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第16話〜東の国の勇者〜

 ルワート大草原を抜け、今はただの平野を歩いている。

 前方5km程先に集団を探知した。程よく散らばり、一定の範囲内のみを動いている所を見ると、どうやら村があるようだ。

 休憩がてら、寄ってみるのも悪く無いかもしれない。

 そう思って、微妙に方角を変えて村を目指すことにした。


「お?何だ、あれ」


 俺の視界に大きな砂埃をあげて走る魔物の集団が入る。

 俺と同じ方向に猛スピードで走っている。


(魔物?っていうか、あの方向は村がある。まさか、そこを狙ってるのか!?)


 ただの奇走集団だとしても、万が一の事を考えて、【加速】で追いついていく。


 走っている魔物は【闘牛族(バッファロー)】の集団で、逸れる気配も止まる気配もない。

 やはり、あの村を狙っているようだ。

 時間は少ないが、先にあの村へ行って、急ぎ避難を伝える事にする。




 村に着くと、村人全員が慌ただしく、迫り来る魔物の集団に気付き避難の準備をしているみたいなのだが、一部の男集団が斧や桑を構えて殺気立っている。


 まさか、あの集団と戦おうとでも言うのか。相手は魔物で、しかも戦闘型だ。勝ち目など皆無だ。


「何をしてるんだ!魔物共が押し寄せてる!早く避難しろよ!」


「うるせぇ、誰だてめぇは!この村はおらたちのもんだ!あんな奴らに壊されてたまるかってんだ!」


「皆殺しにされたいのか!?」


「直に勇者様も来てくださる!それまで、おらたちがここで食い止めなきゃなんねぇんだ!」


 勇者だと!?そんな奴、俺の探知には反応していない。こんな状況で半径8kmの範囲にもいないのはおかしいんじゃないか?


 わざわざ気配を消す必要も無い。

 そんな勇者の到着なんて待っていたら全滅は必至。ここは俺がやらなきゃならない。


「くそ!その役立たずの勇者に、後で文句言ってやる!」


「何を!?」


 今からぶっ潰すんだよ。あの集団を。

 悪いな、お前らに恨みはないが、今後復讐されるとも限らないから、皆殺しにさせてもらうぞ。


「【流砂】!!」


 地面の土を全てさらさらの砂に変え、足を絡めとる。全ての牛の動きが止まったのを見て、次の土魔法を使う。


「【砂渦圧縮(サンドプレス)】!!」


 ある一点を中心とした渦を作り、全ての牛が砂の中に呑み込まれていく。全ての牛が消え、その瞬間に元の硬い地面の硬質へと変え、圧縮する。

 全ての牛が土の中で化石となり絶命した。


「お、おぉぉお!あの集団が一瞬で地面の中へ消えたと思ったら、あなたの力だったのか!これで村は救われた!ありがとう、旅の方よ!」


「待て待て待て!勇者はどうした!何でまだ来てないんだよ」


「いや、おらたちにも分からん。きっと深い考えがあったに違いない。勇者様が我らを見捨てるはずがないからな。あのままでも、きっと助けに来てくれたに違いないが、何かが壊されたりする前に助けてくれたこと、礼を言うぞ!」


 ダメだ、この人達。あのままだったら死んでたってことをまるで分かってない。


「きちんとお礼がしたい。まずは村長である、わしの家に来てはくれぬか?」


 村長らしき老人が話し掛けてくる。

 丁度良い。アホったれ勇者の話を聞くとするか。



 村の中心の、少し大きな家にあがる。

 質素な作りだが、素材の木が良いため、家自体は頑丈そうである。


「そこにおかけください」


「あぁ、はい。あ、どうも」


 腰を下ろし、女の方が持ってきたお茶を受け取る。


「旅のお方や。この村を救って頂き、感謝に絶えません。しかし、この村は貧しく、何もありません。お礼と言って、差し上げられる物は….」


「ああ、いえ、別に礼はいりません。それが目的ではないですし。それよりも、先程言っていた勇者について話を聞かせてくださいませんか?」


「そうですか、良かった….。勇者様のことですか。我らも良く存じておりませんが、東の【イストリア王国】の勇者様とだけ伺っております。我らに魔物の襲撃がある事を知らせて頂きまして、助けに来ていただけるという話でした」


「なのに何故助けに来なかったんですか?」


「我らも分かりません。きっと何か事情があったのかもしれません」


「そうですか。何とも変な話ですね….ん?外が騒がしい様ですが」


「本当ですね….。おい!今は大事なお話し中だ!静かにせんか!」


 老人とは思えぬ程大きな声で、外の人達に注意する。すると、ドスドスと音を立てて、1人の大男が入ってきた。


「こ、この村は無事なのか!?魔物の襲撃はどうしたのだ!?」


 何だこいつ。いきなり入ってきて魔物の襲撃がどうとか。

 その話を知っているということは、もしや例の勇者か?


