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第12話 〜vs悪魔百足 後編〜

少々残酷な表現が含まれています。


 

「チィッ!!」


 楽勝かと思っていた戦いではコロンの劣勢が続いていた。

 近づこうにも、悪魔百足が纏う猛毒の瘴気によって阻まれてしまう。

 体長1mと魔物にしては小柄であるが、とんでもなく速く、コロンの感知できるスピードを凌駕する程である。


 猛毒弾の連射攻撃を避けつつ、消滅させない様に火系統の魔法を使用せずに戦っていた。


(火と雷魔法を使わずに勝つのは厳しい…か?)


 水魔法は通じず、緑魔法も毒に侵され、土魔法は悪魔百足の牙によって粉砕されてしまう。

 頼れるのは風魔法と氷魔法のみである。


「む。どうした勇者、炎を使わんのか?炎を使わない貴様を相手取るのに必死なのだ。炎を使われたら我が太刀打ちできないのは、分かるだろう?」


「余裕が無いのなら、何故そんなに落ち着いた声音で喋れるんだい!?」


 加えておちょくって来る。

 たかが元Cランクの雑魚の癖に---とは言っていられない。

 こちらも余裕があるにはあるが、持続はしないだろう。


 考え事をしていると辺りが紫色の煙で覆われた。

 猛毒ガスだ。見る間に地面がドロドロに溶けていく。


(煙だけでこれかい)


 内心で舌打ちしつつ、服が溶けないうちに風魔法で霧散させる。

 ここは氷魔法が妥当か。そう思い【氷弾】を連射するも、素早く避けられてしまう。


「なら、これでどうだ!?【氷爽地覆(アイスステア)】!!」


 直径1kmの範囲の大地を一瞬で氷で覆う。

 足を取られれば、そこから徐々に体全体を氷に蝕まれていくLv7の氷魔法だ。


 悪魔百足を上回るスピードで広がる氷の大地は、見事にその足を凍らせた。


「我の猛毒の前には氷すらも無意味---!?」


 今まで使っていたのはLv6の氷魔法だ。

 Lv6と7じゃ全く違う強さを誇るのだよ。


「足を切り取ったら、そこから抜けられるんじゃないか?」


「ふん、そうするつもりだったさ---ッ!?」


 よく驚く奴だ。さっきも説明したが、直径1kmを一瞬で氷で覆うのだ。身体を蝕む速度も半端では無い。


「身体も切り離してみてはいかがかな?」


「舐めるな、小僧が!!」


 小僧?お前が発生したのはせいぜい昨日とかだろ?俺の方が年上だよ。

 Lv7の氷魔法を徐々に溶かしている。この戦いの中でも悪魔百足は成長しているようだ。

 だが、成長速度に関しては俺の方が遥かに上なのだ。

 Lv7の氷魔法も次に打つ時は威力がもっと高くなっている。


 もう一度打とうとした、その時


「舐めるなと言った!!!」


 悪魔百足を蝕む氷が見る間に溶けていく。

 この成長速度、俺と同等。まだ生まれて間も無いから、その分速度は俺より上。


「まさか……〈成長加速〉?」


「その通りだ。貴様も持っているのか?奇遇だな。このスキルを持ったからには通常の特殊個体の成長限界など、とうに超えているわ!」


 A+ランクが成長限界……それを超えているならば……まさかSランクだとでも言うのか!?


「しかし貴様の魔法は我の猛毒をもってしても破れぬ様だ。全力で溶かしたものの、また直ぐに蝕まれてしまった。百足ではあるが、我は脱皮(進化)する事が出来る」


 なんで百足が脱皮するんだよ!!

 まあいい、それならその前に凍らせてしまうまでだ。


「そんなヤバそうな脱皮、させるわけが無いだろう!?」


「やめておけ、抜けた皮から猛毒に変わっていく。いくら貴様の魔法でも我の毒に打ち勝つ事は出来ぬよ」


 その余裕を打ち砕こうと【氷爽地覆】を再度放ったが、脱皮した皮の猛毒によって全て溶かされてしまった。―


 やはり鑑定云々言わずに、即倒すべきだったか。見るからにヤバそうな脱皮だ。


「ふむ、速さを捨て、力を上げてみたが……力タイプも中々良いものだ」


 体長10mを超え、禍々しい猛毒の瘴気を全体に帯び、漆黒に覆われたその身体は、並大抵の刃は通さない。

 更に力を付けた禍々しい悪魔百足が、蟲王の如く現れた。


「さあ、続きをしようか、勇者」


 冗談じゃねぇな。

 簡単に勝てる相手では無い。火系統の魔法無しじゃいよいよ勝てるかどうかも怪しいな。


 でもまあ、燃えるじゃないか。更に力を付け、自身を上回る第2形態の敵と戦うなど。

 まるでゲームみたいだ。こういった展開では、いつも興奮したものだ。

 まさか実際にこんな場面に出会うなどとは。


 お前は一体、どこまで俺を楽しませてくれるんだ!?悪魔百足!!!


