第一話 真夜中の隠れん坊
“真夜中に隠れん坊をしてはならない”
という話がある。 なぜ真夜中に隠れん坊をしてはならないのかそれは、鬼が現れて隠れた子供を見つけ出し殺してしまうからだそうだ。
これは単なる噂話。
帰り道で他愛もない会話をする小学生、女子二人と男子三人のいつもの五人組。
「なぁ! 真夜中に隠れん坊をすると死ぬって噂。 知ってるか?」
そう話を切り出したのは、五人組の中ではムードメーカーの東 剛だ。 ワンパクな男の子だ。
「何それ? 俺知らない。 どんなの?」
笠木 英治。 男子。 五人組の中で一番頭が良くて冷静沈着な性格だからリーダーのような存在。
「えー、英治知らないのー? 遅れてるわー」
そう言うのは、女子の麻倉 日向。 女子なのにも関わらず、東ほどではないがそれに負けず劣らず好奇心旺盛な性格だ。
「琴音ちゃんは知ってる?」
「いや、私も知らないよ」
と、穏やかな口調で話すのは、鈴木 琴音。 とても穏やかでおとなしめな性格である。
「煉は? 知ってっか?」
「俺も知らない。 どんなのなのか教えてよ」
久良木 煉。 男子。 成績はそこそこ、器用で細かな作業が得意。 人の意見に流されやすい性格でもある。
「へへ、じゃあ教えてやるよ。 これは噂話なんだけどよ。 真夜中に子供だけで隠れん坊をするんだ。 隠れん坊って言っても鬼役はいない」
「鬼がいない? じゃあ一体だれが隠れんた子供達を探すんだ?」
「煉 まだ話の続きがあるんだから 待ってろ。 んで、隠れた子供達はみんなで言うんだ。 “もう いいよー”って、するとどこからともなく鬼が現れる。 その鬼はギィーギィーという音をたてながら隠れた子供達を探すんだ。 子供達が鬼に見つかったらどうなると思う?」
「さぁ?」
「殺されるんだ。 手で顔を握り潰されるんだ。 グシャっと一瞬でな」
「うー、怖。 鳥肌たってきた」
と、煉は腕をさすった。
「ははっ。 煉って案外 怖がりなんだな。 まぁ、この話には続きがあってよ。 次の日、隠れん坊をした子供達が変死体で見つかるんだ」
「みんな、鬼に見つかったってことか」
「英治の言うとおりだ」
「で、その真夜中の隠れん坊なんだけど」
「なんだ? 日向」
「隣町の小学生がやったらしいのよ」
「マジ? で、その小学生は?」
「その小学生はね」
「うん。 小学生は?」
全員 日向に耳を傾けた。 そして、しばらく間があいて日向がようやく口をひらくと。
「見事に全員無事。 だーれも死ななかったわ」
琴音以外は“あぁ、なんだよ”といった感じでため息をついた。
「なんだ、つまらねぇなぁ」
「ためた割には大したこと無いな」
「なによ、事実なんだから仕方ないでしょ」
「もう、みんな そんなこと言わないの。 不謹慎よ」
「あ、わりぃ 琴音」
「ごめんごめん」
「と・言・う・ワ・ケ・で、みんなに提案なんだけどよ」
「?」
「どういうワケなのかは知らないが、突然なんだよ」
「今夜、みんなで公園に集まって真夜中の隠れん坊しないか?」
「面白そうね。 当然、私は行くわ」
「じゃあ、俺も」
日向は当然のように参加して煉はそれに流されて参加した。
あとは、英治と琴音だけである。
「英治と琴音は?」
「今夜? うーん、面白そうだけど親がなぁ」
「大丈夫大丈夫。 こっそり家出りゃ分かんないって」
「そうかなぁ。 うーん、じゃあ参加するよ。 琴音は?」
「やっぱり、子供だけじゃ危ないよ」
「大丈夫だって隣町の奴らだって無事だったんだしさ。 な?」
「で、でも、 …分かったわ。 私も参加する」
「よし! じゃあ、今夜12時に星空公園に集合な?」
「はーい」
「OK」
「りょーかい」
「うん」
「じゃ、解散。 また今夜な!」
分かれ道で各自で各々の道に曲がって家へ帰っていった。
夜12時25分 星空公園。