「おお、あなたはイストリア王国の勇者様ですかな?」


「あ、ああ、そうだ。それより村長!魔物の襲撃があるから来たのだが、無事なのか!?」


「それなら俺が解決したが?」


 ダメだ落ち着け。俺は直ぐに人を殴る様な乱暴者じゃないんだ。まずは事情を聞こうじゃないか。


「勇者さん、何故あなたは魔物の襲撃があると知りながら、ここに現れなかったのですか?」


「何を言ってるんだ?魔物の襲撃は大体今頃から始まると聞いている」


「はあ?闘牛共ならさっき俺が片付けたんだぞ?今から始まるなんて….」


「うわぁああああああ!!」


「何だ!?」


 外から悲鳴が上がった。一体何事かと思い、外に飛び出す。

 そこには、防具を来て、剣を持った小鬼族(ゴブリン)豚人族(オーク)の集団がいた。


「魔物だ!魔物の集団が襲って来たぞ…ぁああ!」


 魔物の襲撃に気付いた男が、素早く大声で知らせるも、近くにいたゴブリンに斬られてしまった。


「何故だ!?魔物の襲撃は終わったんじゃないのか!?」


 村長が絶望した表情で、地面にへたり込んでいる。


「娘よ!さっき、闘牛がどうと言っていたな!俺が聞いた話では、魔物の集団は武装していると聞いた!きっとこいつらの事だ!」


 大男の勇者が、先程斬られた男性を運んできた。


 くそっ、話が噛み合ってなかったのはこういうことか!それにしても意味が分からないことが沢山ある。とにかく今は、こいつら皆殺しでストレス発散といこう。


「まるで意味が分かんねぇが、まあいい!勇者!村の反対側を見てこい!」


「了解した!そちらは任せるぞ!男娘!」


 男娘じゃねーっつの。


「死にたいやつから来いよ。今俺は、意味の分からない話を聞きすぎてイライラしてんだ。お前らがこの村の襲撃犯ならば、心置きなく殺させて貰うぜ」


 俺が放った殺気イライラでゴブリン共が一歩後ずさる。


「来ないのか?じゃあこっちから行くぞ!【炎槍-突破-】!!」


 剣に炎を纏い、胸元辺りで後ろに引き、突きの体制をとる。

 〔技能〕の剣技である【槍破】に火属性の魔法【熱戦】を統合した派生技だ。


 技能とは、身体や剣などを使った属性を持たない技や技術のことを指す。【空歩】がその例である。


 俺の直線上にいた6匹が熱線に貫かれ、大きな風穴を開けて地面に突っ伏す。

 方向を変えながら何度も同じ技で敵を屠っていく。


 襲いくる熱線に恐れながらも勇敢に向かって来るオークを左右に真っ二つにして、敵の殲滅を完了する。


「よし終わり。勇者の方はどうだろ。心配するほど弱そうでもなかったけど」


 急ぎ足で村の反対側へと周ると、そこには大男の勇者が頭から血を流しながら、ある魔物に対峙していた。


「ちょ、おいどうした!」


「ぬ、娘か。そっちはもう片付いたみたいだな。俺の方も早いとこ片付いたのだが、急にこいつが飛び出して来てな。不覚にも、1発食らってしまった」


 大男の勇者が対峙している魔物は本で見た事がある。


「厄介な奴が来たもんだな。たかが小さな村を襲撃するのに【鬼人族(オーガ)】なんかが出しゃばって来やがったのか」


「知ってるのか。確かにオーガなのだが、それにしては少し強い。こいつ恐らく【大鬼人(ハイオーガ)】。オーガの進化系で、Aランクの魔物だ。こいつが親玉で間違い無さそうだ」


 ハイオーガ….。本に載っていなかった魔物だ。いかん、鑑定魂が疼いて来やがった!み、右手が疼く!


「【砲拳】!!」


 ガォォオオアアアーーーーーーッ!!


