13 鬼火
さすがに、本場のお化け屋敷はひと味ちがう。
駅構内の無人のシャッター通りを歩いていると、ふらふら浮かんでる蒼白い鬼火と遭遇する。蛍のように弱々しい、影もつくりだせないほどの仄かな光が、ゆっくりと近寄ってくる。
鬼火、人魂、ウィル・オ・ウィスプ、ジャック・オー・ランタン、イグニス・ファトゥス。
呼び方はいろいろ、発生経緯もいろいろ。霊気がよどんでさえいれば、どこにだってあらわれる。でも、お天道様はかんべんな。そんな怪異レベル1とでもいうべき、ちっぽけな存在。
ひとつ。ふたつ。みっつ……。
まとわりついてくる数が、だんだん増えてきた。
こんな取るに足らない鬼火でも、触れてしまうと人間の体力や霊気を奪っていく。国民的RPGのスライムみたいに、ぶつかり合って合体すれば、その危険性も上がっていく。
さっさと間引いておくべきだろう。
頭で考えてる間に、すでに手は刀にかかっていた。
左手の親指で鍔を押し出し、鯉口を切る。
刀身と鞘のきしる音。
刀を抜き、無造作に振るう。
力を入れる必要はない、ただ鬼火の中心に刀をすべらせる。そこに剣術なんてものはなかった。それでも正確に鬼火の中心を切り裂いていく。
抵抗はほとんど感じなかった。
鬼火は真っ二つになって地面に落ちると、まるで線香花火のようにふっと消えていった。
一呼吸にも満たない間。
周囲の鬼火を全てかたしてから、刀を鞘におさめる。
あとに残るのは、目を凝らさなければわからないくらい少量の、埃みたいな怪異の灰。鬼火の残りカスなんか回収したところで金にはならないので、そのまま放置する。
この鬼火というのは、霊気がよどんで形をなす、最初の段階の怪異だ。発生経緯がいろいろといったように、人工的に作り出すこともできるし、人魂という呼び方があるように、未練を残した人の霊とみなされることだってある。
実際、死者の未練やら無念やらが残されていることが、ごくまれにだけどあるらしい。すぐれた霊能力者なら、そこから死者の声を拾いあげることだってできるそうだ。
もっとも、よほどのことがないかぎり、そんなことは行われない。なぜなら、いろいろとタガが外れているこの業界ですら、死者の声を聞くのは御法度とされているからだ。
けれど、おれはそのしきたりを斜めに見てる。
霊能力者は死と隣りあわせの、殺しあいすら珍しくはない職業だ。長い歴史において、その権力の中枢に居座ってきた人物はそこを勝ち抜いてきたわけで。
つまり、死人に口なし、ってことにしといたほうが都合がいいのではないだろうか。
せっかく口封じしたんだから余計なことはするな、ってこと。
おっかないね。こんなちっぽけな鬼火より、人間の方がずっとおそろしい。




