第6話〜半年の訓練の成果〜
痛ぇぇぇえええ!
いくら実践形式だとしても、5歳に対してこれほど強く叩くか普通!?
内心で文句を垂れている俺は今、地面に熱烈なキッスをしている。
クレイタスに木刀で叩きのめされたのだ。頭にはきっと、漫画で見るようなタンコブが出来ているはずだ。
半年前に5歳となった俺は、剣術や魔法を習う年齢になったらしく、1日はクレイタスに剣術を教えて貰ったり、筋トレなどの身体作りを行なっている。
その翌日は、エルナに魔導を教えて貰っている。
1日サイクルの訓練と魔導学尽くしの日々を送っているのだ。
生前なら体育と勉強。これを1日サイクルとか1日も3日も持たない自信があるね。
でも此処は異世界。剣(今は木刀)を振るう事ができ、地球には無かった魔法を発動できる。
こんなに嬉しい事があるだろうか、いや無い。
剣の腕はまだまだだが、魔導の方は中々良い感じらしい。
エルナが言うには、普通は詠唱は口にしないと魔法を発動できないらしい。数年間、鍛錬をこなした者が漸く詠唱を短縮し、頭の中で唱えて発動する事が出来るらしい。
曰く、5歳でどちらも出来るというのは異例だという事だ。
何故出来るのか俺には分からない。初めて詠唱文を読み、次読む時は既に頭の中で唱えるだけで発動できただけだ。
もしかして、その時には既にシホさんをゲッチュして居たのだろうか。スキルを習得したならば誰か教えて欲しいものだ。
《はい。主の申請を承りました。スキル習得時に、スキルの詳細と共に報告します。》
それは有難い。是非とも宜しく頼む。
この半年で俺は属性魔法を、今の段階では6つ使う事が出来るようになった。
火・水・緑・電気・氷・風だ。
どれも、この世界のレベルで言うレベル5らしい。
エルナから教わった魔法のレベルは1〜10まであり、それを超えると、超越級・賢人級・創世級になるらしい。
超越級は、この世界の魔法の全てを脳に刻み付け、我が物とした真の魔法使い達が手にできる称号。
賢人級は、魔法のみで1つの大国と戦争を起こし、勝利出来る者に手にされる称号だ。
創世級は、この世界を創った神、創世神アトラスの魔法に匹敵する力を持ったものが手にする称号。未だ嘗て確認された事がないらしい。まあ、アトラスさんの魔法を直接見た事がある人なんて居ないし、確認されないのは当たり前なんだけど。
ともかく、俺が使える6つの属性魔法はどれも王都の魔導師達と同程度か若干下回るくらいのレベルらしい。4までが普通なんだってさ。
ちなみに、エルナは超越級の称号を国王より直々に頂戴したらしい。将来的な目標は賢人級で決まりだな。
魔法は良い感じで、これからも頑張って行くとして、問題は剣術だな。
さっきもクレイタスにのされたし、課題はたくさんある。型は半年でやってきたにしては良く出来ている方で、後は反射能力や危機感知能力を鍛えれば、更に良くなるんだと。
肉体的な事に関しては〈成長加速〉があるから大丈夫なんだけど、反射とかは…ねぇ。ど素人には辛い話だ。
そんな問題を解決できちゃうスキルってないかな〜。シホえも〜ん。
《は…い。戦闘、感知系スキルで現在獲得可能なものは、〈反射〉〈危険察知〉〈攻撃予測〉があります。いずれも所持スキルポイントで獲得可能です。3つとも獲得しますか?〉
変な呼び方に一瞬戸惑ったみたいだが、知らぬ。
そんな便利なスキルがあるなら獲得しちゃいましょう、そうしましょう!
《はい。スキルポイントを1300消費し、普通スキル〈反射〉〈危険察知〉、特殊スキル〈攻撃予測〉を獲得しました。》
よしよしよーし。またしても良いものをゲットしてしまったぞぇ。これでクレイタスから一本くらい取れるだろ!