 必死に疼く右手を押さえていると、ハイオーガに向かって大砲の如き威力を持ったパンチを放った。

 まともに食らったハイオーガの腹筋は凹み、内臓にダメージを負ったのか、片膝をついて吐血した。

 まずい、このままだと殺してしまいそうだ。


「待て、殺すな!」


「何を言ってる!こいつを倒さないと、村が!」


「いいから待ってろ!【凍結(フリーズ)】!!」


 気を集中させ、高レベルまで威力を高めた氷魔法でハイオーガを凍結させる。

 しかしこのままだと直に氷を剥がされてしまうので、素早くタッチして鑑定する。

 ……よし、結果は後にして心の臓まで凍らしてやろう。


「もういいぞ、眠れ【絶対凍結(フリーズ)】」


 先程のフリーズとは違い、威力をLv8まで高めた爆氷魔法の【凍結】で体内の水分を全て凍りつかせた。


「油断していたとて、俺に一撃を与えるハイオーガに剣を抜かずに倒しただと……。娘、相当強い魔術師なのか?いやでも、剣士の格好を……」


「ん?あぁ、俺は魔法剣士(マジックナイト)だ。剣も魔法を両方同時に使える」


「成る程。これは珍しいものを見た。魔法剣士は数が少ないからな。会えて光栄に思う」


「俺なんかと会って喜ぶ暇があったら止血しろよ。大分血が出てるぞ」


「ぬ?このくらい問題ない!拭れば血は流れぬ」


 いや、なんだその汗感覚。傷を閉じなきゃ血は……って本当に止まったんだけど。あのタオルには止血魔法でも付与されているのか?


 さて、気になっていた事がある。

 それを知るために、まずは人目のつかないところに行かなければ。村の人にも一応内緒にしなければならない。


「イストリア王国の勇者。お前と少し話がある。向こうの方へ行こう」


「話?….分かった」


 少し移動して土魔法で部屋を作る。


「ぬ?人に聞かれたくない話なのか?」


「ああ、まあこれからの話によるが、万が一の事を考えてな。さて、これくらいでいいだろう。

 まず、お前に質問がある。誰から村襲撃を言われた?」


「我が国の高位貴族である、ネルマ侯爵からだ。武装した魔物の集団がこの村を襲撃すると、侯爵が直々に俺に伝えに来てくださったんだ。あの速度ならこのくらいの時間に着くと、親切にも教えてくださってな。ギリギリだったため準備に手間取っていたのだ」


