紐で結んだそれは背中に流れていてその瞳は蛍光色のような鮮やかなネオンブルーの色彩と輝きで、一目見た人々を魅了しそう。
思わずポーっとその顔を見つめてると「はっ!?妊娠?誰が誰のだ!?」向かいの席に座っていたお姉様がガタッと勢いよく立ち上がり詰め寄った。
「だから貴方が妊娠してるんですよ。ルイーズ、貴方のお腹の中にわたしとの子がいるんです。妊娠5ヶ月目だそうですよ」
「妊娠……私とイーサンの子がお腹に……?」
唖然とお姉様は自身のお腹に手をあてて優しく撫でてみる。
でもパッとみお腹が膨らんでるようには見えない。
「目眩で倒れた後医師に視てもらいましたから間違いありませんよ。妊娠の影響で目眩や食欲旺盛になってるんでしょう」
「けっけど、5ヶ月ならお腹は膨らんでるはずだろう?まったく変わらない感じだが……」
「稀にあることらしいですよ?確かに大抵は5ヶ月くらいには膨らみもわかりますが体を鍛えてるためか妊娠初期症状に気づかずにそのまま出産を迎える方もいるそうです。
本来なら既に始めてる問診や検査をまだ受けてありませんし、その体で訓練なんかさせられませんよ」
……なる、ほど。
たしかに妊婦さんを厳しい騎士団の訓練に加えるわけにはいかないはず。
でもそれならそうと目を覚ましたらお姉様に伝えればよかったのに。
「まったく……貴方ときたら目を覚ますなり人の話もろくに聞かず部下達の制止も振り切ってこちらに単独で戻るなんて信じられないですよ。何人か養生することになりました」
「「うちの姉がご迷惑かけて申し訳ございませんっ!!」」
全部ぜんぶお姉様の早とちりと行動力のせいでお義兄様や騎士団に迷惑をかける始末になってたなんて!
あー……これは、お父様達が知ったら……いやもう知らせがいってるんだろうなぁ。執事長が焦りがおでお母様に耳打ちしてる。
心労が浮かぶお母様とは正反対に「……ごめん。勝手なことして」「心配しました。お願いですからいきなりいなくならないでください。貴方になにかあったらと思うと…部下を絞めないといけません」
……部屋の真ん中でお姉様とお義兄様は二人の世界に浸っていた。
なんだろう、ものすごく喜ばしいことなのにいきなりやって来たお姉様とお義兄様により我が家は一段騒がしくなったなぁ。
そんな風に常に賑やかなやり取りをミモザ達と苦笑いを浮かべながら、やがて駆けつけてくるお父様の姿を想像しながら
「お姉様っおめでとうございます!」




