輝かしい日々
序章 七年前の事
…私にはかつて『親友』と呼べる存在が居た。名前は伊織と言って、私と同級生だった。
とても明るくて優しい彼女は直ぐに私と仲良くなり、学校でも外でも、私はその側に居た。
…そんな日々がずっと続くと思っていた。今振り返ると私は夢を見ていたのだろうか、私達だけは関係ないと思っていたのだろうか。
あの時と同じように今もアブラゼミの合唱が響いている、だが、私の心はあの頃とは全く変わっていた…。
第一章 輝かしい日々
原田伊織と出会ったのは、小学一年生の時だった。その時までの私は、友達らしい友達も無く、一人でずっと絵を描いて過ごしていた。後に弟の晴人が産まれるのだが、その時はまだ一人っ子だった。
伊織が初めて私に話し掛けてくれたのは、図工の授業で絵を描いていた時だった。
「その絵、綺麗だね。」
当時は人に頼まれて絵を描く事は無かった。ただ自分一人の為に描いていたのだ。それを両親は全く見てくれず、褒められもしなかった。
その絵がまさか褒められるなんて、思ってもしなかった。
「そうかな?私そんな絵上手いかどうか分からないんだ。」
私が絵の方をむいてこう言うと、伊織は見なくても分かるくらいの笑顔で私に言った。
「一年生でこれは凄いよ、私もこんな絵描けたらなぁ。」
そして、自分の席へ戻って行った。
その後、伊織は図工の授業以外にも体育や休み時間にも話し掛けてくれるようになった。
生まれ付き無愛想場な私と違い、伊織は人懐こく友達も多かった。
だから何故伊織が私となんかに話し掛けるのか分からなかった。
「真海ちゃんは凄いね、体育の授業一発で跳び箱跳んでたんでしょ?」
私は夕焼けの空を教室の窓から見ていた。
「原田さんだって凄いよ、走るの速いし友達共仲良く出来るから…。」
私がそう言うと、伊織は窓辺に寄り掛かってこう答えた。
「そんな事言ってくれるの真海ちゃんが初めてだよ。」
私は驚いた。
「えっ、友達同士でそう言うじゃないの?」
「あれは上辺だけだよ。真海ちゃんはそうじゃなくて、しっかり人を見ているんだなんてね。」
私の人間観察の癖はその頃からしっかり着いていた。
「そう、かな?」
伊織は私の目をしっかり見てこう言った。
「私、もっとあなたと仲良くなりたい!」
「原田さん?」
「伊織で良いよ。」
そして伊織は私の手をしっかり掴んだ。
「私も真海って呼んで良い?」
私は伊織の方を見てうなずいた。
「これからもよろしくね、伊織!」
私はそう言って笑って見せた。
それから、しばらく経ったある日、私と伊織は二人で中央公園に遊びに行った。どうやら、伊織は私に渡したい物があるらしい。
私を待つ間、伊織は駄菓子屋で買い物をしていた。そして、私がやって来た時、伊織は小さな紙袋を手渡した。
「これ、探すの苦労したんだから!」
開けると、そこにはビーズが付いたヘアゴムがあった。
「二人でお揃いにしたの!私がピンクで、真海が水色、気に入ってくれると良いな!」
私は自分の髪にそれを付けて、伊織に見せた。
「どう?似合う?」
伊織もいつの間にかそれを付けている。
「やっぱり真海に似合うね!」
「伊織が選んだお陰かなぁ?」
「うん、絶対そうだよ!」
伊織はそう言って笑った。
そして駄菓子屋のお菓子を食べながら、私達はおしゃべりをした。
「ねぇ、私達これからもずっと一緒に居れるかなぁ?」
伊織はぼんやりとした顔でこう言った。
「うん、ずっと一緒に居たいね。」
私は澄み渡るような青空を見上げた。平穏な日常は流れる雲のようだ。この町ではそれの中に鮮血がほとばしるような出来事も起きる。
私達は…、まだ関係ない事と思っていた。何処かで誰かが死んだって、それは遠い出来事のように思っていた。
自分が、その周囲の人々が明日生きてる保証なんて、ないはずなのに、私達は微かな希望を抱いて生きていた。
だが、それは粉々に打ち砕かれてしまった……………。