2.中二が香る朝
めっちゃ短いです。表現カがなくて読み辛かったら済みません。
狙われ続けてウン十年。
地底人、宇宙人、異世界人に妖魔などなど。
地球を狙う人外邪悪組織に対し、伝説の力から古代生物、からくり、重機に緊急車両、未来科学等のあらゆる手段で毎年引導を渡し続ける英雄達。
「さすが初めての幹部戦。代替わりしたレッドもやっぱ格好良いな……」
このそこそこいい歳の少年、阿濁家の長男優雅は明らかに名前とはかけ離れた大和人らしからぬ彫りのはっきりとした顔の造り、金に近い薄茶の髪と深い蒼瞳を興奮に煌めかせ、誰に見せる訳でなく本家より遥かにキレッキレの動きでスカイレッドの決めポーズを取っていた。
「兄さんおはよ。朝っぱらから相変わらずの戦隊狂いだねぇ」
「惜しむらくは、どんなに優雅兄様がバカみたく体を鍛えて常人離れした強さを持っていても、その顔じゃこの国でレッドになれないことよね」
テレビの前を陣取って、赤の戦士が敵を薙倒す勇姿を見てニヤニヤしていると、珍しく部活が休みだったらしい弟の迅と、この春から留学生として阿濁家に居候することになった従妹のカナサが起きて来た。
「兄さんの顔だと、頑張ってもスーツの中の人か海外で主流のパワー戦隊だもんね」
「パワー戦隊だと筋肉の厚みが足りないわよ。なれて顔見せの無い地方のご当地戦隊じゃない?」
そう。弟妹がバカにする様に、いくら戸籍上が大和国民であっても見た目がほぼ外国人の己の容姿では、この国の赤の戦士になれない事など、幼少期、母に『レッドになりたい』と宣言した時から優雅は理解していた。
「うっせえよ。俺は自力でレッドになってみせるからいいんだ」
まだ優雅がそれはそれは純粋な″小さなお友だち″だった頃、母は夢見る幼児に向かって『それは現実にレッドが存在すると仮定しての夢?それとも将来的には俳優になってレッド役をしたいって事?』と現実的な疑問をぶつけてきた。
『レッドはいるもん!!』と、その存在を信じ声を荒げる優雅に母は『まあ、居ても居なくても母さんはどうでもいいけど。あんたの血は4分の3以上外人だから伝説の戦士にしろ、俳優としてなるにしろ大和のレッドは厳しいんじゃない?』と幼子の夢を粉砕した。
しかし、レッドに魅入られた少年は諦めなかった。
自分も正義の心を以て身体を鍛えさえすれば、いつかテレビの中のヒーローの様に変身して怪人達をやっつける人になれるのだと純粋に信じていた。
『選ばれないなら自分でなればいい』
そんな熱い野望を抱き、毎朝日が昇るより早く起床して自宅敷地内の山道を走り込み、邸の離れにある道場では、当主である『筋肉超合金』な祖父と『人間マップ兵器』な母を相手に普通なら幼児虐待で逮捕される程の厳しさで肉体と技を鍛え、街に繰り出しては目に付く悪を屠った。
ある時は赤いパーカー、又ある時は赤いジャケット、季節が変われば赤いコートと兎に角赤色の服を身に纏い、ヒーロー的経験値を積み続け、来る変身の日の為に備えに備えた。
流石に幼児手作りの赤い全身スーツで街に出ようとした時は、大爆笑で面白がる祖父と母を余所に、泣き縋る父と弟に阻止されたが、気付けば巷で優雅は謎の『赤い暴君』と齢7才で呼ばれる様になっていた。
故に周囲からの彼の評判は、妖精も裸足で逃げ出す程の滅多に見ない美少年で、身体能力、知力はまるでアニメやSFの登場人物の如く常人では有り得ないくらい優れているのに、戦隊レッドに憧れ過ぎてかなり残念でイタい美形だと現在進行形で思われていたりする。
「でも兄様の性格とかやり口って正義より悪役寄り、っていうか外道よね」
「相手がちょっとしたチンピラだろうが武装集団だろうが容赦なく叩きのめすしねぇ」
「しかも、目立つ格好で暴れ回ってるくせに面割れさせず、物証も残さず、仇討ちや警察にも追跡させないとか!!さすが戦闘狂、阿濁家長子よね。権力、財力、家柄、容姿、能力。キャラクター盛り過ぎで存在チートだわ」
大和語がやたら達者なカナサの言葉に迅は『そうだね…』と何とも微妙な顔をして言葉を濁した。