1 アベ セイマ
おれの名前は安倍晴磨。22才。職業は霊能探偵。
霊能力者と探偵、二足のわらじってこと。うさんくさいって点では、どっちもどっち。
どうしてそんなけったいな仕事をしてるかというと、霊能力者の家に生まれたから。ほかに何ができるってわけでもないし、理由なんてそんなもん。
おれのご先祖さまの名前は、きっとみんな知っていると思う。驚くなかれ、かの伝説の陰陽師、安倍晴明。ネームバリューは抜群だ。
とはいっても、うちは傍流もいいところ。残念ながら、権力や財力なんてものはまったく受け継いでいない。そんな昔の人に、もうちょっと何か残しとけと文句をつけてもしょうがないし、もちろん、おれだって霊能力者のはしくれだから、ご先祖さまのことはそれなりに尊敬してる。
なんてったって、40才まで学生だったという、とても偉大な人物だ。
ほとんど冗談で「あやかりてえな」と言ったら、相方に笑われた。「80過ぎまで現役で働くのかい」って。さすがにそれはごめんだ、と笑い返しはしたものの、そのときは80過ぎまで働かされてた平安時代の日本に慄然としたね。おれたち日本人の遺伝子には、過労が刻みこまれてる。戦慄。
我々は労働環境の改善を要求する!
もっとも、かりにその要求が通ったところで、個人事業主のおれには関係がない。
休暇も報酬も、ぜんぶ自分しだい。頼りになるのは己の腕のみ。浮き世の闇に寄り添うように、足と腕とで稼ぐ日々。
そんな風にカッコつけてみたところで、おれの現実は何一つ変わらない。福利厚生といった上等な言葉とは縁がないまま。
それでも、最近は霊能力者のあつかいも、ずいぶんマシになってきたらしい。
転機となったのは、1972年。
札幌オリンピックが開催された、沖縄返還の年。
日本列島が南北に沸きたったその年、陰陽寮が復活して、その下に、東京および関東一円を守護する霊的機関、山手探題が設立された。
それから少しずつ、霊能力者の存在は一般社会にも認知されるようになっていった。それまでは、霊能力者に超能力者、吸血鬼なんてものは空想の産物でしかなかったそうだ。
空想の存在から、ヤクザのお仲間にランクアップ、って感じ。
そう。霊能力者は日陰者。
あくまで裏社会の存在だ。
けれど、そんなおれたちじゃなきゃ対処できない問題もある。
これはそんな話の一つ。
この夏、霊能業界を大いに騒がせた、新宿で起きたある事件の話。
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