21 ファイル
研究所の中は静まりかえっていた。
先ほどまでの騒々しさがウソのよう。
戦闘を終えて武器を回収したおれは、それからすべての部屋をざっと見て回った。野神の私室らしき部屋。霊能力者の待機所らしき部屋。怪しい器具がおいてある部屋。
そこには、どう考えても人間に使ったとしか思えない手錠なんかもあったけれど、研究の成果らしき資料はなかった。
結局、キンカンと野神の死体がある部屋にもどってきた。
どうやら、研究資料はこの部屋にまとめてあるようだった。
人体実験の証拠を押さえなければ、おれはただの殺人鬼だ。
収穫なしというわけにはいかない。
スチールラックの前に立ち、グローブに包まれた黒い指先を伸ばして物色する。
本はどうでもいい。題名からしておれを拒絶してる。
ファイルをあさる。
ひとつめ。ふたつめ。
みっつめのファイルをパラパラめくっていたとき、何かが目に引っかかった。
手をとめて、そこに戻る。
「……これか?」
その資料をじっくり見ていく。
くわしいことが理解できるはずもないけど、おおまかなことは、おれにもわかった。なんとなくね、なんとなく。
どうやらこの霊力化学研究所で行われていたのは、霊的な免疫だかなんだかを獲得するための研究、らしい。
霊能力者ってのは、生まれつきの体質によるところがかなり大きい。
おれの霊術がどべで、ユウキの身体強化がポンコツなのもそのせいだ。
この研究が上手くいけば、そういった霊能力者の才能を多少なりともコントロールできるようになるかもしれない。
もちろん、それだけじゃない。一般人から霊能力者になるハードルも低くなるだろう。なりたいやつはそんなにいないだろうけど。
まぁ、よくわからないがそんな感じの研究だろう、とおれは勝手に解釈する。
この実験の犠牲となったのは3名とある。
一人目の実験が6月16日。
二人目が6月23日。
三人目が6月30日。
おれの目が引っかかったのは、その三人目、最後の犠牲者の名前だった。
――白居龍之介。
依頼人の名が、犠牲者の中にあった。
どういうことだ?
うちが依頼を請ける前に、白居はもう死んでいた、ってことになる。
そのとき、あけっぱなしのドアの外に、人の気配を感じた。
「誰だ。でてこい」
言った瞬間、しまったと思った。
今のはいかにもやられ役っぽいセリフだった。
それに、でてこいといわれて、素直にでてくるわけがない。
けれど、そいつは素直に姿をあらわした。
おれの呼びかけに応じて姿を見せたのは、メガネをかけた優男。
事務所で待機しているはずのユウキだった。
それでようやく、おれはこの依頼の全容を理解した。
ユウキは顔を歪めた。そして、申し訳なさげな顔の前で両手を合わせる。
「騙してごめんっ」
その謝罪に対して。
言うまでもない。おれは不機嫌な顔を隠さなかった。




