第15話〜ルワート大草原〜
異世界冒険編突入です!
鼻血も止まって、今は川沿いを歩いている。
景色は記憶するので、寝る前に地図に書き込み、何があったかを日記にメモする。
川沿いを進んで、ふと右を見てみると、そこには何処までも続く草原が広がっていた。
微風に靡く草、飛ばされないように大地に根をしっかりと張った美しい花。どれらも見る者の心を一緒に揺らす様に、ゆったりと揺れている。
《鑑定の結果が出ました。鑑定の詳細を報告します。
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・ルワート大草原
ルワート地方にある大草原。全てが自然により形成された美しい草原。
観光地として有名であり、世界で最も広い草原である。
魔物が生息しているものの、基本的に無害であるスライムが主に生息している。
極たまに精霊を見かける事があり、花と会話しているところを見た者もいるという。
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以上です》
ほへぇ、スライムが居るのか。あ、本当だ。草を食ってる。
でも、スライムってRPGじゃ雑魚キャラだけど、実際は凶悪なのでは?
《はい。基本的にこちらから危害を加えなければ害はありませんが、攻撃しようものなら、身体にまとわりつき、密着した部分から吸収されます。
粘着性の流動体なので引き剥がすことは困難です》
怖っ。やっぱり実際はヤバイ魔物なんだなあ。
後で鑑定したいんだが、触れても大丈夫だろうか?
《はい。スキル〈思念伝達〉により許可を申請すれば了承を得られる可能性があります》
では試してみようか。
スライムさん、スライムさん。
あなたのお身体を鑑定しても良くて?
「…………」
《周波数を探知しました。これより〈思念伝達〉の応用スキル〈念話〉による会話を試みます》
あらやだ、まだ伝わってなかったのね。
しかも、〈念話〉なるものまでゲットできるなんて、シホさん優秀!
「ぷるぷる。小娘。何か用でもあるのか?」
「あ、はい。旅の者なんですけど、よければスライムさんの生態などを鑑定したいなって思いまして」
「娘の容姿をしながら、男の様な喋り方をするのだな。まあ良い。それは構わんのだが、一つ頼みを聞いてくれぬか?」
「僕ができる範疇でしたら」
「うむ。わしはこう見えてもグルメでな。ちと食べたい果物があるのだよ」
「ご自分で探せば良いのでは?」
「それが出来たら頼んでおらぬわい。実は向こうに見える丘の頂上に一本の大木があるだろう?そこに実っている【ケルク林檎】が食べたいのだが、わしにはちと遠くてな。連れて行ってはくれぬか?あの木に登れば、この大草原を見渡せるはずだ。旅の者ならば見てみたいのではないか?」
「確かに見てみたいですね。それとその林檎も美味しそうですし。分かりました、それではあの丘に行きましょうか」
「本当か!いやあ、ありがたい。これで長年の夢が叶うわい」
「失礼ですが、スライムさんはどれほど生きてらっしゃるのですか?」
「さあな。わしらスライムには寿命がないからな。1万年から先は数えておらぬわい」
「い、1万年!?そんなに長く生きてるんですね、大大大先輩。戦争とかでしななかったんですか?」
「地中に隠れておったからな。わし、土魔法使えるのだ……というか、普通に会く話しておるが、わしは【知恵の魔物】なのだぞ?」
む、確かにそうだ。普通の魔物ならば会話なんて出来ないし、グルメなんていう思考も無い。
「本当に凄いスライムですね」
「1万年以上も生きておれば、嫌でも知恵がつくというものだ」
偶々近くにいたスライムは、とんでもなく長い時を過ごした、人生の大大大大大大大先輩だったらしい。
とんだ偶然があったものだ。
しばらく歩いて、若干の坂を登っていく。
