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12 地下2階


 裏新宿駅の地下2階は薄暗いシャッター通り。通路の両側には、カップキャンドルが大雑把に並んでる。まるで参加者のいないハロウィン。まだ7月の上旬だけど。


 そろそろ、戦闘準備をしといたほうがいいだろう。通路の壁に黒革のクラブケースを立てかけ、その中から打刀(うちがたな)と脇差しを取り出して、刀ベルトを使い腰に差す。


 スーツはこのままでよかった。このスーツは特注品で、防弾、防刃、耐熱と嫌になるほど金をかけている。夏場は薄着になるため、どうしても武器の携行には苦労する。だから必然的に、暗器を隠せるスーツの一択。おれにかぎらず、スーツに金をかける霊能力者は少なくない。高性能で多機能。ただし、重くて暑い。スーツとしてだけ評価するなら、嫌がらせもいいところ。


 最後に、両手に黒いグローブをはめて準備は完了。クラブケースはとっさの時に邪魔だから、ここに放置しておく。


 誰も通らないとは思うけど、盗まれないよう祈るだけ祈ってから、四つ葉製薬の霊力化学研究所に向かう。


 四つ葉製薬の霊力化学研究所は地下2階のC-1エリアにある。


 裏新宿駅にいる連中のほとんどは、地下1階に生息している。だから調査をはじめてすぐ、四つ葉の研究所が地下2階にあると知ったとき、正直に言うとおれは意表をつかれた。








 正確かどうかはわからないけど、裏新宿駅は地下7階まであるらしい。深く潜るほどに霊脈の影響は強くなり、危険は指数関数的に増していく。


 地下2階に研究所を構えるってことは、地下1階を選んだいわく付きの変人どもよりも命知らずってことだろ?


「そうでもないよ」


 そのときユウキは、事務所のソファでひざにノートパソコンをのせていた。白いひざ上テーブルの上に、タブレットにもなるノートパソコン。マウスを動かしながら言う。


「裏新宿駅で暮らす霊能力者は基本的に個人だけど、四つ葉の研究所はあくまで組織だからね」

「なるほどね、その手があったか」


 一人で24時間警戒するのは不可能だけど、8時間3交代なら問題はないし、複数の人員が詰めていれば何かあっても対処しやすい。霊能力者を複数雇い入れればいいわけだ。シフト制のパートタイマーってところか。


 納得すると同時に、おれはなんだか感動してしまった。世間で普通に行われてることが、裏新宿駅なんて場所でも行われてることが新鮮にうつったんだ。


 何か起きたら、手の打ちようもなく全滅。そんな場所だと知っていたからか、人を多く雇うという発想が抜け落ちていた。


「研究者は一般人だからね。地上と行き来するのにも、霊能力者の護衛は必要なんだ。護衛と研究所の警備を合わせて、霊能力者が何人雇われてるかは調べておかないと」

「つまりあれか。おれは複数の霊能力者とやりあわなきゃいけない、ってことじゃねえか」


 おれがぼやくと、ユウキが顔をあげた。気合いの入った顔。


「ぼくも行ったほうがよさそうだね」

「どうだろうな。あちらさんの質と人数によっては、からめ手が必要かもしれないけどな」


 後ろにいると頼りになるけど、前に出ると危なっかしいのがユウキだ。単純な腕っ節で制圧できる相手なら、おれ一人のほうがよかった。


「質と人数だね。どっちも事前に、ある程度は調べがつくと思うよ」


 と、ユウキがまじめくさって言うもんだから、おれは思わず笑ってしまった。ちょっとばかし苦い笑い。


「ユウキ。うち、けっこう経営きびしいよな」

「いきなりどうしたの? うん。まあ、借金もあるし、探偵業もしてるくらいだからね」

「なら、裏新宿駅でパートしたいか?」


 ユウキも苦笑して、


「なるほど。それは遠慮したいね」


 仕事を選べるようなヤツがする仕事じゃない。そういうことだ。


 さらにいうと、四つ葉が必要としているのは霊能力者の数であって、質ではない。質まで求めるようなら、金額はえらい額まで跳ねあがる。うちが探偵業をしなきゃいけないくらいに、霊能業界だってなかなかに世知辛いご時世ではあるけど、それでもまともな霊能力者を雇おうとすれば、それなりに金がかかるものだ。


 霊能力者ってピンキリだから。


 霊能業界は実力主義の格差社会。その格差ときたら、プロスポーツ選手や芸能人並みだ。


 ちなみに、あべ探偵事務所の料金体系がどうなってるかというと、探偵としては探偵の、霊能力者としては霊能力者の、相場そのままのお値段となっております。超サービス価格。




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