八十一話 月刊迷Q通信
ちょっと用事があって初めての予約投稿中。
大丈夫とは思うのですが……きちんと上がるか少しだけ不安です。
「「「おおおー」」」
俺とすぐると花蓮の声がシンクロする。
続けてズク坊の「ホーホゥ~」という声が、探索者ギルドの一角に響いた。
――俺達『迷宮サークル』がいるのは、探索者ギルドのロビーにある待ち合いイスの端っこの方。
いつものように迷宮に入って、ギルドで素材を買い取ってもらい、さあ帰るかと思ったところで――ふと『それ』が目に入ったのだ。
すぐると花蓮に左右を挟まれ、右肩にズク坊スタイルな俺の手にある一冊の雑誌。
『月刊迷Q通信』。
探索者ギルドが発行している雑誌の一つで、あの『モンスター大図鑑』と並んで有名な、ほとんどの探索者が読んでいるバイブル的なものだ。
とはいえ、俺は普段は読んでいないのだが……、
表紙の見目麗しき女神達、緑子さんや葵さんの『北欧の戦乙女』が載っていたので、目を引かれてつい手に取っていた。
……んで、久しぶりに中を見てみたところ。
「まさか俺達の『特集』がされているとは……!」
「何だか嬉しいような恥ずかしいような感じですね」
「ふっふっふ、これで『迷宮サークル』も全国的な知名度になるね!」
「ホーホゥ。ちょっとした芸能人気分だな」
本当に偶然、何気なく開いたページに俺達の情報が載っているのを発見。
今月の『期待の若手特集』として、三組中の一組として(しかも一番目に)紹介されていたのだ!
ちなみに、顔写真は探索者登録をした時のものではない。
いつの間にか取られていた迷宮内でのもので、結構男前に写っている……と願いたい。
「ホーホゥ。こうやって取り上げてもらうと頑張ったかいがあるな」
「だな。……どれどれ、どんな感じの紹介になってるのかねえ……」
まるで下駄箱にラブレターでも入っていたかのように、俺は食い入るように見る。
パーティー全体の総評は、褒められていても『将来有望』とか『少数精鋭』とかありきたり感じだったので――個人の部分を見てみよう。
まずリーダーの俺が、
『通称『ミミズクの探索者』。【スキル:モーモーパワー】により闘牛の力を得て、鎧だけ纏っての徒手格闘でモンスターを狩る。体重は優に十トンを超え、迷宮内を揺らして歩くのは大型モンスターと彼のみ。もう一つの【スキル:過剰燃焼】を併用して、馬力ならぬ牛力を上げれば、現時点でも『格闘最強の一人』と言えるだろう』
との評価だった。
続いてすぐるが、
『通称『火ダルマの探索者』。スタンダードな火系の魔術師ではあるが、【スキル:魔術武装】により他の魔術師とは少しタイプが違う。その業火を身に纏う特殊性から、探索では光源の役割も果たす。役割と体型的に後ろでドッシリ構えると思われがちでも、前衛も務められるだろう稀有な魔術師だ』
さらに花蓮が、
『通称『子供探索者』。【スキル:煩悩の命】は、リーダー友葉の【モーモーパワー】に次いでレア度が高い。個人の戦闘力は低くても、回数制限アリとはいえ、『無敵状態』となって不運な事故死を防げるのは大きい。厚い前衛の後ろで構えるしぶとい従魔師は、モンスターからすれば最も厄介な相手だろう』
そして最後にズク坊が、
『索敵担当で日本語を操るミミズク。【人語スキル】・【気配遮断】・【絶対嗅覚】と、他のメンバーにも共通するが、レア度の高い【スキル】を揃えている。『迷宮サークル』の象徴みたいな存在で、その愛くるしさから、ホームである『上野の迷宮』の探索者ギルドではアイドル的な人気を誇る』
――という感じだ。
花蓮に知らぬ間に『子供探索者』という異名がついていたりとか、ズク坊がアイドル的な人気があるらしいとか。
サラッと驚きの情報があったものの、やはりこうやって記事にしてもらえるのは嬉しいな。
あと、つけ加える事が一つだけ。
リーダーだからだろうか? 俺についてはなぜか、師匠&超一流探索者として、白根さんの言葉が載っていた。
『太郎か? ありゃスゲェぞ。狩られる側からしたら大変だろうよ。重戦士だけあって『重い・硬い・強い』の三拍子が揃ってるからなァ。ワッハッハ!』
よくあるインタビュー風景の写真と共に、豪快に笑った白根さんの俺評が。
いやまあ、素直に嬉しいが……白根さん絶対、『美味い・早い・安い』の牛丼を意識して言っているだろコレ。
こういう時は案外ふざける人だしな。
伊達に二ヶ月以上も一緒に過ごしていませんよ。
「全部で四ページ分も割いてもらっていますし……期待の表れ、身が引き締まる思いですね。先輩、これは今まで以上に僕達は注目されそうですよ」
と、すぐるが鼻息荒く俺に言ってくる。
同じく花蓮が鼻息荒く、「『子供探索者』とは無礼な~!」と中三女子な見た目で怒っていた。
「ホーホゥ。でもすぐるよ、注目を集めるのは良い事ばかりじゃないぞ。嫉妬して足を引っ張るのが人間だからなー」
続いてズク坊が、ミミズクに似合わぬ達観した意見を言う。
たしかに、これを機に何か変わるかもしれない。
……ただ、俺が望むものはたった一つだけ。
知名度が上がれば声をかけられる機会も増える。
そして、その鍵となる『月刊迷Q通信』は、一般人でも購読している者も多い。
つ、ま、り、である。
探索者や受付嬢を問わず、世の女子達にモテたらいいな――いやきっとモテるはずだ!