「何でネルマ侯爵は、村襲撃の事を知ってたんだ?」


「さあ、国の外に外出した時に魔物の集団を見かけたんじゃないか?」


「何故この村を襲撃すると分かった?俺の探知範囲には奴らは居なかった。ならば、突然現れた事になる。武装した集団がいきなり現れるか?普通」


「いや、ないな」


「だろ?こう見えても俺の探知は正確だ。あんな殺気剥き出しの集団が全員高度な隠密スキルを持っていたとは思えない。奴らが転移してきた可能性がある」


「そんな馬鹿な話があるか。奴ら全員が知恵の魔物だとでも言うのか?」


「確かに転移魔法は知恵の魔物にしか使えない。鑑定した結果、奴ら全員がただの魔物だった。だがしかし、奴らが誰かに転移させられたならば?」


「知恵の無い魔物が武装していた点にも合点がいくと。しかし一体誰がそんなことを?言っては悪いが、あの村には襲って得られる利益は無いぞ」


「襲う理由なんざ俺にも分からん。だが、そのネルマ侯爵が臭すぎる。なぜこの村の人々はお前が来ることを知っていた?お前が伝えたのか?」


「いや、俺は言われて直ぐに来たから、伝令の馬も走らせていない」


「恐らくネルマが伝えたんじゃないか?それは後で聞いてみる。もしネルマが伝えたんだとしたら….確実にネルマが黒だ」


「馬鹿な!彼がそんな事をする筈は無い!国民からの信頼も厚い貴族様だぞ?」


「仮面貴族かもな」


「馬鹿な……いや、きっと偶然だ!ネルマ侯爵が部下を使ったのかもしれない」


「聞いてみりゃ分かるさ」


 土魔術で部屋を崩し、村へと向かう。

 村長から聞いた話では、ネルマ侯爵の部下と思われる騎士が言いに来たそうだ。


「ここには魔物の集団が攻めて来る。イストリア王国の勇者がこちらに向かっているから、心配は無い」


 と。


「ほらな、ネルマ侯爵が国に急いで戻る前に、部下を走らせたのだろう」


「まあ待て。村長、その騎士が伝言を伝えて来たのはいつ頃だ?」


「あなた様が私らをバッファローの群れから救ってくれるほんの少し前でございます」


 うん。おかしい。その時間にそこにいたのならバッファローの集団が見えるはずだ。見えずとも、地響きで気付かないはずが無い。

 村とバッファローは、そう離れた距離にいなかったから。

 武装した魔物の集団に気付いたのに、バッファローの集団には気付かないなんて、そんな馬鹿な話は無い。

 やはり、侯爵が黒と考えて間違いは無さそうだ。


 ていうか、侯爵は阿呆なのか?手掛かりを残しすぎている。誘い込まれて….いや、流石にそれは考えすぎだろう。


 兎に角、奴の所に行って目的を聞かないとな。

 今後また村が襲われないとも限らない。

 直接奴を叩かなければ、更に強い魔物が駆り出されてしまうかもしれない。

 たかが人間の侯爵にそれが出来るとは思えないが。


「勇者、イストリア王国に行くぞ。ネルマとやらに直接話を聞きに行く」


「だが証拠が無いんだぞ?」


「だから決定的瞬間を捉えるまで張り込むんだよ。その瞬間に直接奴を捕らえて吐かせば解決だろ」


「馬鹿な、侯爵にそんなことをすれば【貴族家侵入之罪】で重く罰されるぞ!?」


「バレなきゃ犯罪じゃないんですよぉ」


「お、おう。確かにそうだが、俺はそういことはしたく….」


「いやお前はやらなくても良いよ。俺1人でやるし」


「しかし娘1人で….」


「戦場で油断なんてした奴が何を言ってんだ?俺はお前より強い。勇者なら分かるだろ」


「確かに….うむ。俺はネルマに嵌められたのかも知れんな。理由は分からないが、何となく避けられていたのは知っている」


「嵌められた?….確かにそうかもな。そこら辺も含めて聞いてきてやるよ」


「俺が言ってもきっと足手まといになる。何か、俺に他にできることは無いものか?」


「そうだな….誰にもバレない様に国の中に隠れていてくれ。俺が知らせる時に侯爵を訪ねろ」


「俺は隠密スキルは使えない。国に入った時にバレてしまう」


「俺が転移魔方陣を書いておく。転移魔方陣が淡く光を放った時に転移して来てくれれば問題ない。イストリア王国に高位魔術師はいるか?いるならバレら可能性がある」


「高位魔術師はいないが、国に滞在している賢人【嵐】のスレーダムがいる。奴にならバレかねない」


 スレーダム….聞いたことがある。

 世界に10人いる十賢人の六で、嵐魔法を操る超越級の魔術師だ。

 超越級の風魔法である嵐魔法を得意とする賢人。実力は高く、悪魔百足のような国滅級を倒せるらしい。つまりは俺と同等くらいの実力。


 確か、エルナも十賢人の1人で、【治癒】だったはず。


 意外と厄介な奴がいる。


「しかし最近は外出が多いから、国の中にはいないかも知れない」


「ならいけるかもな。奴の特徴は分かるか?」


「ああ、いかにも聡明そうな老人だ。右の頬に大きな傷があるから分かりやすいと思う」


「分かった。奴がいない隙を見計らって、転移魔方陣を発動させるからな。くれぐれも目立った行動はせずにな」


「任せろ。もし賢人にバレても、時間稼ぎくらいはしてやるさ」


「やめとけ、直ぐに死んじまう」


「これでも勇者だぞ?そう直ぐには殺られはしないさ。

 そう言えば娘、いや口調からして男なのか?」


「性別はねえよ、何だ?」


「俺はイストリア王国【大砲の勇者(ブレイブバズーカ)】のダグナ・ストーンだ。お前の名を聞きたい」


「俺はコロン。コロン・ウィストンだ。ウルファン王国の第4勇者だ」


「まさか君が噂の【魔剣の勇者(ブレイブジョーカー)】だとは。通りでハイオーガが手も足も出ないはずだ。会えて光栄だよ」


「噂って何だ?」


「国滅級の怪物を倒した勇者がいるってな。勇者ってのは多いが、国滅級を倒せる奴は多くはないんだ」


「勇者なんだろ?国滅級も倒せないでどうするんだよ」


「耳が痛いな。コロンの様に実力が高い者ばかりではないのだ。人々を助けることが出来さえすれば、人々からしたら勇者なのだから」


「実力が無ければ何も出来ないだろ?」


「まあ、そうかもな。勇者の定義なんて人それぞれさ」


「ふうん….まあ良い。実行は今からだ。準備しとけよ」


「分かった」




 仮面貴族の素顔を暴いてやる。別に村がどうなろうと良いのだが、見捨てるのは良心が痛むし、良い暇つぶしになりそうだ。


 さあ、立派な犯罪者になろう。ルパ○三世もびっくりな侵入劇を見せてやるぜ。




読んで頂き、有難う御座います!

大男の勇者の名前、後々変えるかもしれません。

ネーミングセンスが無さすぎて困っています…。

ほぼ全ての登場人物の名前が気に入らないという前代未聞さです。


それでは、また次回お会いしましょう!

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