第四話
「ラーミナッ、『ホシ』がそっちに逃げたぞ! 俺は回り込む、お前はダクトに突っ込め!」
「は、はいいッ!」
――失敗してしまった。
ラーミナは逃がしてしまった『ホシ』の後を追って、ダクトへ入った。
今回の任務、トシヒデが考案した作戦は完璧であった。
『ホシ』は読み通り出現ポイントに現れ、トシヒデは上手くラーミナの方へ追い込む事に成功した。しかし、ここでラーミナに問題があった。『ホシ』を目の前にして動けなかったのだ。
「――――だって、猫って思わないよッ!!」
『ホシ』を人間だと思っていた彼女は向かってくる猫に一瞬、呆気に取られた。
だが、その一瞬は猫にとって十分な時間である。一気に加速した猫はラーミナの股下を抜け、真後ろにあったダクトへ吸い込まれるように消えた。
理解が追い付かないラーミナ、そんな彼女を再起動させたのは上司であるトシヒデの声。
彼女は指示に従いダクトへ入ったのが良かったのか、やっと理解が追い付いてきた。
「そうだよ。そもそも成績に問題がある私が、いきなり前線で犯罪者と戦う可能性がある任務に就けるはずないじゃない!」
冷静に考えればわかる事なのに、ラーミナは浮かれ過ぎて完全に失念していた。
とにかくラーミナは先ほどのミスを取り戻したい一心で猫の後を追う。
だが、現実は彼女に無常であった。
「――イタッ。腰がつっかえて進めない!?」
奥に進むにつれて、少しずつ狭くなっていた空間は完全にラーミナの行く手を阻んだ。無理に進もうとするがどうやっても進めそうになかった。
ラーミナは猫の追跡を諦め、ダクトから出ようと―――。
「う、嘘。嵌まって出られない!?」
――できなかった。
ダクト内から何とか脱出しようとあの手この手で暴れるが、完全にすっぽりと嵌まって動けない。
「誰か助けて―――ッ!!」
ラーミナの声は木霊した。
◇ □ ◇ □ ◇
「ホシ、捕ったどぉぉおおお!」
両手で捕らえた今回の任務のターゲット――真っ白い猫、名を『ホシ』と言う――を掲げながら叫ぶのは、特命係班長のトシヒデだ。
この猫は以前からよく姿をくらます。それが大体一週間のペースで起こる為、特命係の主要任務みたいになっていた。
なのである程度いる場所に予測できるのだが、今回はいつもと動きは違い確保するのに一週間を費やしてしまっていた。故にトシヒデは嬉しさのあまりに叫んでしまったのだろう。
「ふふふ、これでマチルダちゃんに頭を下げなくていいわ」
今、トシヒデが思い浮かべるのは一人の少女。依頼人であるマチルダであった。
彼女はホシが行方不明になると決まった時間に特命係までわざわざ足を運び、一言目には必ず『ホシちゃん、見つかりました?』と尋ね、見つかっていないと答えると心をえぐるような悲しい顔をして『そうですか……』と呟くのだ。
マチルダの猫を探し始めて早五年、この状況になるとトシヒデのメンタルはがりがりとゴマの如く削られる。主にマチルダを慕う人達によって――。
確かに彼女は美人で気立てもよい。そのため騎士団の男衆にも人気があるのはわかるのだが、そこまで目の敵にされることなのだろうか。
――三年前のあの目は完全に逝ってたな、ゴンザレス副団長。
あの狂気に満ちた目を思い浮かべるだけで背筋が凍りそうになった。
とにかく猫も無事確保し、もうその心配がなくなったと一安心したところでトシヒデはあることに気づいた。
途中で別れた新入り騎士ことラーミナの姿が未だ見えないのだ。
「……もしかして、ダクトでつっかえたか?」
まさか、と思いながらもトシヒデには思い当たることがあった。
いつも組んでいる『相棒』はラーミナよりも体格が小さい。いつもの感覚で指示を出せば、こんな事故が起こるのは必然だったかもしれない。
――助けにいかないとな。
トシヒデはホシを持って、ラーミナがつっかえているであろうダクトの方に駆け足で向かうのだった。