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八十九話 リフレッシュしよう

少し短めです。

10/2 誤字修正しました。

「がんばった。俺は超がんばった。だから――やっぱりリフレッシュは必要ですな」


 世間を賑わし続けた殺人鬼との遭遇という、もう二度とゴメンな経験をした俺達。

 そのすぐ後の週末、俺は『迷宮サークル』メンバーを引き連れて、リフレッシュすべく東京を離れていた。


「ホーホゥ! 遅いぞ! もっとぶっ飛ばすんだすぐ――」

「はいはい。ズク坊は大人しくしてなさいな」


 今はすぐるの運転する車の中だ。

 高速をひた走り、静岡方面へと向かっている。


 ――そう、俺達が目指すのは、これまでも何度か行っている伊豆だ。

 ただ今回に関しては、いつも泊まるペット可の温泉旅館ではなくて――、


「キャンプかあ。子供の頃以来かも。というか私は伊豆自体が初めてだよ!」


 と、後部座席に座る花蓮がテンション高く言う。


 実は今回のリフレッシュ旅、パーティー会議を開いた結果、キャンプをしようという事になったのだ。


 稲垣との最低最悪のバッドイベントから気分を変えるべく、

 リフレッシュするなら大自然だホーホゥ! 大自然を満喫するならキャンプだねっ! ……という声でキャンプに決定していた。


 内容は日帰りのデイキャンプではなく、がっつり泊まる本格的な方だ。


 正直、冬の時期にやるのか? という躊躇ちゅうちょは……誰の頭の片隅にもない。

 夏より星空がキレイで虫も出ないしいいじゃん! と、俺も含めて皆もノリノリで準備していたぞ。


「キャンプは楽しみですが……やっぱり先輩、さすがに車は買い替えた方がいいですかね?」

「うーん、そうだなあ。軽自動車で長旅はちょっと窮屈で大変ではあるか」


 ハンドルを握るすぐるの問いに、助手席の俺はズク坊の額を撫でながら答える。


 荷物に関しては、マジックバッグがあるからかさ張る事はない。

 即行で買ったキャンプ用具一式をごちゃごちゃに入れても、リュック二個分にしかにならないからな。


 とはいえ、中々ゆったりとはできないぞ。

 スピード狂(車限定)のズク坊も膝の上に乗せておかないといけないし、

 習い事とかで参加はしていないが、花蓮の弟や妹達も来たがっていたからな。


 キャンピングカーとか高級外車とかは生意気すぎるとしても。

 せめて普通車くらいでゆったりな旅路にはしたいところだ。


 俺も花蓮も原付免許すら持っていないから……まあお金に関しては俺も出すとしても、運転はすぐる一人に頼る感じになってしまっている。


 ――とまあ、移動車の件は後でまた考えるとして。

 俺達はいつも通り、これからキャンプをするというのに、途中のサービスエリアで名物を買い食いしながら進む。


 他にも車内に指揮者ズク坊のオーケストラを流すなど、ワイワイやってテンション上げつつ、俺達一行は目的地を目指す――。


 ◆


「キャンプだキャンプ! 大自然に原点回帰だホーホゥーーー!」


 伊豆にあるキャンプ場に着いた。

 そうして車のドアを開けた途端、ズク坊は冬の寒空へと一気に舞い上がると、上空からハイテンションで叫んでいる。


 ズク坊、自然に還る。何つって。


「さて、そんなズク坊は置いてといて。早速、テントの方に取りかかりますか!」

「はい先輩!」

「ふっふー! 日々鍛えた探索者の力を見せてやるっ!」


 俺の声に、すぐると花蓮は元気良く返してくる。


 よしよし、皆テンションは高いようだな。

 それじゃあまず最初の作業、テント設営に入るとしますか。


 俺はマジックバッグから組み立て式のテントを取り出す。

 きちんと道具を確認してから、いざキャンプで一番の大仕事に取りかかる。


 手順書を見ながら、キャンプ初心者三人で意気揚々と立て始めるが――これが結構難しい。

 四苦八苦しながらやるもどうも上手くいかず、中々ちゃんと立ってくれない。


 ……うむむ、こりゃちょっと背伸びしすぎたか?

