第1章 1
「今週の土曜日、会えない?ちょっと相談があるんだけど」
久々に話しかけられていきなりこれで、ぼくは面食らった。けれど、気になっている女の子と会わないかと言われて断る理由はなかった。
「いいよ、それにしても久しぶりだね…」
会話を続けようとしたが、会うという約束をしただけで彼女はすたすたと歩いていって、車両を変えてしまった。それにしても相談とは一体なんなのだろうか。
翌朝、ぼくはうきうきしながら目を覚ました。今日はまだ金曜だから約束の日ではないが、むしろそのために心が躍る。
昨日わざわざ先生から注意までされた台風は、一夜明けて衛星写真から姿を消していた。
いつもの電車のいつもの車両に乗り込むと、ぼくはまたつり革に手を伸ばして目をつむった。今日は人の多さにもいらいらしない。そのとき、かすかに花の甘い匂いが漂ってきて、……。
その香りに目を覚ますと、ぼくは目を開けたつもりだったが、依然として視界は暗いままだった。手足を動かそうとしても、少し動かすと金属がぶつかりあう音がして、それ以上自由には動かせなかった。
室温は快適だし、仰向けになった背中は柔らかいクッションが受け止めてくれている。ここは一体どこなのだろう。
少しでも目を覆っているものがずれないかと腕を動かしていると、ドアが開き、そして閉まる音がした。
「あら、起きたのね。なかなかいい部屋だと思わない?」
女性の声だった。凛とした雰囲気を感じさせる話しかただ。
「まだ部屋の中を見ていないのでなんとも……」
ぼくは自分でも驚くほど冷静だった。その原因の一つには、自分の身には起こるはずもないだろうと思っていたことが、音も立てずに訪れたことがあるだろう。
「監禁されてるっていうのに余裕があるのね」
こんどは冷たいような、しかしぼくを褒めるような口調だった。
「いったい、ぼくを監禁してどうしようというんですか?」
「どうもしないわ。ただ、あなたは今日は学校に行けないし、あしたもどこにも行けない。それだけよ」
学校はいいにしても、ぼくはあした、人生がかかった大一番を控えているのだ。なんとしても抜け出さねばなるまい。