「焼き尽くせ!!【蒼炎の牢獄】!!」


 Lv8の炎魔法だ。Lv8から蒼き炎を可能にする火魔法は、炎魔法と称される。


 もう鑑定だなんだのとは言ってられない。この戦いを楽しむ事しか、今は頭にない。

 それ程までの興奮。本気を出す価値が十二分にある敵。嬉しい、嬉し過ぎる!!


「進化した我の身体をも燃やすか!やはり殺さずに脱皮したのは正解だった様だ!!」


「へぇ、今まで手加減してたって言うのかい!?だが残念!殺せる時に殺さなかったのは、不正解だ!!貴様の答えが貴様の身を滅ぼす事になるなど、滑稽だな!!」


「直ぐに分かるさ!!」


 燃えていながらその巨体をくねらせ、凄まじいスピードで突進して来る。


「グフッ!!」


 避けようとしたが10mの巨体を避ける事は出来ず、モロに食らってしまった。

 防具の防御結界を破り、結界に吸われた威力を差し引いてもなお、内臓に大きなダメージを与えた。

 意識が暗転しそうになるも、必死にその尽きない闘志にしがみつき、無理矢理意識を引き戻す。


(こうでなくては面白くないよなあ!俺も内臓にダメージを負ったが、お前も未だに蒼炎を消せてない。確実にダメージは入ってる筈だ!)


