第二話 目覚めた先は異世界
とても栄えた大きな街の一角にある大通り。 この大通りの両脇には幾つもの店が並んでいる。
食事所、雑貨屋、宿屋などなど色々な店が並んでいる。 この大通りの名前は鬼火町通り。 そう呼ばれる理由は以前ここに両手に松明を持った鬼が侵入してきて、鬼は町や猫人に火をつけて回ったそうだ。 その大通りにいた猫人は全員、亡くなってしまった。 それからこの大通りは鬼火町通りと呼ばれるようになった。 今ではもう復興が終わって事件以前よりも賑やかになっている。
ちなみにその鬼は騎士団の猫人達が捕まえ城の最下層の牢獄に閉じ込めているそうだ。
そんな鬼火町通りにかなりな量の荷物を両手に持った二人の猫人が話しながら歩いていた。
「なぁ、この大通りを燃やした傀儡はどうなったか知ってるか?」
そう、話すのはドラ。 全身に毛が生えていて、頭の上の部分にある耳は三角形の尖った形をしている。 そう、彼は猫人なのだ。
「あぁ、あの騎士団が王城に運んだやつのことか?」
クルモ 猫人の男。 ドラの友人である。
「そうそう」
「いや、知らない」
「そうか」
「ただ、科学者が結構出入りしてるらしいぜ」
「へぇ、ビクトリアス様はなにをするおつもりなのだろうな」
「さぁな。 何にせよ さっさと帰って、あの子供達に飯を作ってやろうぜ」
「あぁ、そうだな」
と、会話をしているとどうやら彼らの家に着いたらしい。
稼ぎの少ない彼らは二人で協力して暮らしているのだ。
彼らが家の中へとはいってゆくと、ベットやソファ、床などに布団と毛布が敷かれていてそこに合わせて5人の猫人の子供が寝ていた。
クルモがその子供達の様子を観に行った。
「どうだ?」
「まだ寝てるよ」
「そうか。 …その子供達、本当に異世界人なんだよな」
と、ドラは運んできた荷物を整理した。 運んできた荷物は食べ物がほとんどだが、武器も幾つかあった。
「あぁ、教会の泉から湧き上がってきたんだから間違い無く異世界人だろう」
そう、この5人の子供達は教会の泉から突然 湧き上がってきたのだ。
その時、ちょうど教会に野暮用があって訪れていたドラとクルモがその5人の子供達を引き取ることになったのだ。
何故、ドラが引き取ることになったかといえばそれがこの国のしきたりだからである。
“教会の泉より異世界人が現れたるとき、その教会に訪れし者に運命を任せよ”
「異世界人… 確か、記述によれば異世界人って もといた世界で一度死にこの俺らの世界に転生されてきてるんだよな」
「そうだ」
ドラは整理していた手を止めた。
「だったら、いったい何が原因で死に至ったんだろう?」
「そんかもん知るかよ。 死んだ原因がどんな事であったにせよ、絶対に聞くなよ。 ドラ」
「なんでだ?」
「当たり前だろ。 死んだんだぞ? 死んだ時のことを思い出させるなんて酷だろ?」
「まぁ、そうだけど。 でも、やっぱり…」
「う…ぅーん」
ソファの上で寝ていた猫人が目を覚ましたようでか弱い声を響かせた。
それに気づいたドラとクルモが駆け寄った。
「お! 目覚ましたか?」
視界がぼやけていて目の前にいる人たちの顔がよく見えない。
しばらくしてだんだんとよく見えるようになってきた。
そして、目の前の異様な光景を見るなり驚きソファから勢いよく起き上がった。
「琴音ぇ!! …って、こ、ここは?! それに、あんたら一体何者だよ!?」
ドラとクルモは急に起き上がった男の子に驚き尻餅をついた。
「うわ! いってぇ 猫の顔見るなりいきなりソレかよ」
「まぁ、ドラ 仕方ないだろ」
「まぁ、そうなんだけど。 悪い 別に驚かせるつもりわなかったんだが。 俺の名はドラ。 こっちは親友のクルモ」
「へ、へぇ?」
「あ! あぁ、分かった」
クルモがなにか分かったらしく、ポケットからなにかを取り出した。
「えっとね。 ほら、鏡をみてごらん」
男の子はゆっくりと鏡に近づき自分の姿を確認した。
よくよく見ると手や足に毛が生えていて耳が猫みたいな姿形をしていた。
「こ、これ 今の俺? 猫みたいだ」
「あぁ、そうだ。 猫みたいって言うか。 猫人だ。 君の名前は? 異世界人君」
「ネコ…ビト? それに、イセカイビト? とにかく俺の名前は、笠木 英治だけど…」
「笠木 英治… よろしくな。 英治君」
と、クルモは手をさしのべて握手をした。
「よ、よろしく」
「俺も、よろしく!」
