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序章 1
朝、ぼくは満員の通勤電車に乗り込んだ。毎朝のことだけど、憂鬱になるほどの人の多さだ。スーツ姿の人たちに押されながら、すこしでも寝不足を解消しようと、手を伸ばしてつり革につかまりながら目をつむった。
電車がカーブにさしかかり、からだがぐぐっと傾くと、香水のいい匂いがした。花の、甘い香りだ。次の駅では人がたくさん降り、たくさん乗ってくる。それに備えてぼくは目を開けた。すると、前に立っていた女の人と、一瞬、目が合った。その瞬間に電車は駅にとまり、扉が開いて、その女の人も含めてたくさんの人が降りていった。ぼくは降りていくその人を思わず目で追った。パンツスーツ姿の、すらりと背が高い人だった。
学校に向かう途中で、ぼくは突然肩をたたかれた。
「おはよう、元気か」
「おお、おはよう、正明。いつも通りだよ。今日は朝練はないのか?」
「テスト前だからな。けど走らないっていうのもちょっと変なかんじだよ」
「テストが終わったら夏休みだから走り放題だぜ」
「おいおい、陸上やめたからって夏休みのきつさは覚えてるだろ」
そのとき、ぼくの横を制服姿の女の子が通っていった。
「聞いてるか?ああ……。」
彼の顔を見ると、意味深ににやにやしていた。
「あれがウワサのあずさちゃんか?」
小突いてくる彼の肘を避けながら、ぼくらは笑った。