「叩き潰せ!!【豪雷の鉄槌】!!!」


 突如現れた暗雲から極大の雷が降り注ぎ、100m離れた大木でさえも、迸る電気によって消し炭になる。


「ヌォォォオオーーーーーアアア!!!」


 さしもの悪魔百足も、この極雷には耐えられないらしい。甲殻が剥がれ、脚は捥げ、触覚は千切れ、深紫色の鮮血が飛び散り、それさえも雷の熱によって蒸発した。


「ぬごぁあっっ!!」


 雷に耐えられず、悪魔百足は地面へと潜る。


 次の瞬間、足元から巨大な牙が大地を割り、俺の身体を噛みちぎろうと迫る。

 触れられれば毒により即死。防御結界など、最早何の意味も成さない。


「はぁぁああ!!」


 裂帛と共に剣を牙に叩きつける。

 氷魔法を付与した事により剣が溶ける事は無い。

 そのまま体重をかけ、【空歩】でその場を離脱。

 俺が今までいたところは、鋼鉄の牙をもって空間を裂かれる。


 やはり奴の一挙手一投足が、俺にとっては即死に値する。流石はSランクらしい魔物だ。

 だが、確実に俺の方が優勢である。

 俺の魔法は悪魔百足に着々とダメージを与えている。

 悪魔百足の攻撃はどれも即死級だが、速度が落ちた事でこちらに当たりにくくなっている。

 進化することで油断したな。馬鹿め。


「そろそろ終わりにしようか、悪魔百足?」


「強がるな!我の攻撃が当たれば、貴様など直ぐに死ぬだろうに!!」


「当たってねぇから、お前が劣勢なんだろう?強がりはお前の方だよ」


「ぐっ!!」


 先程剣に触れた牙は俺の氷によって脆くなり、ただの剣の一閃により容易く砕かれる。


「どうした?もう猛毒は出さないのか?肌が乾燥してるぜ?」


「ぐぉぉおお!!」


 牙を砕かれ、もがいている頭を剣で突き刺す。

 ダメージを負い過ぎた甲殻からは、猛毒など一滴も出ずに只の厚い鉄板に成り下がっている。


「チェックメイトだ、悪魔百足。進化したからって驕るのは良くないぜ?一瞬の油断も命取りだ」


「くっ、小僧が調子に乗りおって!!」


 頭を剣で刺されているにも関わらず、逃れようと必死に身体をくねらせているが、体全体に行き渡った極氷を壊すことなど出来ない。


「悪いな。お前の死体を鑑定し、俺の今後の糧にさせてもらうぜ?食物連鎖における強者は俺の方だったみたいだな」


「たか…が、人…間……如き……に、我が……我がぁぁぁああああああ!!!」


「【爆氷の監獄】」


 負け百足の咆哮は、氷で覆われ絶命する最後まで轟いた。


 --------俺の勝ちだ---------


 ---ウォォォォオオオオオオオ!!!!---


 勝者である俺の一言は、勇者と悪魔の戦闘を固唾を呑んで見守っていた者たちの恐怖を払拭し、彼らに勝鬨の咆哮を上げさせた。





 ------------------------





「コロォォオオン!!よくぞ、よくぞやってくれた!!余は感動に震えておるぞぉぉぉ」


「うげぇっ!わかったから突進しないでください。内臓がやられてるんですから」


「ぬ!すまん!」


「王よ!はしたないですぞ!戦場から舞い戻った勇者を痛めつけてどうします!?

 勇者殿、お話の前に宮廷魔導師達による治療を受けてください。そのままでは命にも関わりまする」


「そうさせ…て、もらい…ま…」


「うぉお!コロォォン!!!」


 最後まで言い切る前に疲れ切った俺の意識は、容易く暗闇に引きずり込まれた。





 ------------------------





 〜???視点〜


「何ぃ!?悪魔百足がやられた、だと!?馬鹿を言え!あれはワレが直々に血を与え、進化を促した個体なのだぞ!?たかがウルファン王国の雑魚勇者にやられる訳がなかろう!!」


「落ち着いてください。確かに悪魔百足はやられました。私の忠実な"目"には寸分の狂いもありません」


「馬鹿な!Sランクだぞ!!たかが雑魚勇者に倒れるような個体では無い!!!」


 頭に血が上った八つ当たりの一撃で、目の前の豪華な大机が粉砕される。


「あれには俺の血も与えておる。が、それでも尚勝てぬとなると……ふん、面白い奴がいるものだ。執事よ、確か、ウルファン王国の勇者だと言ったな?最近、新たな第4勇者を迎えたらしい。もしや、其奴の事ではないか?」


「はい。そうでございます。一昨日、我が"目"で、その姿を拝見しましたが……彼女、いや彼は……人間ではありませぬ」


「何だと?まさか人間に扮した魔族だとでも言うのか?」


「いえ、それも違いまする。彼は人族にも魔族にも非ず。もっと不気味な……得体の知れない、何かです」


「面白そうだな!いつか会えるかも知れんな!」


「えぇ、その可能性は高そうですね、お嬢様」


「ええい、爺!ワレは性別が無いのだ!お嬢様はやめよ!」


「昔は爺、爺と可愛いかったのに、こんなに男らしくなってしまって。爺は悲しいですぞ、お嬢様」


「あ、また言ったな?クソジジイめ!」


「相変わらず五月蝿いなお前らは。で、余興のためにウルファン王国を潰そうとしたものの、勇者の奮闘により失敗。このままでは面白くねぇんじゃないか?」


「うむ、そうよのう。でもまあ、暫くは様子見しようでは無いか。爺、貴様の"目"は増やせぬのか?」


「あともう1人くらいならば可能です」


「ならば奴の動向を監視せよ!空からでも、海からでも、大地からでも!どこからでも良い!ワレは勇者に興味が湧いたぞ!」


「お前は性別が無いくせに、興味が移ったもんには何でも好きになるのな」


「まだ好きでは無い。興味があるだけだ!」


「どうせ、取り込もうって魂胆だろ?今までどれほどの奴が、お前の虜になり捨てられたか……恐ろしいねえ」


「それが、この【色欲(ワレ)】だよ、【怠惰】」


「ふん、まあ俺は何もしないで楽しさを味わえれば、それで良いんだがな」


「面白くなってきたではないか!ただの余興のつもりが、この世界を狂わせる事の出来る"異端"を発見することができるなど!」


「前から言ってる、その"異端"てのは何だ?」


「その内分かるさ!」


「ほう……」


 新しい玩具を見つけた様に目を煌めかせる者、興味なさげに寝そべる者。


 2者による余興の対象が、この世界を狂わせる事になるとは、まだ現時点では2者でさえも冗談だと笑っていた。


読んで頂き、有難う御座います!

これで悪魔百足さんとの戦いは終わりです。

これからは旅物語となります。戦闘シーンなどはありますが、激闘レベルはあまり無いです。

某の旅の様な綺麗な景色や国を文章で表すのが夢だったのです。

未熟故に拙い文章ではありますが、良ければお付き合い頂けると、もれなく私が喜びます!


それでは、また次回お会いしましょう!

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