「うん、よろしく。 ドラさん クルモさん」
すると、周りの布団やら毛布やらがもぞもぞとうごめきだした。
他の4人も目覚めはじめた。
「なんなのよ 騒がしいわねぇ」
「う…うぅ~ん」
「はぁ~…」
「はぁ~よく寝た~。 ……って、なんで俺生きてんだぁ!?」
ドラが5人の子供達に教会でのこと、この異世界転生のことなど色々と説明した。
「そうだったんだ…俺達やっぱりあの夜に死んだんだ… それで、ドラさん。 ここってどこなんですか?」
「ここか? ここはな、ビクトリアス女王陛下が治める猫人の王国 アイル王国だよ」
「アイル…王国?」
「そうさ。 とりあえず、今日はもう遅いから、明日 ビクトリアス女王陛下に会いに行こう」
「女王陛下に?」
「それが、この国のしきたりなんだ。 王国に最初に訪れた異世界人は国王との面会をするのさ。 つまり、君らはこの王国に初めてやってきた異世界人ってこと」
「へぇ~」
すると、クルモが台所から大量の料理をお盆に乗せ運んできた。
「さぁ! 腹が減ったろう? 腹一杯 食いな!」
『いっただっきまーす!』
異世界に来て、まだなにも口にしていなかった子供達は腹ペコだったのでクルモの料理にがっついた。
「ありがとうございます! クルモさん!」
「いいって、 あ、それと俺達のことをさんづけで呼ぶ必要ないよ。 呼び捨てで構わないしタメ口でいいよ」
「分かった。 でも、なんでそこまで手厚くしてくれるんだ?」
「ん? それはな、異世界人ってのは縁起のいいものとされてるからさ。 実際、マクテリア王国にいる俺の爺が昔言ってたんだが異世界人とすれ違っただけで綺麗な人と結婚することができたんだ。 それに、隣国のクティル王国に異世界人が現れたとき、クティル王国の領土内にあった廃れきったバクテール鉱山で急に金脈が見つかるようになったとか、とにかく、まぁ、色々あるんだよ」
「へぇ~」
「さあさあ さっさと食って、明日はビクトリアス様の所へ行くんだから風呂は入れよ!」
『はーい』
子供達は急いで食事を済ませて風呂へと入った。
次の日
ドラとクルモそして子供達はアイル王国王城前の大通りを歩いていた。
この通りも鬼火町通りと似たように店が並んでいる。 それに、馬車が行き交っていた。
「わぁ~ アイル王国って想像以上にすごいわね~」
「本当だね」
「あぁ、クティル王国には少し劣るかも知れないが他の隣国に比べたら栄えている方だよ。 中でもこの大通りはアイル王国の中心にあって商業の中心になっているんだ」
と、ドラが自慢げにそう話した。 すると、ドラが目の前の真っ白で大きな建物を指差した。
「ほら、あれがアイル王国の城だぜ」
子供達はみんな城の方を向いた。
「うわ~ 真っ白だ」
「綺麗ね」
「今からあの城にいる ビクトリアス女王陛下にお会いする。 呉々も粗相のないようにするんだぞ?」
『はい』
一行は幾つかの門をくぐり王城の前の最後の門に着いた。
すると、門の横にいた一人の兵士が近寄ってきた。
「おい待て! そこの子供達、王城に何の用だ?」
「えっと僕達は女王陛下に用がありまして…」
「ビクトリアス様に?」
「おーい アルス 久しぶり」
「おぉ、クルモか久しぶり 討鬼任務以来だな」
と、クルモとアルスというらしい兵士は互いの握り拳を軽くぶつけ合った。
「この子供達はおまえの連れか?」
「あぁ」
「なんだ、するとこの子供達が先日やってきた異世界人か、噂は聞いております。 とんだ失礼をしてしまったようだ。 申し訳ない」
と、アルスは深々と頭を下げた。
「い、いえ そんな、」
「ビクトリアス様とご面会をする準備はもうできております。 さ、王城内へ」
「ありがとうございます。 えっと…」
「アルスとお呼びください」
「はい!」
すると、城壁の門が開き王城への道をアルスが“さぁ こちらです”と、案内をしてくれた。
子供達は王城へと向かったが後ろを振り向くとドラとクルモは手を振って此方を見ていた。
「え?! クルモとドラはこないの?」
「ん? あぁ、俺達はちょっと街に用があってな。 それに、王城には入れない。 それが決まりなんだ」
「でも…」
「大丈夫 お前たちが戻ってくる頃にはここにいるから」
「分かった」
「じゃあ、行くかクルモ」
「おう」
ドラとクルモは街の方へ行ってしまった。
英治はそれを見届けると再び王城へ歩き始めた。