第10話〜勇者誕生〜
目を開けると、薄暗いが澄んだ空気の部屋にいた。
どうやらここが隠し部屋らしい。
「着いたぞ。ここは王城近くの普通の店の地下室だ。特殊な魔法で保護されているので、絶対にバレない。
ここから階段で上がり、王城の裏門まで行く。」
グルダの後に従い、階段を上がり、外に出る。
人通りが少ない裏路地だ。
しかし、裏路地を出ると直ぐに王城があった。
裏門の門番に話を通し、直ぐに門から中に入る。
裏庭を歩いて、城の扉より中に入った。
中は中々綺麗だ。駄洒落だ。
細かいところまで手入れがされており、埃一つ落ちていない。
城といったら、と言う感じの赤い絨毯の上を歩き、一際大きな立派な扉の前に立つ。
「新たなる勇者様が到着されました!」
「入るが良い」
グルダが到着の知らせを大声で伝えると、友達が遊びに来るのを待ってた様なフワリとした声音で入室の許可をされる。
恐らく国王の声であろう。
門がゆっくりと開く。
シャンデリアに照らされ、大理石の様な綺麗な柱が均等に道横に並んでいる。
光ってさえ見える赤色の絨毯が、前方の玉座に伸びている。
「良くぞ来た、新たなる勇者よ。
余がこの国の王、マルバ・ベス・ウルファンである。
おぬしが勇者になってくれたこと、余は大変喜ばしく思う。」
「勿体無き御言葉で御座います。」
「そうかしこまらんでも良い。
余は勇者が好きでな。新たに勇者となった者と、そういった話をするのが楽しみなのだ。
ゆるりと語ろうぞ」
「はっ」
勿体無き御言葉で御座います…か。
似合わねぇなぁ。漫画で見た台詞をそっくりそのまま言っただけなんだけど。
それにしても、国王と一対一で話かぁ。
緊張するな。言葉使いが段々荒くなりそうだ。
国王もかしこまらんでも良いと言ってたし、大丈夫だろう。
国王は護衛の騎士や大臣に、退出するよう目で伝える。
ん?良いのか?勇者だと言っても、絶対に信用出来る訳じゃ無い奴と2人きりなんて。
「失礼ですが、宜しいのでしょうか?何処の馬の骨とも分からん者と2人きりなど」
「ん?あぁ、良いのだよ。余は常に【揺るがぬ王】を発動しておる。
これは絶対防御であるから、街を歩いていても暗殺される事は絶対に無いのだ。」
「す、凄まじいですね。絶対防御…ですか。防御系魔法の最上位魔法ではないですか?」
「良く知っておるな。そうだ。王の資格を持つものは、この魔法を使えるスキル〈王の証〉を必ず所持している」
「やはりですか!僕が読んだ本にもその事が書いてありまして、是非一度目にしたかったんですよ!最上位魔法!」
「そうであろう、そうであろう!いやぁ、余も最初は興奮したものよ!まさか自分が最上位魔法を使える日が来ようとは、思わなんだ!」
はっ、ついつい興奮して口調が戻ってしまった。
やべぇ、軽口を叩いた事で処刑とかされちゃう!
「も、申し訳ありません、国王様!つい興奮して無礼な口を…」
「あー、直すな直すな!余が良いと言ったであろうが?毎回、勇者が緊張してのう。余も満足に話せぬのだ!つまらん!
確かに礼儀というものは大事だ。それも一国の王に対してならば、本来はおぬしの口調も許されるものではない。
だがしかし、余は違う。楽〜に話したいのだ。国の王が、それは許されることではないのは知っておるのだが…。そんなのどうせバレないなら良いじゃん?」
「ですよね、分かります」
「だろ?」
うん、この王様好きだわ。
良いよ、こういう王様。こんなフレンドリーな国王とか良いのかよ。良いんです。
だって国そのものと言っても過言ではない王様の言葉だよ?逆らったら、処刑されちゃうよ。
国王が口調を軽くしろと言うのであれば、従うほかない。
「あ、名前名乗ってなかったです。
〈魔法剣士〉コロン・ウィストンです。宜しくお願いします」
「宜しくな、コロン。おぬしも余の事を国王などと堅苦しく呼ばなくても良いのだぞ?」
「では、マルバ王と呼ばせていただいても?」
「構わぬ」
こうして、ウルファンの王と仲良くなったのである。良いのだろうか、こんな友達感覚で。良い(ry
「さて、先ずはコロンが勇者に成ろうと思った理由を聞こうか」
「かっこよかったからです」
「そうか、そうか!かっこいいよな!余も勇者に成ろうと思った時期はあったのだが、身分がそれを許さぬからな。しかし、実力は勇者には劣らぬ筈だ!」
「ほう、強いんですねぇ。でも剣を振ったりすると、大臣とかに怒られたりしません?」
「そのことよ。あれこれと煩いのだ。やれ、王が剣を振ってはならぬだとか、やれ、戦いは騎士に任せれば良いだとか。そういう問題じゃなかろうが!?」
「そうですね。大臣さんはそこが分かっていらっしゃいませんねぇ。自分が強くなることに浪漫があるんですけどね」
