月の宮感謝祭2
甘い匂いがする
意識が遠退くほど甘く
誘う匂い
※ ※ ※ ※ ※
月の宮感謝祭四日目。--最終日--
もうじき夕日が沈む時間帯でも感謝祭最終日ともなれば昼間と変わらない人で街は溢れかえっている。
「テオドール殿下、昔は通信手段の為に灯籠を飛ばしていたんですよね?」
「そう、昔は技術が進んでなかったから灯籠を通信手段に使ってたんだ。時代も変わって今は、一年の祈願を祈る人や月の女神により近く感謝を届けるために飛ばす」
王宮に着くとお菓子とお茶が用意された一室で女官数人が見守るなか灯籠飛ばしに使う灯籠を作っている。我が国では自分で飛ばす灯籠は基本的に自身で作る伝統なのだ。
竹串や加工された紙を張り付けて中には灯籠に絵や文字を書いて飛ばす人もいる。紙の色も黄色は金銭、緑色は健康、赤色は良縁、青色は学力等々色によって意味があったりする
女官達に補給しないと外れそうとか、傾いてるとか言われながらせっせと手を動かしながら会話してるから大分時間かかったけどなんとか灯籠の形になった。
因みにテオドール殿下は手先も器用なのかすでに完成させ、手こずる私を不思議そうに見てた。
「私は緑色の灯籠にしました。一年健康に穏やかに過ごせる様お祈りしますの」
「いいんじゃないかい?僕は白色の灯籠にしたよ」
「白色の灯籠はどんな意味があるんですか?」
「白色の灯籠は亡くなった死者が黄泉の世界へ迷わずたどり着き安らかに眠ってください。……て意味だね」
「黄泉の世界……?」
手に持っていた灯籠をテーブルに置いてテオドール殿下を見ると殿下は窓の向こうに浮かぶ月を見ていた。いつの間にか夕日も沈んで真っ暗な夜の街を電灯が照らし出してきた。今日は普段より月が大きくなる日、スーパームーンだ。
私が見てることに気配で気づいてるのか、気づいてないのか分からないけど月を見ながら続けた。
「大昔に月の女神が『厄災』を封じたと言われてるよね?一説には『厄災』は伝染病だと言われてる。まぁ、飢饉が原因ではないかとも言われてるけどね。
国全体が存続の危機に瀕したのは事実らしい。月の女神が『神』なのか『医者』かは不明だけどその人物により救われた国民はいるが一方で大勢の死者がいたのも事実なんだよ」
つられて私も月を見上げる。
普段より大きな月はその分だけ輝きも違い夜なのに明るく過ぎてその存在が大きい。
「傷ついた月の女神を手当てしたのが当日の王太子。その後隣国との戦争で傷を負った王太子を月の女神が助けた。
互いを助けたことで国も救われたことに感謝し、それと同じように亡くなった人々へ向けた慰霊として灯籠を自信の分身として空へ送る。……願いと思いを届けるため、月の宮感謝祭は慰霊祭の意味もあるらね」
過去の出来事から経験と知識を後世へ、過ちを繰り返さないよう伝えられてる話。
「テオドール殿下は死者のために灯籠を飛ばすのですね。道に迷わないように、私自分の健康しか考えてませんでした……」
「べつにいいんじゃないかい?それにそうゆうと僕が凄い人間みたいにだけど僕も友人の祖父が最近亡くなったからその為だからね」
「ご友人の……?」
「あぁそっか、アナベルは会ったことなかったね。幼なじみなんだけど彼の祖父にもよく世話になってたんだ。機会があれば紹介するね」
灯籠、上手くできたじゃない。そうゆうとただ静かに笑った。
笑っているのに泣いてるようにも一瞬見えたけど気のせいであるかのように普段通りの笑顔に戻った。
ふと、思った。
前世の『私』はあんな形で死んでしまったけど、お母さん達はどうしてるんだろう。突然でやっぱり悲しんでるんだろうな……。
世間で騒がれてた事件も時間がたてば忘れられてくんのかな……あんな理不尽に奪われて消された『私』は何のために生きてたんだろう、意味なんてなかったのかな
「テオドール殿下、アナベル様そろそろお時間ですので屋外に出ましょう」
「そうだね、アナベル中庭に出ようか」
「え、もうそんな時間なんですね」
使用人に灯籠を持って貰い灯りがついた廊下をテオドール殿下と歩いて中庭に出ると他の女官や使用人達がまばらにいて各々灯籠を持って話し込んでいる。
今日は感謝祭だから、無礼講なんだよってテオドール殿下に言われた。
成る程、手の空いた人は灯籠を飛ばしに時間をもらったのね。
「……殿下、人が死んだ後はどうなるんでしょうね。消えてなくなるだけなんでしょうか」
「……哲学かい?」
「いえ、気になってただけですわ」
「うーん、そう言うけどね。亡くなったあとどうなるか分かるのは亡くなった本人だけだからね。諸説は色々あるけど」
「ですよね……」
突然過ぎたし知人を亡くしたばかりの殿下に無神経だった。
灯籠に火をともしながらうーんと考え混んでしまったテオドール殿下に申し訳ないですわ。
「……まぁけど、消えるわけではないだろう?偉人が言っていたな。
「死」というのは無駄に消えるんじゃない。また何かの形でいかされるんだと思う。その変化だけを受け入れればいい
……僕はその人の思い出や意思を引き継いだりする限り消えるとかではないと思うよ。時間は必要だけどそうあって欲しいともね」
はい、と灯籠を渡され暖かみのある灯りが暗闇を照らし徐々に周りの明かりも灯り一人、また一人と灯籠を空へ飛ばして行く。
街の方でも灯籠を飛ばし始めたようで、空へ上がる灯りが増える度に幻想的な光景へと変わってゆく。
私も手にした緑色の灯籠から手を離して、上がって行き他の灯籠の中に混じって行く光景を瞳に写しながらテオドール殿下に言った。
「……そうですよね。私もそうあってほしいです」
死んでしまった『私』はもうどうすることもできないけど、私はここで生きてかなければならない。
今まで心のどこかで死んでないんじゃないかと、目が覚めれば家にいるんじゃないかって思ってた。
でも、前の『私』じゃなく今の私は別の形として今ここで生かされてるんだからもう、引きずるのはよした方がいいのかもしれない。
手元から離した灯籠がどんどん離れてくように、前の『私』に別れを告げた
ありがとうが言えなかったけど、私は幸せでした。
幻想的なこの光景の向こうにもう会えない人達へこの気持ちが伝わればいいのに
「死」というのは無駄に消えるんじゃない。また何かの形でいかされるんだと思う。その変化だけを受け入れればいい
マルチョン名言集・格言集より
重味があることがじっくりきます