大分高い丘で、小さな山といっても過言ではないくらいだ。
流石にこれを登るのは面倒なので、【空歩】で一気に頂上まで跳ぶ。
「ほう、これは【空歩】だな。わしも何度か目にした事はあるが、小娘、いや小僧の様な歳で使う者など見た事がない」
「そうなんですか?」
「ああ、どいつも歴戦の勇者だった。もしや小僧も長命の勇者なのか?」
「いえ、僕は普通の勇者で、11歳ですよ。いくつかのスキルから編み出した応用スキルです」
「成る程。経験よりも応用力が勝ったか。小僧の頭は中々にキレるやもしれんな」
「どうでしょうね。あ、着きましたよ。
うわあ、大きな木だなぁ」
「ははは、この木には精霊が宿っておるからな。わし程では無いが、こやつも随分と長命なのだよ。長い時を生きた精霊の作る果実は大変美味と有名なのだよ。魔物の中で」
「へぇ、精霊に果物を採る許可っているんですかね?」
「勿論だ。わしは〈精霊の加護〉を持っているため、精霊と会話することもできる」
「スキルですか?」
「いや、太古の昔に、土の大精霊に貰った加護だ。気のいい奴だった。この木の精霊を今から呼んでみるから、少し待っとれ」
懐かしの思い出に目を細め、静かに目を閉じた。
目は1本線だが、そう見えたのだ。
しばらくすると、大木から美しい気が満ち溢れ、1人の可愛らしい女の子が出てくる。
「妾を呼び出したのは誰じゃ?ん?お主は、ちょくちょく妾の方を見ていたスライムではないか。しかも大地の大精霊の加護持ちか。スライムの癖に中々の大物の様じゃな。
そして、そこの変な奴。最近、精霊の間で噂になっている"異端"じゃな?会えて光栄じゃぞ。
して、2人は何用で妾を呼び出したのじゃ?」
変な奴って。しかも異端ってなんだし。
「うむ。わしは日頃から、お主が実らせる麗しい果実を食してみたかったのだが、許可を貰えないかと、な」
「ふむ、そんな事か。良い良い。今から蜜がたくさん入ってる物を妾が取ってきてやろう。何せ、久々の客人じゃて、妾も話したいことがあるのじゃ。その枝に腰掛けて待っとれい」
嬉しそうに早口で言い、木の上の方へと飛んで行った。そんなに人が来たのが嬉しかったのだろうか。
しばらく待つと、木の精霊が果実を沢山持って来た。ちょっと多い気がする。
「待たせたな。これがケルク大木産の【ケルク林檎】じゃ。この林檎から溢れ出る蜜は、どんな状態異常も治す効果があるのじゃ」
「どんな状態異常でも治す……って、そりゃ随分と凄い林檎ですね」
「そうじゃろう?ほれ、2人とも食べてみ」
「そうですね。いただきます」
「いただこう」
日本人の心を忘れずに、いただきますをしてから一口齧ってみる。
その真紅の皮の内側に眠る黄金の実は、齧るごとに芳醇な甘い蜜を口に響かせる。
実は程よく硬く、しかし阻む事はなく、溢れ出る蜜によって脳内にある命令を下す。
「咀嚼を止めるなかれ」と。
長い時をかけて作られた果実は、それ程までに美味であった。
「美味しそうに食べてもらえて、妾も作った甲斐があったというものじゃ!」
嬉しそうに精霊が笑っている。
ふと、隣のスライムを見てみると、ゆっくりと一口一口を味わっている。
「おぉ、美味い……美味いぞ……」
スライムであるが故に涙は見えねども、長年の夢が叶った事に咽び泣いてる様だった。
あっという間に持って来てもらった林檎を平らげて、幸せに浸っていた。
「そういえば、僕らのことを久し振りの客人だ、と言っていましたが、こんなに美味い林檎があるのに誰も来ないんですか?」
「あぁ、この果実を作る木は、この一本しか無い。何せ、妾そのものじゃからな。他の木では作れないのじゃ。故に、いつの間にか人間共が妾を指定自然保護物なるものにしよっての。以来、人間の間ではこの木に近づくことすらも許されていない。妾はこの木からは離れられぬ故、誰とも話せなかったのじゃ。
