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こちら騎士団特命係。  作者: 遼明
第一章 ヴィーナスの涙
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第二話



「ラーミナ、お帰り。面接どうだった?」


 ラーミナは教場を後にして自分の寮室に戻ってきていた。

 そんな彼女を迎えてくれたのは、同期でありルームメイトの『デイジー・アルサルト』。彼女は今期の教育課程では群を抜いて優秀であり、人格者もある。

 教育課程も終わり一時帰宅を許可されている時期にもかかわらず、ラーミナを心配して一緒に訓練をしていたぐらいだ。事実、ラーミナのために行われた再追試では剣術と体術の成績を上げ、体術のみ赤点を脱却していた。

 そして、彼女は一人ラーミナの帰りを首を長く待っていた。


「うん、私の思いは団長には伝えたよ。後は神に祈るだけ……かな?」

「きっと大丈夫。団長はラーミナを騎士にしてくれる」

「ありがとうデイジー。でも、なんでこんなに良くしてくれるの? 私は呪いの子って同期の中でも馬鹿にされているのに」


 ラーミナはデイジーから視線を外すと、部屋の隅に置かれた鏡台に映る自分の姿を見た。

 長くよく手入れされた銀の髪に非常に印象に残る真っ赤な瞳。自分の姿なのにまるで魔物に心臓を掴まれたような気味の悪い違和感を覚えずにはいられない。

 この容姿は彼女の祖国、闇国あんこくでは呪いの子だと言う風習が残っており同い年の子供に石を投げられた事も少なくない。騎士になるため光国に移ったことで石を投げられることはなくなったが、今は陰もしくは正面から呪いの子だと言って毛嫌いされていた。

 しかし、デイジーは出会った頃からそのようなことは一切ない。成績も天と地ほど違うのに彼女は騎士になる為の手伝いまでしてくれた。

 そんな優しすぎるデイジーにラーミナがずっと聞きたかったことであった。


「そうね、正直に言うわ。初めて見た時、唖然とした。こんなに綺麗な子がいるんだって」

「えっ、私がきれい? あり得ないよ」


 想定していなかった答えにラーミナは目を白黒させた。

 今まで容姿で貶されることはあっても褒められることはなかったのだ。

 理解が追い付かないラーミナを置いて、デイジーの賞賛が火を噴いた。


「そんなことない。髪の毛はまるで銀のネックレスのように光が当たれば美しく輝くし、瞳はまるで宝石のルビーのように綺麗で……。もうこっちが嫉妬したぐらいよ。しかも顔は整っているのは勿論、騎士目指していただけに体はすらっとしてるし、正直羨ましい。何よりその胸についているモノは何ッ!? 私に少しください。お願いします!!」

「いや、私そんなに大きくな――」

「――言わないで、私が惨めになるだけだから……。とにかく私が言いたいのは容姿で人を毛嫌いすることはないってこと、今言われている呪いの子だって古い風習が原因なんだし」

「……ありがとう」

「気にすることないよ。それよりも夕食にしない? 市場で美味しそうな物買ってきたんだ。教育隊卒業の前祝にね」

「本当? いつも思うけど手配が早いね」

「で、で食べるでしょ?」

「勿論」


 デイジーは後ろに隠していた紙袋をテーブルの上に置いて、ラーミナは二人分の椅子を用意した後。二人はテーブルを囲うように食事を始めた。

 教育隊最後の食事にしては質素なものではあるが二人にとっては何よりもごちそうであった。

 食事も終えた頃には、外は暗くなるが少し騒がしくなっていた。一時帰宅していた騎士が帰ってきているのだろう。改めて明日で教育隊が終わるのが実感できる。

 だからだろうかラーミナは今だ配属先が決まっていない不安を紛らわせるようにデイジーに話しかけていた。


「確かデイジーは卒業後ラージス聖騎士団本部、それもジャンヌ聖騎士団長直属の部下になるんだよね。流石だね」

「そうかなぁ……。直属って言っても末端の騎士から始まるし、何よりここから伸びしろがなければすぐに地方に飛ばされると思うよ」

「デイジーなら大丈夫。私みたいに何もできないわけじゃないから……」

「――貴女は何もできないわけじゃない。ちょっと不器用なだけ、きっと芽が出る」

「でも、誰でもできる魔法はどんなけ努力しても発動しなかった」

「きっと原因があるの。教官たちも言ってたじゃない大気に魔力が霧散する現象は魔法が発動している証拠。だから今日、団長が態々面接して意思を確認したんじゃない。だから不安にならないで、きっとラーミナは明日騎士になれる」