「父さん!もう一回だ!」
「え、またか?やり過ぎは良くないんだが…まあ、良いか。次で今日の実践訓練は終わりだぞ。」
「よーし、今度こそ…。」
自信に満ち溢れた表情から、真剣に相手を倒すのみに集中するものに変えた。
「それでは…始め!!」
「ハァッ!!」
エルナの試合開始の合図と共に気合いの一声を放つ。
体の酸素を交換し、身体を一気に脱力させる。そして、瞬時に脚の力の全てを大地へと向け、最初から最大の速度で父の懐目掛けて飛び込む。
〈攻撃予測〉によって、俺の剣に対するカウンターの筋が薄っすらと見える。
何処をどう突いたら、どう対処されるのかが手に取るように分かる。
勝てる…勝て…。
………"隙間"が無い…!?
勝ちを確信した瞬間に、ある事に気付いた。
剣を持つ人の構えには、隙が無くとも隙間がある。
要は、その人がカウンターを取れない場所というのがある。勿論防御も、だ。
父の剣は、防御を攻撃に転じるのが基本であるため、攻撃を防御されると必ずカウンターされるのだ。
〈攻撃予測〉を手にした今、父の防御と言う名の攻撃の筋を全て読み、死角になる"隙間"を突いてやろうと思った。
のだが、父の体は何処にも死角がなかった。
全てカウンターを取られてしまう。
体から無数の筋が自らの体と剣に向いている事を悟り、それでも諦めずに剣を振るった俺は、油断も慢心も、甘えは全て木刀ごと叩き折られた。
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「大いなる精霊の治癒を求めん、"ドールヒーリング"」
わざわざ精霊魔法で治癒してくれたエルナは、薄眼を開けた俺の頭を人撫でして、枕の上にそっと乗っけると、クレイタスに向き直る。
「あなた。確かにコロンの目には慢心の気が見て取れたわ。だけど、木刀を叩き折る程の力で殴った事は…必要だった?」
「慢心には、それをへし折る傷を与えないとダメだ。体にも心にも。それを2度以上持たぬように。」
「確かにそうだけど…前にも言ったわよね?強・す・ぎ・る・ん・で・す・よ!!5歳の頭蓋骨が木刀と比べて、それ程までに硬いと思っているの?」
「おん」
「おん、じゃないわよ!柔らかいわよ!下手したら脳挫傷起こしてるのよ!?」
「回復 超越級な人がいるから大丈夫かと思って…」
「まあ大丈夫だけど…、でもタイムリミットがあるのよ。万が一、私が買い物に出ていたらどうするつもりだったのよ…。」
「居たから大丈夫かなーと思ってやった」
「子供みたいな言い訳ね…。まあ良いわ。結果的に無事だったし。でも、手加減はちゃんとしてくださいね!」
「はい…」
おん。マジで死ぬかと思った。意識ぶっ飛んだからね。木刀と頭蓋骨が同じくらいなわきゃないでしょうに…。
あ、でも此処は異世界。地球の人よりは硬くても不思議じゃないな、うん。
きっとうちのパパの頭蓋骨はモーニングスターくらいの硬さだね。そうに違いない。
や、それにしても〈攻撃予測〉を使っても歯が立たないとは…。"隙間"が無いとか、イカれてやがるぜ!
何処を打っても、当てる事を叶わずに返されるとか…打つ手無しだよ。絶望的だよ。
これは単純に訓練を積むしか無いな。成長加速先生の出番だぜ、こりゃ。何せ、日に日に剣が軽くなってるからな。
自由に剣を振ることができる。まるでオモチャの剣を持ってるみたいに、どんな形の攻撃も可能な程だ。
これは今後に期待ですねぇ。
あ、〈反射〉〈危険察知〉〈攻撃予測〉のレベルを上げておかないと。今のままでは使い物にならないからな。
また明日も頑張ろう!と気合を入れてから今日も睡魔と仲良く手を繋いで、夢の世界へ旅立った。
お読み頂き、ありがとうございます!
魔法を属性魔法と、その他の各種魔法へと増やしました。
属性魔法の属性を8→10に増やしました。
〈成長加速〉はあくまで肉体的な成長の加速のみ
です。今は…ね。