剛 日向 煉 琴音の4人はもう集まっているというのに英治だけまだ来なかった。
「英治 遅いな」
と、剛は公園のベンチに座り、日向は両手を腰に当てた。
「そうね~」
「ねぇ」
「ん?」
「やっぱり、子供だけは危ないよ。 だって…」
と、琴音が提案したちょうどそのとき、その提案を遮るように声がした。
「おーい。 みんなー 遅れてごめーん」
街頭の少ない通りを英治が走ってやってきた。
「もう、英治 遅い」
「ごめんごめん なかなか親が寝てくれなくてさ」
「もう、親がなかなか寝てくれないって言ってもこっそり出ることぐらいできたでしょう?」
「まぁまぁ、これで全員揃ったんだし、いいじゃないか」
日向の英治に対する文句に煉が止めに入った。
日向は気持ちが落ち着いたようで剛に目を向けた。
「よし、じゃあ早速 “真夜中の隠れん坊” 初めようぜ」
「うん。 で、まずどうするんだっけ?」
「鬼役無しでみんな隠れるんだ」
子供達は各自好きなところに隠れた。 煉は木の上に、剛は遊具の影に、日向と琴音はトイレの建物の裏側の壁と生垣の間に、笠木は生垣の多い被さるほどの草木のなかにそれぞれ身を隠した。そして
『もう いいよー』
何分経っただろう。 いや、実際そんなに経っていなかったかもしれない。
みんなはその鬼をしばらく待ち続けたが一向に現れる気配などはなかった。
「なんだ、ただの嘘話だったのかよ」
と、誰もがそう思って諦めかけたその時。
“ギィードシャン ギィードシャン”という音が遠くの方から木霊してきた。 鬼の足音だ。
鬼の足音はゆっくりとこの公園を目指して近づいてきている。
一体、何処にいるんだ!?
すると、それは突然起こった。 誰かが公園の中央に向かって吹き飛んだ。
「煉!」
と、剛の声がした。 どうやら投げられたらしい、それで投げられたのは煉でそのことに気づいた剛が声をかけた。
剛は煉の方へ急いで走って安否を確認した。 だが、煉は喋ること…いや、息することすら出来なかった。
「れ、煉の、頭が…!」
突然、剛の後頭部に激痛が走った。
鬼がギィギィという軋みをあげながら右手で剛の頭を掴み持ち上げた。
「おい! 止めろ! 離せよ!」
剛は必死で抵抗するが鬼はそれに対して全くの無反応。
剛は更に声を荒げる。
「止めろ! うぅ痛い痛い痛い!」
“グシャ”という音を最期に剛の声は聞こえなくなった。 剛の身体は地面に落ちた。
鬼は再び歩き出した。 鬼の向かった先はトイレの裏。 琴音と日向の隠れている場所だ。
英治は咄嗟に走り出した。
「止めろー!」
英治は鬼の腕に飛びついた。 鬼は振り落とそうとするが英治はそれでも喰らいつく。
「英治!?」
日向が英治を見て驚いた。
「日向! 琴音! 早く逃げろ!!」
「うん! 分かった! 行くよ琴音ちゃん!!」
日向は琴音の腕を掴んで猛ダッシュで逃げた。
後ろからは英治の悲鳴が聞こえてきたあと、ギィギィという音をたてながら近づいてくる鬼の気配を感じた。
二人は一心不乱に走りつづけた。 公園を出てあてもなくただひたすらに走った。
「はぁ…はぁ…!」
二人とも息は荒くなっていた。 曲がり角を曲がった。 すると、突如 目の前に現れたんだ。 鬼が…
次の日
星空公園とその周辺は黄色に黒い文字でキープアウトと書かれたテープで囲われ立ち入り禁止になっていた。
何人もの警察官やパトカーが出入りしていて、ギャラリーや報道陣が尋常じゃない数が来ていた。
その日のニュースではこんな事が報道されたそうだ。
「只今 入った情報によりますと、星空公園とその周辺に小学生と思われる男女5人の遺体が見つかりました。 目撃者の方に伺ったところ 公園中央に二人、トイレの脇に一人、公園を出て左に少し進んだ先に二人の遺体があったそうです。 いずれの遺体も頭が無かったそうです」