人間の発展と禁域
ヒトが知性を鍛え、文明が生まれ、文化が発展して久しい。
ヒトは数多くの知識と知恵によって社会を形成し、
自身を人間と呼ぶようになる。
人間は高度な社会性を持つ。
氏族で小集団を築き、複数の小集団が集まり邑を作る。
邑は国となり、国は周りを侵犯し、領土を広げた。
大国小国が乱立し、人間の支配は世界の大半に至る。
かつてはヒトを脅かした鳥獣も、人間の前では塵芥も同じ。
武器で、兵器で、鉄火で、人間は世界を制した。
多くの人間は世界の頂点を極めたと思い込んでいたが、決してそうではない。
真の頂点に立つには、彼らと対峙することが避けられないことを一部の人間は知っていた。
いや、誰もが自然と理解していたのかもしれない。
何故かどの国も侵そうとしない場所が世界各地に点在していた。
彼らの発する何かが、人間を近づけなかったのだろう。
「危ないモノには近づくべからず」
それを理解していたが為、人間からも近づくことはなかった。
近づいてはいけない場所はいつしか“禁域”と呼ばれた。
ある時、人間は自らの力を過信してしまう。
人間同士の争いに勝利した超大国が彼らの棲まう地”禁域”を侵したのだ。
そこはつまり、彼ら絶対的王者たるドラゴンの領地だ。
過去にも幾度となくドラゴンを脅かそうと挑む生物はいた。
だが、何よりも鋭敏な野生の勘によって、闘争は避けられていた。
この矮小な生き物も同じだろう、強靭な肢体と鋭利な爪牙を見せつければ、去っていく。
ドラゴンはそう思っていた。
しかし、人間は野生から離れた時間が長すぎた。
“禁域”とも呼んだ地を進軍し、未知で強大な力に立ち向かった。
知性があるからこそ畏れるべきが、知性に驕って失敗した。
ドラゴンは人間を引き裂き、焼き尽くした。
数千人の絶叫が”禁域”で鳴り響いたのだ。