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九話 激レア【スキル】

「あ! ちょ! おい見てみろズク坊!」


 激しい戦いの中、凄惨なトドメを刺して勝利した俺。

 そんなボス初撃破の喜びも束の間、俺の目に信じられない光景が飛び込んできた。


「ホーホゥ? 急にどうしたバタロ――って【スキルボックス】!?」


 俺と同じくそれを、ケルベロスの死体(胴から上の方)から出現した【スキルボックス】を見てズク坊が驚く。


【モーモーパワー】を発見して以来、久しぶりに見る青く輝く光の六面体。

 相変わらずの美しさと、神々しさに似た何かを感じてしまう。


 ……何ちゅう幸運だよ。

 たしかに通常モンスターと比べれば、ボスの方が【スキルボックス】やマジックバッグなどのアイテム系を落としやすい。


 しかし、確率的には一%くらい。

 それが今、驚くべき事に初ボスで出現していたのだ。


「なあズク坊……。やっぱり俺達、迷宮内では運が良いのかもな?」

「ホーホゥ。全くの同感だぞ」


 俺もズク坊も喜び半分、運が良すぎる恐怖半分で【スキルボックス】に近づく。


 そして、当然のごとく中身を見るのだが――それによって喜びよりも恐怖が上回ってしまう。



【スキル:絶対嗅覚】

『迷宮内のモンスターにのみ有効。習得者がいる階層のモンスターに対して、『位置』・『数』・『種族』を正確に嗅ぎ分ける。常時発動型で【スキル】を発動する必要はない』



「……何この超有用な【スキル】」

「……ホーホゥ。俺の経験から思うに、【人語スキル】よりさらにレア、【モーモーパワー】くらいに珍しいと思うぞ」


 おそらく、いや絶対、初心者向けの『横浜の迷宮』の、それも三層ボスで出るようなやつじゃないだろう。

 それこそ高難度とされる迷宮の、深い階層で熟練探索者だけが発見するような【スキル】だ。


「ど、どうするズク坊? 【スキルボックス】は持ち帰って換金なんてできないし……」

「ホーホゥ。まあそりゃ、取るって選択肢になるだろうけど……」


 さて、マジで突然の超絶ご褒美についてどうするか。


 前にも言ったが、【スキル】は生物なら誰でも二つまで習得できる。

 なので、すでに【人語スキル】と【気配遮断】を持つズク坊は除外。


 この場で習得できるのは、必然的に【モーモーパワー】一つの俺という事になる。


「でもなあ……。たしかに有用そうだけど、俺としては他の【戦闘系スキル】を取って戦力増強したくもあるし……」


 例えば【移動術】とか【超反応】とか。

 パワーとタフさには微塵の心配もないが、ボス戦を見ての通り、動きの速さや反応速度に不安が残る。


 と、そんな感じで悩む俺に対して。

 ズク坊は右肩から飛び立つと、【スキルボックス】の上を飛び回りながら言う。


「ホーホゥ。んじゃ俺が取るか。【気配遮断】と合わせたら、さぞ優秀な索敵能力でホウレンソウ(報告連絡相談)できるぞ」

「へ? いや何言ってんだズク坊。お前はもう【スキル】を二つ覚え――」

「このバカタレ! それでも探索者か! 【人語スキル】はその特殊な性質上、カウントされないんだぞホーホゥ!」

「あれ? そうだったっけか……?」


 ズク坊は呆れた声でプンプン怒り、ファバサッ! と痛心地いい翼のビンタを見舞ってきた。


 ……うむむ、それなら頼んでみるか。


 俺が戦闘担当でズク坊が道案内&索敵担当。

 一人と一匹のパーティーだし、どっちも中途半端にするよりは一つに特化した方がいいかもな。


「すまんすまん。んじゃそういう事なら、ズク坊に取ってもらおう」

「ふっふっふ、バタローからの頼みなら仕方ない。俺がこいつを取ってやるぞホーホゥ!」


 どうやら取りたかったらしいズク坊が、無駄に速い飛行で頭から【スキルボックス】に突っ込む。


 すると俺が【モーモーパワー】を取った時と同様、バシュン! と青い光の粒子となって、ズク坊の小さな白い体に吸い込まれていった。


 これにて一件落着だ。

 ボスから出たレアな【絶対嗅覚】を無駄にする事なく、ズク坊の能力はまた一つ強化された。


 ◆


 ボスを撃破し、【スキル】まで手に入れた俺達は迷宮を出た。


 一応、申し訳程度に四層に下りて、階層のモンスターの姿を確認。

 そこから戦闘はせずに、すぐに回れ右で地上へ戻ってきていた。


「それじゃ行くか。前みたいに『しー』だからな」

「ホーホゥ。任せとけって」