 ――見透かされていたか。


 ラーミナはとっても恥ずかしくなった。


「これ以上起きていると悪いこと考えちゃうからもう寝ましょ」

「そうだね。ラーミナおやすみ」

「おやすみデイジー」


 それぞれの寝床に入ると明かりがふっと消える。

 きっとデイジーが魔法で消してくれたのだろうとラーミナは思うのだった。


 ――ああ、デイジーには敵わないなぁ。


 こうして二人で過ごす最後の夜は終わった。



 ――次の日、運命の時を迎えた。

 卒業式と卒業記念パーティを終え同期が次々と配属先の先輩隊員に導かれる中、一人それを眺めるラーミナの姿があった。彼女には今だ辞令通達が来てなく不安を隠せないでいた。


「あっ! ラーミナ見て誰かが来た!!」


 ラーミナのすぐ横にいたデイジーは少し興奮して肩を叩く。

 確かに遠くの方には馬に乗って、向かって来ている騎士がいた。

 遠くにいてもわかるほど、美しい輝きを放つ黄金の長い髪。それを一本に結っている人物は、少なくとも騎士は一人しかいない。


「ジャンヌ聖騎士団長!?」

「すまないデイジー君、ラーミナ君。首都で事案が発生したせいで迎えが遅れた」


 ラーミナの前に馬を止めたジャンヌは颯爽と馬から飛び降りる。

 まさか聖騎士団長自ら通達にくるとは思っていなかったラーミナは唖然とする。

 一方でそれほど驚かなかったデイジーは冷静にジャンヌに尋ねた。


「首都で何かあったのですか?」

「……実は今日君達の迎えに行く予定だった騎士達が行方不明になった」

「えっ、行方不明? それって――」

「わからない。今日の昼頃それが判明した。そのせいで本部の方では大変でな。捜索と事件性がないか、調査することになったんだがゴンザレス副団長に押し付――。任せて、私が君達を迎えに来たわけだ」


 最後、胸を張って言い切ったジャンヌを見て、デイジーは仕事を丸投げされた聖騎士副団長であるゴンザレスに心の中で祈りを捧げる事にした。

 そんな中、やっと再起動を果たしたラーミナはゆっくりと口を開いた。


「あっ、あのっ! 聖騎士団長、わっ……私はっ!」

「落ち着こうかラーミナ君。私は君達を迎えに来たと言ったじゃないか?」

「え?」


 理解できずラーミナは理解できずデイジーの方に視線を動かす、何故か彼女は笑っていた。


「なんで?」

「ラーミナ騎士ッ!」

「はいッ!!」


 ジャンヌの透き通るような大きな声はラーミナの背筋を必要以上に伸ばした。


「君をラージス聖騎士団本部に設置されている特命係に配属を命ずる」

「嘘、本当に騎士に……?」

「信じられないようだがこれが私が下した決断だ。十分に励め」

「はいっ、粉骨砕身頑張ります!」

「よかったね。ラーミナ!」

「さて、荷物を持ってきなさい。もうすぐ輸送部隊もくる」

「はい、失礼します」


 二人はジャンヌに敬礼をするとその場を後に寮へ荷物を取りに行くのだが、そんな様子を見て彼女は一人言葉を漏らした。


「どうやら特命係の噂は耳に入っていないようだな」


 ジャンヌは目を閉じて懺悔する。この方法でしか彼女を騎士にする事が出来なかったことに、きっと彼女は恨むであろう。それでも彼女にチャンスをあげたかった。


「――頑張れ」


 その一言は誰にも届かず、空に溶け込んでいった。

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