閑話四 あれが迷宮サークルだ!
閑話なのにちょっと長くなってます。
8/26 誤字の修正をしました。
「うおお、今日も平常運転で凄まじいな……」
俺の名前は高崎松也。
『上野の迷宮』をホームに活動している、『チーム・ウルトラス』のリーダーだ。
元はただのフットサル仲間から始まり、今や上の下レベルの迷宮で五本指に入るようなパーティーにまでなっている。
それぞれに力ある探索者の六名構成で、リーダーの俺に関しては一応、『鎌鼬の探索者』という異名もついているけど……、
やっぱり、いつ見ても『格』が違うなと思う。
俺はメンバー達と共に、探索者ギルドの二階にある、ちょっとしたカフェのソファから一階を見下ろす。
受付のカウンター台に山盛りに置かれた、あのキモ凶悪なエビルアイの魔石と網膜。
そして、それを成した凄腕の探索者の姿を。
「いや本当、スゴイな『迷宮サークル』は」
「力の抜けたパーティー名だけど……ちゃんと実力が伴っているとカッコイイよな」
「……めちゃヤバイ」
そんな光景を見て、メンバー皆が彼らを称賛する。
まあ、リーダーの俺も激しく同意だ。
嫉妬するのもバカらしく、その圧倒的な実力で、今や『上野の迷宮』の看板パーティーになっている。
たまに『全部スキルのおかげだろ!』とやっかむ輩もいるけど……探索者ってのは運も実力のうちだからな。
「へえー、あの人達『迷宮サークル』って言うんですか」
と、そうアホな発言をしたのは、ウチのパーティーに新しく入ったばかりのヤツだ。
今でも息抜きでしているフットサルチームの新入りで、聞けば探索者に転職してソロで二ヶ月ほどやっていたらしい。
なら危ないし一緒に探索しようぜ! と打ち上げの時になって、こうして一緒にいるのだけど……、
「バッカお前、前に教えたろ。自分達のホームの最先行パーティーくらい覚えとけっての」
「す、すみません。……それで、彼らってどんな感じなんですか?」
まったく、これだから最近の若手探索者(俺も二十四と若いけど)はいかんな。
今月の『月刊迷Q通信』にも特集で載っていたのに……って、そういやコイツは『モンスター大図鑑』しか読まないっけ。
「しゃあない、もう一回教えてやるよ。まずあの銀色のゴツイ全身鎧の人が、『迷宮サークル』リーダーの友葉太郎さんだ!」
相手は一つ年下ながら、俺は尊敬を込めてさん付けで説明する。
圧倒的火力。圧倒的重量。
とりあえず、この二つだけでも友葉さんを形容するには十分だと思う。
【モーモーパワー】という聞いた事もない【スキル】を使い、辛いデメリットを抱えながらも、文字通りズシンズシン! と迷宮内を突き進んでいる。
その様を見て、『進撃の闘牛』とか『超トン級戦士』とか『パワークラッシャー』とか……、
正式な異名は『ミミズクの探索者』だけど、呼び名の多さは探索者随一だと思う。
「もし迷宮内でとてつもない足音が聞こえたら、階層にもよるけどまず友葉さんだと思えばいいぞ」
「へえ~。そりゃ何だかスゴそうですね」
「おうよ。何せ体重は『二十トン近く』あるからな。同じ人間サイズでも……歩いてる友葉さんと肩が当たっただけでも大ケガもんだぞ」
「な、なるほど……。気をつけます」
驚いた顔のままうなずく新入りを見て、俺はさらにレッスンを続ける。
「次があのワインレッド色のローブを着たぽっちゃりな人だ。親しみやすい顔と体型だからってナメちゃダメだぞ。火傷注意な魔術師の木本すぐるさんだ!」
【スキル】を使った時の様相から、『火ダルマな探索者』として有名な人だ。
大丈夫だと分かっていても心配してしまうほど、全身を激しく燃え盛る炎で包み込むその姿は、おそらく最も見た目が派手な探索者だと思う。
リーダーの友葉さん然り、魔術師の木本さん然り。
彼らを見ていると改めて認識させられる。
【スキル】単体の強さや熟練度はもちろん、二枠ある【スキル】の相性もかなり重要なのだと。
……ちなみに、上野で活動する探索者の中での常識として。