 俺はズク坊を右肩に乗せ、パンパンのリュックを背負って近くの探索者ギルドへ。


 ここは国が運営していて、素材の買い取りから装備の掃除と整備、預かりまで行える探索者にとって必要不可欠な場所だ。

 基本的に一定以上の規模の迷宮近くには、この探索者ギルド(正式名称は忘れた)が存在している。


 そんなギルド内は、仕切られた複数のカウンターに待ち合い席、中央付近にはインフォメーションがあって市役所みたいだ。


「あら、お疲れ様。今日もたくさん取ってきたのね友葉くん」


 時刻は午後五時を回ったところ。

 ちょうど探索帰りの人で混んでいた中、運よく空いていたカウンターに行くと、キレイな受付のお姉さんが対応してくれる。


 二十代半ばくらいの、女子アナやCAにもなれそうな品のある正統派美人だ。

 ちなみに前回、前々回と同じ人である。


……いや、たまたまで別に狙っているわけではないぞ?


「あ、どうもです。今日も買い取りをお願いします」

「はい、分かりました。今日はもしかして三層のスチールベアかしら?」

「その通りです。……というか、俺の名前を覚えてたんですか?」

「当り前よ。肩に可愛いミミズクを乗せている探索者は珍しいしね」


 あ、そうかズク坊がいたからか……。


 前々回はパンクリザードの魔石だけだからズク坊もリュックの中だった。

 だが前回、ウォリアータートルの分もあって、普通に右肩に乗せていたからな。


 もしもの時を考えてギルドの屋根にいろと言ったら、

「黙ってるから連れてけホーホゥ!」とゴネるもんで一緒に中に入ったのだ。


 だから、別に小僧自体に特徴はない、と。……ぐすん。


 と思って落ち込み、リュックを悲しく下ろしていたらお姉さんは悪戯っぽく笑う。


「ま、友葉くん自体も珍しいからね。長く受付嬢をしているけど、初探索から順調に一層ずつ、しかもソロで多く狩ってくる人は少ないわ」

「え、そうなんですか?」

「もちろんよ。いくらここの迷宮が初心者向けといってもね。半日も潜るならまだしも、友葉くんは潜ってもせいぜい二、三時間でしょ?」

「た、たしかにそうです」


 何で俺の探索時間を知っているんだ? と疑問に思うも思い出した。


 国が定めた厳格なルールの一つ。

 全ての迷宮の出入り口には監視カメラがあり、誰がいつ、どこの迷宮にどれくらい入ったかが分かるのだ。


 探索者の身元を調べ、最低限の身の安全を守るためのルール。

 完全自己責任の職業でも、あまりに長い時間戻ってこない場合、ギルドから『専門部隊』に連絡して捜索が行われるのだ。


「ああ、ギルドの職員も仕事でカメラの映像は見ますからね」

「そういう事。……じゃあ、今日の戦利品をいいかしら?」


 俺は納得し、改めて【モーモーパワー】は強スキルだなと感じつつ、カウンターの台に素材を出す。


 今回は一、二層の素材はなし。

 全て三層のスチールベアで、魔石三個と牙六本と爪三十本だ。


「たしかに受け取ったわ。スチールベアも問題なく倒せたみたいね」

「あとボスもですね。すでにリュックがパンパンで素材は取りませんでしたけど」

「え!? ソロなのにケルベロスを倒したの!? 強行突破じゃなくて!?」


 言った瞬間、目を見開いて驚きの表情を浮かべるお姉さん。


 ボスに関しては予想外だったらしく、俺が静かにうなずくと、その表情を崩さないまま奥に消えていく。


「……ううむ。探索三日目のソロ探索者がボス撃破って異常なのか?」


 俺の独り言に、右肩で大人しくしているズク坊がファバサッ、と、肯定の意味か頬を撫でてきた。


 そうだったのか。

まあ、全国を探せばスゴイのは他にもいるだろうし、自重せずにどんどん稼ぐけどな。


「――お待たせしました。これが今回の買い取り額よ」


 五分後。待ち合い席に座って待ち、呼ばれて行くと予想より多い金額とその内訳の紙がトレーの上にあった。


 魔石は一個『五百円』。牙は一本『三千円』。爪は一本『千百円』。

 合計『五万二千五百円』と、防具の新人セットなら買えそうなくらい稼げていた。


 よしよし、十分十分!


 一回の稼ぎで高価な防具やマジックバッグは無理だとしても。

 さらに深く潜って毎回これ以上稼げば、そう無理なく手に入るだろう。


「何かやる気が出てきたな。探索者としてもっと頑張るか!」

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