時々来る魔物も、知恵の無い下賤な者ばかりでの、礼儀のなってない者に果実を渡すわけにはいかんのじゃ。じゃから、ずっと1人でおった」
指定自然保護物。それは日本で言う、指定保護動物の様なもので、この世に1つや2つしか無い物を保護し、近づいたり触れることを禁ずるというものだ。
そんなものに認定されりゃ、誰も近寄らないだろうな。遠目からしか見る事が叶わないのだから。
「そうか。だからずっと淋しそうに揺れていたのだな」
スライムが同情するように話しかける。
「分かってしまっていたか、スライムよ」
「勿論だ。我はずっと見ておったし、お主よりもずっと長生きしておる。木に宿る感情を見通す事など容易いことよ」
「流石じゃな。お主の様に知恵ある魔物が居てくれれば、ずっと1人で果実を作るだけの毎日を過ごさずとも良かったのにな」
「ふむ。今まではそうだったろうな。しかし安心せい。これからは我もここにおる。1人ではなくなるぞ」
「何!?それは誠か!?」
「誠よ」
「そうか….そうか、そうか。これからは果実が食べられずに萎れていく所を見なくても済むのか?」
「左様」
「そうか….。いっそのこと、この命を潰してしまおうかと思っていたが、それでも生きてみるものじゃのう。精霊生、何があるか分からないものじゃ」
いやー、何か良い雰囲気だなぁ。俺っち蚊帳の外よ。全く、泣けるじゃねえか。泣かないけど。
「そうじゃ、人間。スライムを連れて来てくれたのはお主じゃったな。お主には礼を言わねばならぬ。ありがとう」
「よしてくださいよ、照れる」
「礼は素直に受け取っておけい。それと、お主に木の精霊の加護をやろう。精霊の加護持ちは、人間の街でも色々と便利じゃろうて」
「それはありがたいですね。受け取っておきます」
「良かったな、勇者よ」
「はい」
スライムが嬉しそうに肩を叩いて来る。手がないから全身で。着地する時にぽよよよんと弾んで、少し面白い。
「我は、万物を守護する緑を司る精霊なり。純粋な魂と体を持つこの人間に、我の加護を与えん」
加護を与える呪文らしきものを精霊が唱え、俺の体を緑色のオーラが包み、体の中に染み込んだ。
「これでお主も加護持ちじゃ。お主はどうやら、勇者でありながらも旅の身の様じゃな。これからの旅も気を付けて行けよ。まあ"異端"には要らぬ世話やも知れんな!」
「ありがとうございます。ところで、さっきから言ってる"異端"てのは何です?」
「む?そうか、知らぬのか。まあ良い。長く旅を続けておれば、いつかは分かるじゃろう。いや、どんな道を辿ろうと、お主がお主を知る運命は不変じゃろう。まあ、気にするな」
いや、そんな意味深なこと言われたら気にしちゃいますって。
しかし、これ以上聞いても答えてくれそうにないので、気にはなるが良しとして別の事を考える。
「おや、もう日暮れの時刻じゃ。直ぐ近くに宿屋は無い。勇者、いやコロンは此処で夜を明かすが良い」
「そうさせてもらいます….って、何で名前を知ってるんですか」
「加護を与える時に、こちらにも幾つかの情報が入って来るのじゃよ。お互いに何も知らぬのは良く無いじゃろう?」
「まあそうですね。ではここで寝かせてもらいます」
「日が暮れるのは早いものだな。勇者、いやコロンと言ったか。我は今まで生きた中で、一番幸せな時を送っておる。どれも、コロンのお陰だ。礼を言うぞ」
「良いですよ、礼なんて。あっ!鑑定!約束ですからね、させてくださいよ」
「おぉ、すまん。忘れておったわい」
危ない危ない。俺もすっかり忘れていた。
早速手を当てて、鑑定してみる。
《鑑定の結果が出ました。鑑定結果を表示します。
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種族名:流動生命族
個体名:スライム
加護:大地の大精霊の加護