 七人が入れる大きなテントを買ったのだが、もっと小さくてワンタッチ式のやつにすれば良かったかもしれん……。


 などと少しだけ後悔しつつも、飛んでいるズク坊にも手伝ってもらい、最終的には何とかかんとか立てられた。

 不慣れな作業は思った以上の労力だったから、水筒に入れたホットミルクティーを飲んで軽く休憩する。


 ――あ、ちなみに立てた場所は適当だぞ。

 誰もインスタはやっていないからな。写真映えとかまったく気にしておりません。


「では諸君。次はお楽しみのご飯の用意だ。花蓮は野菜を切る係、俺とすぐるは火の用意だ!」

「了解です先輩!」

「あいあいさー!」

「俺はここら一帯の制空権を握ってくるぞホーホゥ!」


 というわけで、各自次の作業に移る。


 俺とすぐるはササッと網やら炭やらを用意して、いざ火をつけようとしたところで……、


「あ、やべっ!? 着火剤を買ってくるの忘れてた!」

「でも先輩、大丈夫じゃないですか? チャッカマンで一発なのでは?」

「ん? ……まあそうか。原始的な火起こしでもあるまいし、文明の利器があるなら苦戦するわけが――」


 なんて言っていた時期が懐かしいですハイ。

 五分くらいチャッカマンと格闘したのに、風もそんなに吹いてないのに、まるで炭に火が移っちゃいませんよ(汗)。


 ……こんなに上手くいかないものだったっけ?

 最初のテント設営といい、ちょっとキャンプをナメていたかもしれない。


「お、おのれぇ……。早く楽しい楽しいキャンプをしたいってのに……! よし、すぐるよ! もうやっておしまいなさい!」

「え、でも先輩? そういう目的でも、迷宮の外で使うのはまずいのでは……」

「構わん。大自然以外は誰も見ておりませんッ!」


 何かもうらちが明かないので、俺はすぐるの火力を頼る事に。

 キャンプ場には他のグループもちらほらいるが、離れているからバレないだろう。


 そのすぐる本人も、もう腹が減って我慢ならないのか……十秒と迷わず右手だけに【魔術武装】をかけ始めた。


 結果、圧倒的火力で炭に火をつけたのと引き換えに、俺達二人は罪を犯しちまいましたよ。

 でもまあ……食欲には勝てないし若気の至りって事で……ねえ?


「ほーい。切り終わったのを持ってきたよー」


 と、何だかんだ無事に火の準備ができたら、花蓮が切った野菜をどんどん網の上に乗せていく。


 メニューはBBQが中心だ。

 ご近所探索者の猿吉さんからもらった野菜と、すぐるが前日から漬け込んでいた牛肉。

 これらを豪快かつ無秩序に焼いて、他に作ったのはシャレたマッシュルームのアヒージョくらい。


 もちろんそれだけでは物足りないので、ちょこちょこツマめる惣菜も買っている。惣菜は美味いしな!


 だいぶバタバタしたが、ようやく軌道に乗った感のある、初心者だらけのドキドキワクワクなキャンプ。

 そうして寒空の下、腹の虫と共に戻ってきたズク坊も一緒に火で温まりつつ。


 BBQ独特の焼ける音とにおいを堪能しながら、俺とズク坊はイチゴ牛乳、すぐるはビール、花蓮はチューハイをそれぞれ装備(?)する。


 ――よし、準備万端だな!

 コップを片手に、リーダーの俺が代表して音頭を取る。


「何か色々と大変な目にはあったけど――とにかく楽しもう! 乾杯ィッ!」

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