◆
「オイオイオイ! 何だこりゃ気に入らねえな……!」
東京西部にある、人里離れた廃工場にて。
足元にあったオイル缶を蹴り飛ばして、脱獄囚改め――稲垣文平は勢いよくツバを吐き捨てる。
様々な理由により、稲垣はイラついていた。
上等なフルプレートメイルを手に入れたものの、その事件(死者一名、負傷者三名)が影響して、以降はどの迷宮も人員を増員して出入り口の検問を厳しくしている。
元凄腕の探索者の力があれば余裕で突破できるだろう。
だとしても、通報がいけば落ち落ち探索もできやしないのが現状だった。
そこへきて――次はコレだ。
稲垣は手に持っていた、最新号の『月刊迷Q通信』を激しく地面に叩きつける。
『悪魔の探索者』とも呼ばれた男の逆鱗に触れたのは、その中に書いてあった内容だ。
『期待の若手特集』。
そこで紹介されていた、一組目のパーティーのリーダーの存在である。
「格闘最強の一人だ? ……冗談言ってんじゃねえ。このアホ面のどこか最強だってんだよボケが!」
怒りが収まらないのか、右の拳を地面に叩きつける稲垣。
ゴガァン! というあり得ない轟音が響き、拳ではなくコンクリートの方が砕けて飛び散った。
「――荒れていますね。やはり格闘スタイルの『元祖』としては譲れないですか」
四方八方に破片が飛び散った中、稲垣の後ろから声がかかる。
きっちり七三に分けた髪型に、しわ一つない紺色のスーツを着た、稲垣とは正反対なサラリーマン風の男だ。
どこにでもいそうな平凡な醤油顔で、いかにも人畜無害そうな一般人に見える。
……ただし、凶悪な犯罪者と一緒にいるのを見て分かる通り、彼もまた表の世界の人間ではない。
どっぷりと裏の世界に浸かり、息をするかのように法を破り続ける悪人。
探索者ギルドを通さずに迷宮産の素材を捌く、いわゆる闇ルートの業者である。
「当たり前だ。俺がいねえ間に勝手に出てきて台頭しやがって……! しかもたった一年のド新人野郎だぞ!?」
稲垣はその特徴的な三白眼で射殺すように一点を睨む。
本人が格闘最強を名乗っていなくても、そんな事は稲垣には関係なかった。
周りの評価。ただの記事とは言え、持ち上げるように騒ぐ行為自体が目障りで気に食わないらしい。
「しかし、そうイライラしなくてもいいでしょう? 私が来たのです、迷宮への出入りは『解決』したも同然なのですから」
言って、スーツの男は右手で自分の顔を覆う。
瞬間。右手と隠された顔がブレたと思ったら――『全くの別人』の顔が露わになる。
さっきまでの薄味のモブキャラみたいな真面目顔が、
立派な口ヒゲまで生えた、真逆の濃くて渋い顔に変わっていた。
【スキル:百面相】
『左右どちらかの手で顔を覆って人相を変える。自分以外の者にも使用可能で、扱える人相は百通りまで。ただし熟練度に応じて細部を変える『整形』が可能となる』
まさに医者いらず、使い方次第では極めて犯罪向きの能力である。
某有名怪盗のように声までは変えられず、完璧でこそないものの……、
顔だけでも自由自在に変えられるのは、十分すぎるほどの凄まじい効力だ。
本人の声を知らなければ、【鑑定スキル】持ちでないと絶対に見抜けないだろう。
「――フン、そりゃ当然手は貸してもらう。……だが――」
ニヤリと、人間にしては鋭すぎる犬歯を剥き出しにしながら。
冷淡な笑みを浮かべた稲垣は雑誌を拾い直すと、ゆっくりと虐げるように、自身にとって不愉快なページを引き裂いていく。
それを見たスーツの男は、変化させた顔のまま肩をすくめて、
「まさかケンカを売るつもりですか? 我々としては素材を取ってくれればいいのですがね……」
そう質問するも、稲垣の獰猛さは理解しているスーツの男。
だからこそ、稲垣の口から次に発される言葉を予想していた。
「オイオイオイ、当り前の事を聞くんじゃねえよ。俺にとって不愉快な野郎は――ガキだろうが消えてもらうぜ」
次回は閑話を挟みます。
感想欄に書いていただいた、他の探索者から見た主人公達の話となります。