ランク:通常時 E 交戦時 B-
流動体の体の細胞全てが常時活動している。
千切れても合体する事ができ、任意で分離もできる。
基本的には中立の魔物であるが、攻撃されると、相手が絶命するまで戦う。
高温の火に弱い。
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以上です》
まあ、概ね予想通りだが、交戦時のランクがB-って….変わりすぎだろう。
まあ、顔に巻きつかれたら、窒息は必至だからな。そのくらいでも不思議ではあるまい。
高温の火に弱いのは、蒸発してしまうからだろう。
あぁ、確かに火に強かったら強すぎるか。
「ふむ。お主は人間の姿をしておるが、人族では無いのだな。初めて聞いたぞ、非人魔族などとは。人にも魔物にも非ず、か。何かしら運命を感じる種族だな」
「えぇ!?何で分かったんです!?」
「簡単だ。我もスキル〈鑑定〉を持っていた。お主が我の鑑定に夢中になっておる隙に、我もお主を鑑定した。それだけだ」
「はあ、全く、鑑定するなら言ってくださいよ」
「まあ良いでは無いか」
「良いですけど」
そんな会話をしていると、いよいよ夜を迎えた。
もう寝る時刻だ。
「さて、我は睡眠に入るとする。今日は色々あったからな、良く眠れそうだ」
「本当ですね、それではお休みなさい」
「ああ」
そう挨拶を交わして、それぞれの床につく。
そうだ。寝る前に、地図と日記を書かなければ。
襲い来る睡魔を必死に振り払いつつ、白紙の地図と本に筆を走らせた。
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「ふぁ〜あ。もう朝か」
眠い目をこすり、顔を洗うために小さな沢へ向かう。
考えてみれば、木の上で寝るなんて前世でも無かった。
下は硬いが、寝心地は悪く無かった。
自然の匂いが快眠へと誘ってくれたせいか、いつもよりも寝覚めがスッキリだ。
さて、今日は何処へ向かおうか。綺麗な景色がありそうな所を、精霊に教えてもらうとするか。
「おはよう、コロン。良く眠れたか?」
「妾の木じゃ。良く眠れたかはずじゃが?」
「はい、良く眠れましたよ。いつもよりも寝覚めバッチリです。快眠でした」
「そうじゃろう、そうじゃろう!」
「さて、僕はそろそろ旅に戻ります。色々、ありがとうございました」
「いや、礼を言うのは我らの方だ。我ら2人の悩みを同時に解決してくれたのだ。本当にありがとう」
「それは昨日聞きました。いつまでも居ると、名残惜しくなってしまうので、僕はもう行きます。あ、その前に精霊さんに聞きたいことがあります。綺麗な景色が見える所とか、ありますかね?」
「妾には名前がある。リネームだ。特別に呼ぶ事を許そう。ふむ。妾が最後に自由に旅したのは随分と昔じゃからのう。ふ〜むぅ。そうじゃ!ここより東に進んだ所に、フエルカ大森林がある。そこの緑は、精霊である妾でさえも心奪われる暖かい森林じゃった。そこに行ってみると良い。
そこには妾の友達精霊のフレニーがおる。尋ねてみると良い」
「分かりました、リネームさん。ありがとうございます。それではスライムさん、リネームさん、またいつかお会いしましょう!」
「ああ、またいつか、ここに立ち寄れよ!妾はいつでも歓迎する!」
「達者でな、コロン!この恩は忘れないぞ!」
最後の挨拶を元気良く交わし、2人に見送ってもらった。
フエルカ大森林か。一体どんな森なのだろう。
ここから東へ、か。途中に面白い国があったら良いのだが。
今日も、新たな景色への期待で胸をいっぱいにし、歩を進める。
今日までの歩行距離 約13km
読んで頂き、有難う御座います!
今回は平和回ですね。
コロンのステータスに身体強化魔法を追加し忘れていました。
それでは、また次回お会いしましょう!




