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九十二話 お呼ばれ

少し短めです。

「悪い事があれば良い事もある……。それが人生ってわけですな!」


 稲垣襲撃事件からちょうど一週間が経った。

 大自然でリフレッシュをして、ザリガニを新たな仲間に加えた俺達『迷宮サークル』は、現在、俺の家のリビングに集まっている。


 その理由がさっきの発言に関係するのだが――その前に。


 まずは俺の頭の上に乗っかっているザリガニ、『ばるたん』についてきちんと触れておこう。


 伊豆から帰ってきた後、まだ時間もあったのでその日のうちにパーティー会議を開催。

 そこで最初に命名の儀が行われて、晴れて『ばるたん』に決まったのだ。


 名前の由来となったのは……まあアレですよアレ。

 フォッフォッフォッと不気味に鳴く、鋏が特徴的な星人さんですよ。


 ばるたん本人もこの名前を気に入ったらしい。

 あーだこーだ意見を出し合って決まった時は、鋏をカチカチやって喜んでいたぞ。


 ――あ、ちなみにカタカナではなく平仮名なのは、花蓮が『そっちの方が可愛いから』と言うのでそうなっていた。


 で、そのばるたん。やはり迷宮には入らない事となった。


 どうも探索者の意地悪で迷宮に捨てられた経験から、迷宮に苦手意識を持っているらしい。

 だから厳密に言うと、『迷宮サークル』の一員というより俺の仲間――いや扶養家族みたいなものだ。


 ……あとものスゴイキレイ好きだしな。


 この数日間、俺の家で過ごした結果。

 毎日欠かさず風呂に入るし、そのせいか日々殻の艶が良くなる一方だし、部屋の埃は率先して鋏で挟んでゴミ箱にポイするし、


『もうあんなジメジメした不衛生な場所に戻れるかってんだ!』と愚痴っていた。


 現状の戦力は十分だし、無理強いしても鼻ザリガニされるだけだしな。

 というわけで、ばるたんには家にいてもらうとして。


 冒頭の発言に戻ると、俺の身には『良い事』が起きていた。


「お呼ばれだお呼ばれ! まさか緑子さん達から必要とされるとはアッ!」

「ホーホゥ。分かったってバタロー。だからそんなに揺れるなって乗りづらいぞ!」

「右に同じ。んな動いたら俺がずり落ちるだろコラっ!」


 と、俺の右肩&頭の上にいる紅白コンビが文句を言う。


 だが……許せズク坊にばるたんよ!

 何せ年齢=彼女いない歴の非モテ男に、ついに春が来たのだから!


「あの『北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)』からご指名とは……さすが先輩です。あの方達は強いですが、それでも先輩のパワーが必要な状況になったようですね」


 ――うむ、説明ご苦労すぐるよ。

 一応、補足しておくと、緑子さんから電話がかかってきて、


 稲垣襲撃事件の心配(愛情とも言う)をされた後、『どうしても火力が足りないから』と、一時的に力を貸して欲しいと言われたのだ。


 え? そりゃもちろん即答でオーケーしましたとも!


 困った美女達に必要とされるパワフルな男。

 超モースピードで馳せ参じて、華麗にお手伝いをして褒められる算段である。


 嬉しすぎて肝心の内容はうろ覚えだが……たしか『石像』がどうとかって言っていたっけ。


 オイそれただの救援じゃん! 正確には春なんて来てねえじゃん! ……という声はきっと空耳だろう。


「では一旦、上野の攻略はお休みですね。僕も『別で声がかかって』いますし、このチャンスを成長に繋げたいところです」

「だねー。私は私で誘われたところがあるし、勉強のつもりで行ってみようと思うよ」


 すぐるは肩に力が入った感じで、一方の花蓮はリラックスした感じで言う。


 ――そう、実はお呼ばれしているのは俺だけではないのだ。

 ほとんど時を同じくして、すぐると花蓮の二人も、それぞれ別のパーティーからギルド経由で連絡がきていたのだ。


 すぐるは魔術師だけあって、あの若林さん率いる『黄昏たそがれの魔術団』から。

 その火ダルマな特殊性に興味を持たれたようで、

『同じ魔術師として色々教えられるから一度どうだい?』と誘われていた。


 一方の花蓮は従魔師なので、地味だが岐阜でも参加していた『従魔列車軍(モンスタートレイン)』から。

 従魔師は魔術師以上に特殊で数が少ないから、今回の話は花蓮にとって間違いなく良い経験になるはずだ。


 これらの話が二人に来たのも、やはり『月刊迷Q通信』で特集されたおかげだろう。

 あれは稲垣襲撃事件の引き金になってしまったが……どうやらプラスの効果もあったらしい。


 あ、そうそう。

 襲撃事件と言えば、俺の名が『多くの一般人にも知れ渡る』という予想外な結果も生まれたぞ。


 凶悪な犯罪者を追い詰めた勇敢な若手探索者。

 そう称えられて、色んなテレビ局の見た事があるリポーターさんから話を聞かれていた。


 ……ちょっとした芸能人気分である。

 まあ、話の後半は右肩のズク坊の方に注目が集まっていたけどな(泣)。


「ホーホゥ。俺もバタローについていくから、一時的にパーティーはバラバラになるけど……。個々のレベルアップには良い事だと思うぞ」

「おうおう、色々と学び経験してこい。留守はこのばるたんがしっかり預かるからな!」


 ズク坊とばるたん、紅白の相棒二人が俺達の背中を押す。


 皆にとっては良い話だし――決定だな。

 普通にモンスターを倒して強くなるのもいいが、先輩探索者から学べる機会はそう多くないから逃すのはもったいない。


「んじゃ、そういう方向でいこう。俺とズク坊はそんなに時間はかからないっぽいけど……。二人は気にせずじっくりやってくればいいぞ」

「ありがとうございます先輩。一流の魔術師達からたくさん吸収して強くなってきますので!」

「私も負けないよっ! スラポンとフェリポンと一緒に、従魔師として成長するからね!」

「よし、すぐるも花蓮もその意気だぞ。次に会う時は『スーパー迷宮サークル』だホーホゥ!」

「うむ、おめえら気張って行ってこいやっ!」


 言葉を交わして、俺達は誰からともなく手と翼と鋏をテーブル中央で合わせる。


 そんなこんなで気合い十分! パーティー開けした特大ポテチを貪りながら、さらに話を詰めていき、早速、明日から各自動く事となった。


 俺とズク坊は『北欧の戦乙女(ヴァルキュリア)』のいる石川へ。

 すぐるは『黄昏の魔術団』のいる岩手へ。

 花蓮は『従魔列車軍(モンスタートレイン)』のいる愛媛へ。


 俺達チームに関しては、緑子さんに再度連絡すると、すぐると花蓮の鍛練(勉強?)が終わるまでお世話になる運びとなった。


 ――そうして、ほとんど全てが決まったパーティー会議の最後に。


 俺は大切な事を思い出したので、忘れないうちに全員に伝えておく。


「あ、そうだ! せっかく北陸と東北と四国に散らばるんだ――皆おみやげは忘れずに!」

作者の名前のセンスは……あ、温かい目でお願いします。

次は閑話(ザリガニ編)を挟む予定です。

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