「うむ、そうなのだ。大臣は男の浪漫を知らなさ過ぎる。余も王だが、暇な時はある。プライベートまで口出しする権利が、大臣のどこにあるというのか…」
「でも、色々助けてもらってるから、不満は言えないと?」
「そうなのよ。奴は余よりも優秀だ。大臣無しで、余は王を保つ事は難しい。これもどうかとは思うがな。って、大臣の話などどうでも良いわい!そうだ、勇者になったものにはステータスプレートを渡す事になっておるが、今見るか?」
「ステータスプレート、ですと!?それはもしかして、自分の体力や魔力、その他諸々が見れてしまう、あれですか!?」
「そうだ、あれだ!しかし、体力や魔力などでは無いから注意だ!」
「是非見たいです!宜しいでしょうか!?」
「余も気になっていた事だ!早速見ようでは無いか!おい、ベクト!白紙のステータスプレートを持ってくるが良い!」
「はっ!かしこまりました!」
部屋の外に居たらしいベクトという騎士が、直ぐにステータスプレートを持ってきてくれた。
「この赤い結晶に血を垂らせ。それでおぬしのステータスが分かる」
血か。まあ別に大した痛くも無いので、指を爪で切って血を垂らす。
すると赤い結晶に血が吸い込まれ、淡く光る。
白紙のプレートに文字が浮かび上がって来た。
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種族名〈非人魔族〉
コロン・ウィストン 性別 無
ステータス各種の測定に失敗。
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しまった。忘れていた。俺は人族じゃない。
しかし、魔族でもない。こんな異端、即刻殺しにくるだろう。騎士を呼ばれる前に、逃げられるか!?
「非人魔族…だとう?」
くそ、やはり震えている。人族を装って近づいた事に激怒しているのか。そりゃそうだ、勇者好きだと話をしたのも全てが嘘になってしまうのだから。
俺は得体の知れないものとして、王を殺そうとしたもの。そんな烙印ゴメンだぜ。
足に力を入れ、一瞬で跳躍----しようとした時
「何だそれは!聞いた事ないぞ!?非人魔族なんて!新たな種族なのか、コロンよ!?」
「ぽぇ?」
変な声が出てしまった。
いやいや、世紀の大発見を見たような目で見ないで欲しい。
「騎士…呼ばないんですか?人族じゃないんですよ?普通なら、『暗殺に来たか!者共、出合え、出合え!』的な感じで殺しに来るでしょう!?」
「出合え、出合えって何だそれは…。
さっきも言ったであろう?絶対防御を発動しているからには殺されぬと。
それに、おぬしとの勇者談において、おぬしは嘘を付いていなかった。つまりは勇者が好きな事に偽りはないと。
勇者好きに悪い奴はいないのである。あくまで体験談からだがな」
勇者好きにも悪い奴はいるだろう…。
そんなんで良いのか、王よ。
しかし、俺の種族は親も知らない。バレて欲しい事ではない。
「この事は内密に。親にも知られたくはないのです。」
「種族のことか。無論、わかっておる。しかし、親には話をしておいた方が良いのではないか?」
確かにその通りだが、俺が人族じゃないって分かったら、どんな態度を取られるか分かったもんじゃない。
「ふむん。親に拒絶されるのが怖いと?」
「!」
こいつ、エスパーか!?みんな!エスp(殴
「ふはは。余は王であるぞ?何百人と汚い貴族共と化かし合いをして来た。おぬしの様な童の考える事など、手に取るように分かるわ!」
ぬぬぬ、確かにそうだ。俺の様な子供の考えてる事など、表情で丸わかりだろう。
そう、親に拒絶される事が怖くて仕方ない。
11年間大切に俺を育ててくれた親が大好きだから。
俺が冒険者になって旅をしたいと言った理由でもある。
嘘を付いてる様で後ろめたかったが、拒絶されるよりは万倍マシだった。
「安心せい。拒絶などせぬ。可愛い我が子の為ならば、己の身を悪魔に捧げるのも厭わぬ。それが親というものだ。
そんな親が、我が子を拒絶するなどある訳があるまい?」
「そう…かも、知れないですが…。」
「勿論心の準備がいるだろう。打ち明けるのはいつでも構わん。それまで余は口を堅く結んでおる。余がコロンの味方でおる。安心せい。」
味方でいてくれる。
その言葉で、不安が崩れ落ちていく。
その言葉で、安堵に包まれる。
聞きたかった。
特に気にしてないと、心の奥に閉じ込めていた真の種族。でも、そうはいかなかった。表には決して出していなかったが、毎日が不安で仕方なかった。
いつバレるか分からない、人らしい振る舞いが今になって分からない。バレたら周りはどうなる?俺は1人になる?