アイスビートルがいる寒い四層では、行き帰りにここを通る木本さんで『一時的に温まる』という裏技が存在している。
「――という感じだ。あの『黄昏の魔術団』にだって入団できるレベルの魔術師なんだぞ?」
「へえー、人は見かけによらないですね……」
何気に失礼な発言をしながら感心している新入りに、俺は残る紅一点を紹介する。
「で、あの女の子――じゃなくて女性が飯田花蓮さんだ。こっちも見た目で判断しちゃダメだぞ。幼く見えても立派な従魔師だ!」
ラージスライムのスラポンとスコットフェアリーのフェリポン、あとついで(?)にぬいぐるみのくまポン様を従えている。
その【従魔秘術】ともう一つ、激レアな【煩悩の命】というトンデモスキルもあるけど……そっちは見た事がないからスル―するとして。
核となる従魔の中で、特に注目なのはやはりスコットフェアリーだろう。
優秀な回復役を担えるだけあって、かなり従魔にしにくい部類のモンスターと聞く。
知り合いの従魔師に聞いた話だと、どうも『清く正しい心』じゃないとシンクロできないらしい。
だからこそ、従魔師の方向性=本人の性格。
同種族でも、個体ごとの性格の違いがある一方、ある程度従えられるモンスターは決まっているとの事だった。
――あとはそうだ。少し話が脱線してしまうけど、
ぶっちゃけ、飯田さんはここをホームとする男探索者の中でも人気がある人で、美人な受付嬢達と同じくらいモテている。
……まあ、本人のあのド天然さが完全に影響して、口説かれているのに全く気づいていない状況だが。
「――だからお前も惚れない方がいいぞ。上手くいこうがいくまいが、結局はロリコンって言われるからな」
「き、気をつけますぅ……」
そう教えたら、新入りは消え入りそうな声で言ってきた。
眉を八の字にしてちょっと残念がっている表情を見るに……コイツ狙っていたな?
「さすがは『迷宮決壊』解決作戦に呼ばれるだけあるよなー。ギルド総長から未踏破区域の調査も頼まれたって聞くし」
「あの白根玄が弟子にするわけだよ」
「……めちゃ頭一つ抜けてる」
うん、俺もそう思う。
特に友葉さんは規格外だしな。
戦闘スタイル一つ取っても、謎の『牛の流儀』を貫いて武器さえ持っていないのだから。
正直、いつか日本に四人しかいない『単独亜竜撃破』を成し遂げても、俺はあまり驚かない自信があるぞ。
「……とまあ、色々とウチらのリーダーが教えてくれたわけだが……なあ松也?」
「ああ、たしかに友葉さん達はスゴイけど――それよりもッ!」
不敵な笑みを浮かべた仲間の問いに、俺も不敵な笑みを返す。
え、理由? そんなのを聞くとは愚問すぎるぞ!
ゴツイ『プラチナ合金アーマー』とは正反対。
あの右肩に止まっている、真っ白くて柔らかそうで毛並みも整ったモフモフな体――!
一説によると、高級シルクのような肌触りらしいですよ……!
「ズク坊さん、今日も今日とて愛くるしいな」
「いや本当、触り心地良さそうだよなー」
「犬猫もいいけど、ミミズクも断然アリだぞ」
「……めちゃ愛でたい」
俺の呟きに、メンバーが激しく同意してうんうんとうなずく。
索敵能力や気配を消せるという優秀さは――どうでもいい。
言葉を喋れてコミュニケーションが取れる可愛いミミズク、というのが何よりも重要なのだ!
命懸けでシビアな世界。『上野の迷宮』&その探索者ギルドにおいて、ズク坊さんは皆のアイドル。
触って癒されたいのは山々だけど……、
他人が連れているペットみたいに、いきなり本人の許可なく触ったらズク坊さんは怒るからな。
それでファバサァ! と引っ叩かれて、後輩扱い(というか下僕?)になったヤツらを何人も見ているぞ。
だからまあ、そのうちにな。
探索者としてもっと名が売れれば、俺達にも『モフモフチャンス』がきっと巡ってくるだろう!
「というわけで――明日からもまた探索を頑張りますか!」
次話は明後日には投稿できるかと思います。