第三話
――光国、ラージス聖騎士団本部。
ジャンヌに連れられ無事ラージス聖騎士団本部に到着したラーミナは、一人特命係がある部屋の前に来ていた。
――ここが特命係。私が騎士として初めての配属先。
そう考えると気持ちが高ぶった。既にジャンヌから聞いていた事案によってだろうか、本部では慌ただしく騎士達が動き回っている。
果たして特命係はこの事案についてどう動いているのか。それとも全く別の任務にあたっているのか。
こうして扉を前に立つと期待に胸をふくらませてしまう。
「いけない、いけない。最初が肝心なんだから」
ラーミナはにやけていた顔を軽く叩くと、大きく深呼吸をして扉を開けた。
「本日、特命係に配属されました『ラーミナ・エクセス』です! よろしく――ゲホゲッホ!? な、何? この埃っぽい部屋」
開けられた扉に広がる風景は薄暗くて埃っぽく、そして空気を入れ替えられていないせいかどこかカビ臭い。さらには、無造作に積まれる薄汚れた木箱の数。それはまるで、余り使われていない倉庫のように思われた。
「えぇ? でも確かにここが特命係だよね」
もう一度部屋の外にある表札を確認する。やはりそこには確かに特命係と明記されている。
何とも言えない不安がラーミナの頭によぎる。
――そんな時だった。
「汚くて驚いただろう。すまんが奥に入ってきてくれ」
部屋の奥の方から声がした。どうやら奥の方で人がいたようだ。
ラーミナは声に従い、恐る恐る積まれた木箱の横をすり抜けると、机の上で電灯が光っていた。
どうやらこの部屋唯一の明かりらしい。
それが部屋を明るくしているのだが、なんとも頼りない。
そして、その近くで立っていた一人の男がラーミナの上司になる人物であった。
「ようこそ、特命係へ。俺はこの特命係班長の『トシヒデ』だ。よろしく頼む」
「は、はい。よろしくお願いします」
「さて、早速だが任務があるのだが……移動で疲れていないか?」
「いえッ! 大丈夫です!」
まさか配属早々に騎士としての任務があるとは思っていなかったラーミナは興奮した。
教育隊では出来損ないとして過ごしていたあの自分がさっそく任務に就けるのだ。
――このことを同期が聞いたらどう思うだろうか? きっとひっくり返るに違いない。
ラーミナはもう任務に就きたくて、トシヒデに食いついた。
「そ、それで班長! 任務は一体……!?」
「今回の任務は『ホシ』の確保だ」
「『ホシ』の確保!?」
――その時、ラーミナに電流が全身を駆け巡った。
ホシ……。そうあの『ホシ』なのだ。つまり『容疑者』を意味し、それを確保すると言う事は前線での仕事をすると言う事だ。
まさか憧れていた騎士としての初仕事が誇らしいモノとは思っていなかった。つい数時間前まで教育隊で、騎士になれないかもしれないと言われた問題児だったのに。
もうラーミナは目を輝かせて、トシヒデの一言一句に耳を傾ける。
「『ホシ』の動きについては近隣の住民から聞き込みをして、出現ポイントは特定している。つまりラーミナ君、君の今回の任務はとても簡単だ――」
「そのポイントで待ち伏せ、挟み撃ちにする……。ですか?」
「その通り。さて、そろそろ時間だ。急いで出現ポイントまで急行するぞ。『ホシ』は待ってくれないからな」
「はいっ!」
ラーミナは期待と緊張感で胸を含まらせて、トシヒデの後を追う。
――これが、私の騎士としての初めての仕事。
心なしか、足取りはいつも以上に軽く感じた。