そんな不安で潰れてしまいそうだった。
聞きたかった。
不安で潰れてしまいそうな俺を解放してくれる、その一言を。
王の服を濡らしてしまった。本来は許されないだろう。
だが、マルバがその優しさで包み込んでくれるのが嬉しくて、初めての理解者が嬉しくて、涙が止まらなかった。
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「ぬはははは。凄まじい涙の量だった。まるで【水弾】をぶつけられた様だ!絶対防御を発動している余に魔法を食らわすとは、やりおる!」
「からかわないでくださいよ…。恥ずかしいですが、嬉しかったんですから…」
「良い良い!心に不安を溜めるのは毒だ!そんな時は誰かに感情をぶつけるのが一番だからな!
余もおぬしが心を許してくれた事で、嬉しいぞ!」
はぁ、穴があったら入りたい…。
人前であんなに号泣するなんて、恥ずか死ぬわ…。
「少しは気分も落ち着いたか?そろそろ日も暮れる。今日は帰路に着くと良い。」
「そうですね。それではまたお会いしましょう」
「うむ。なんやかんやで勇者の称号を授けていないからな。また明日、正式に授与式を行うぞ。その装備でまた来るのだ」
「え、授与式!?嫌だな、恥ずかしい」
「ぬはは。良いではないか!勇者というだけで宿賃や飯代が無料になるのだぞ?色々優遇されるのだ、顔を見知られておくのは得だぞ。
それに女が寄って来る」
「女は良いですよ…。俺は勇者ではありますが、旅の身になりますし。」
「そうか?女は良いぞ〜、あんなことやこん」
「あぁぁぁああ!もう良いですって!そんな話!」
「ウブな奴だ!知らぬは損だぞ!」
「俺の見た目は女…」
「心は男だろう?それに性別がないなら良いではないか!両刀って事で!」
「ふっざけないでください!」
「ぬはははははは!ではまた明日な!」
「ちょっと!逃げんなぁぁ!」
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騒がしいこともあったが、マルバ王が唯一の理解者であり、友にもなってくれた。
不安も無くなり、心機一転。
今日は勇者授与式だ。
という訳で、今俺は王の前に跪いている。
「ウィストン家 コロン・ウィストンは今を持って、この国の第四勇者となる!
新たなる勇者誕生を祝福し、このマルバより、【魔剣の勇者】の称号を授ける!
我が国の勇敢なる勇者への拍手の洗礼を持って、授与式を終了する!
今日という日を、国民全員で祝おうぞ!」
国王からは称号を、国民からは勇者誕生への喝采を貰い、王へ一礼する。
「コロンよ、手を振ってみい」
王の言う通りに国民に対して手を振ってみると、更に大きな歓声が上がった。
ちとこそばゆいな。
勇者の称号授与式の日は、勇者誕生を祝う日として祭りが開かれる。
国民全員による勇者誕生祭だ。
国民全員の熱気で真夏の如き温度なのだが、それすらが心地良く、楽しさで胸がいっぱいになる。
マルバ王は国民に混じって、屋台の串焼きを頬張っている。
5本同時に口に突っ込んで、むせていた。それを見て周りの人は笑い、王も笑っている。
これが本来、国のあるべき姿なのだろうか。
社会を知らない俺には、理解できるはずのない話だ。
考えることをやめ、俺も串焼きを5本頬張る。
それを見てマルバが対抗心を燃やし、店主の提案により串焼きの本数勝負が行われた。
負けた方が1発ギャグをするというルールで。
食べたことのない味を楽しめた為、いつも食べているマルバより、俺の方が有利だった。
勝負には俺が勝ち、マルバが1発ギャグのネタをは考えている。
「うぉっほん…。団子猿の真似!みょぉぉん」
「ぶぁっははははははは!」
串焼きを食べ過ぎて団子みたいだ体型になったマルバが、顔のシワを深くし、団子猿という魔物の真似をした。
予想以上に似ているため、勝負を見ていた人全員が爆笑の渦に包まれる。
「あ!国王様何をしていらっしゃるのですか!魔物の真似など、はしたない!ええい、おぬしらも笑うでない!」
王をやっと見つけたらしい大臣が、顔を赤くして王を叱りつける。観客に対してもぷんすかと怒っている。
紅豚人---豚人族という豚が人みたいになった魔物の赤いバージョン---似てる…。
俺含め、観客全員がそう思った。
「大臣も紅豚人みたいな顔をしているではないか!体型もそっくりだ!ぬはははははは!」
「何ですとぉ!?これでも10kgは痩せたのですぞ!?あ、笑いましたな!?」
そんな団子2人のやり取りに観客が笑いを堪え切れなくなり、苦しそうに腹を抱えて笑っている。
自分は一番いい国に生まれてきたなぁ、と嬉しく思いつつ、笑いながら今日の祭りを楽しんだ。
読んで頂き、有難うございます!
マルバさん、ステータス取得失敗への突っ込みをしませんでした。
ステータス取得失敗の理由は、ステータスを無しにしようと思っていたからです。
つまり、コロンが非人魔族であること気付かせる為だけです。
今後はステータスは出てきません。




