悩みながらにできることは
ちがう。ちがう。ちがう。
「――――はい!そこでターン止まらないで、今のでステップが崩れてます」
パンパンっとリカルド先生が両手を叩き音楽が止まりダンスを中断され肩で息を切らしながら足を止めた。
ダンスのレッスンをつけてもらうためにリカルド先生の教え子にパートナー役をしてもらっているけどさっきから私が足を踏んだりステップを間違えたりしてまともに1曲踊りきれていない。
「すみません先生、もう一度お願いします」
「いいえアナベル様今日はもう終わりにしましょう。疲労が溜まってますしなにより集中出来ておりません。これではいくら練習しても身に付きません」
リカルド先生が部屋の隅にいるミモザにお母様へ今日の授業はすべて取り止める事を伝えるよう指示をだしミモザが部屋から出ていった。
リカルド先生が教え子に今日は先に帰るように言ったあと私にソファーに座るように言われ私が座った後向かい合う形でリカルド先生もソファーに腰掛けた。
「悩みごとですか?がむしゃらに練習しても思い悩んでいたら身に付きませんよ」
少しの沈黙の後リカルド先生に聞かれたが何をどう言えばいいかわからない。
「……自分でもわからないんです。今までの自分を変えたくて、遅れを取り戻したくて頑張ろうって思っても上手くいかなくて。……イメージではもっと上手くこなせるのに実際は全然ダメで。ちがくて。悩んでることもよく分からなくなってしまって」
「リカルド先生、私は楽しいことが好きで好きなことだけをして過ごしてきました。それで周りが困る人も怒る人も私の邪魔をする悪い人にしか思えなかった。私が駄々を捏ねても思い通りにしてくれないなんて間違ってるって。でもだんだん大きくなってきたら間違ってたのは私の方って思いましたの」
「いつまでも駄々を捏ねてたらいけないって。私の同世代の女の子は私が遊び呆けてる間に先に進んでて怠けてたことに気づいても追い付けない。やり直したいから頑張っても今までの我が儘な私への認識が変わることがないのが……」
語彙力がなくて何を言ってるのかわからない。
リカルド先生は膝に乗せていた両手の指を組んだり解いたりしながらただ静かに話を聞いてくれた。
「一つよろしいですかアナベルお嬢様。つまり貴方自身は遅れを取り戻し更に貴方への周りの評価が変わってほしいと1年足らずでと言うわけですね」
「ま、まとめらるとそうなります……」
「さようですか。
いいですかお嬢様、例えば4才から8才まで勉学を励んだ立派なレディがいたとします。4年間どんなに優秀な子供でもそうでない子供でもコツコツと積み重ねてきた努力と経験と時間があります。
お嬢様はその4年間の遅れを頑張れば1年で身に付くとお思いですか?」
それ、は
向かい側に座っていたリカルド先生が私の座ってるソファーの近くに来てしゃがみ私の手を握って見上げながら続けた
「はっきり言ってそんなことできる子はそうそういません。出来るならば最初からやりますしそのような子は更に先のことも自ら取り組み先に進みます。
当然それらに対する評価も積み重ねにより上がりもすれば下がりもします。
……お嬢様、貴方はたしかにこれ迄のおこないで周囲からの評判がよくありません。勉学も同世代より遅れてるのも確かです。ですが貴方は変わろうと思いその為に行動もしました。その成長に旦那様方は喜ばれております。それではいけませんか?」
ゆっくりと言い聞かせるようにそれでいて諭すような瞳で見られ気づくと私の目頭が熱くなって何か答えようと口を開けたら―――
『ちょっと押さないでください!スミレ』
『狭いから仕方ないじゃないっすか!ミモザこそもっと詰めてくれません?』
『詰めたら見れなくなるでしょう。大体執事長はどうしてここにいるんですか?』
『わたくしはお嬢様の様子を旦那様方へお伝えするために来たのです。ところで料理長、貴方は何故こちらへ?』
『俺は最近お嬢様の食欲ないようだから消化に良い軽食を持って来たけど入るタイミングがないだけで』
……なんか扉の向こうから聴こえてくる話し声が。
リカルド先生が溜め息つきながら扉に近づきノブを掴んでおもいっきり開けるとドドッと雪崩のように想像した人物達が倒れ混んできた。
「イタタッ何するんですかっ」てみんな文句言おうとしたけどリカルド先生の満面の笑みの背後に冷気を漂わせながら見下ろす姿に固まってしまった。
「おかしいですね。私はお嬢様の教育を任されてますが当家の使用人の教育は任されていません。聞き耳など使用人の教育もしたほうが宜しいのでしょうか?」
「「「「いいいいえお構い無くっ」」」」
部屋の気温がいつもよりマイナス2度は下がるくらい寒気を感じるなか説教を受ける使用人一同の青ざめながら震えてる姿をみてさすがリカルド先生容赦がありません。
「……けどみんな何しに来たんだろう…」
「それはっすねぇ、お嬢様がここしばらく元気なかったので気になって様子を見に来たんですよ。他の皆も同じ理由でしょうっ」
「スミレ……いつの間に抜けてきたの」
向こうで説教を受けてたはずのスミレがいつの間にか隣に来ていまだに説教を受けてる使用人達を楽しそうにいう。
「説教なんか聞いてられないっすよ。……お嬢様誕生日パーティーの時になに言われたのか言いたくないならうちらは無理に聞きません。
けどお嬢様にはうちらと旦那様方がついてるのをお忘れなく。いつも通りちょっと馬鹿なお嬢様でいてください」
ニカッと八重歯を覗かせながら笑うスミレ。その背後で一人だけ逃げるな-!とミモザ達が怒っているけど気にした様子がなくヤレヤレと両手をあげて首を降っている。楽しんでるなぁ
……なんだかんだじゃれてる?皆を見てると1人で悩んでいたのが嘘みたいに今はあの悲壮感がぽかぽかに変わってなんか胸が一杯になった。




