ヒト
ヒトが生まれ、この世界の理がいくつか変わり始めていた。
知性はどの生物が幾度と進化を重ねても手に入れることはなかった。
それを手に入れたヒトが進化を重ねればどうなるか。
物事を知る、その物事の良悪を判断ができるというのは何物にも勝る力だ。
ヒトはその力を用い、驚異的な速度で繁殖した。
しかし、ヒトという種は弱い。
獣のような爪牙を持たず、鳥のような翼も持たない。
そんなヒトが過酷な世界で生き抜くには知性だけでは足りなかった。
知性によって生まれた知識を蓄え、知恵として活用し、ヒトは営みを発展させていくこととなる。
ある時、ヒトの群れが獣に襲われた。
何も対抗できないまま、多くの同胞を失った。
群れは嘆き悲しんだが、ヒトはそれだけでは終わらない。
木を集め、それを組み、住居を作ることを覚えたのである。
また、石を別の石で割ることで鋭利な道具を作った。
その鋭利な道具で木の枝を削り武器を作った。
獣の爪牙に対抗する手段を手にしたのだ。
獣を殺しても、その血を啜り、皮を剥がずに食べるしかなかった為、
細菌などが理由に死ぬ同胞も多かった。
草花やその実を食べているだけでは何かが足りないと感じていたのだ。
獣を喰わずにはヒトは生きてはいけない。
落雷や乾燥によって起こる自然の火を見てヒトは新たな道を開いた。
その火に焼かれた獣を食べても死なないことを知ったのだ。
知性あるヒトは、獣と違って火を恐れない。
木を擦って火を起こすことを覚え、肉を食した。
それだけでなく、火は明かりとなることを知った。
厳しい冬には暖を取れることを知った。
ここからヒトは著しく成長速度を早める。
獰猛ではない獣を家畜化し、網を作って漁業を行い、
種を植えて農業を覚え、生きる手段を増やした。
そして、ヒトは最大の力を手にいれる。
住居、道具、武器、火、家畜、漁業、農業。
これらを同胞や裔に伝える方法を覚えたのだ。
そう、言語である。
最初は縄を結んで、あらゆることを記録した。
だが、記録する物事が細分化されるにつれて、結縄では不便だと気付く。
こうして文字が誕生した。
文字はヒトの群れを集団や組織へと変化させる。
集団は文字によってルールを作った。
愛などの感情だけでなく、他者を尊重する礼儀を知った。
ヒトは確実に知性と共に力をつけた。
一度、敗れたとしても新たな力を発見して、必ず勝利した。
知性によってヒトは高等生物へと進化していた。