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七十九話 初めての上位種

いつもよりちょっと長めです。

「やっと十層か。ついに俺達だけになったな」


『上野の迷宮』七層を突破した翌々日。

 昨日のうちに一気に八、九層も突破した俺達は、階段を下りて節目となる十層の地に立っていた。


 ここからはもう他のパーティーはおらず、探索するのは俺達『迷宮サークル』のみ。


 つまりは最先行パーティー。

 まだ結成一年未満の若手ながらも、周りを引っ張る立場となったのだ。


「ホーホゥ。何かちょっとだけ心細いな」

「ですねズク坊先輩。もうこの先、頼れるのは自分達の力だけですしね」

「でもきっと大丈夫だよ。私達はすごく強いし、くまポン様の加護もあるんだから!」


 ズク坊とすぐるの不安の声に、花蓮が元気よく励ます。


 ……たしかに、二人の気持ちは分かる。

 俺達と並んで有力な大所帯パーティー、『勇敢なる狩人(ブレイブハンター)』は九層で四苦八苦中だからな。


 今までは迷宮の内外問わず、会った時は最先行パーティー&先輩探索者として色々と教えてもらっていたが……。

 ここ十層からは本当に百%、自分達の力と考えだけで進まなければならない。


 現在の踏破区域である十五層。

 これは二年前に『DRT』の調査でと聞いているから、探索者が入るのはこれが初となるのだ。


 ――とはいえ、俺も含めて皆もそこまで不安がってはいないけどな。


 ズク坊を見れば、のん気にあくび(深夜アニメの影響)を連発しているし、

 すぐるなんか『火ダルマモード』の炎を縦長にして、無駄な『ぽっちゃり隠し』をして足掻いている。


 そもそも、だ。

 密林な迷宮は変わらず移動しづらい一方、戦闘面ではまだ余裕があるからな。


 だから上の八、九層の説明は……省いていいか?

 アームドコングの次に出てきた『岩弾を飛ばすゾウ』と『宙を泳ぐサメ』は、皆でサクッと倒して大量の素材に変えましたとも。


 あと最後に一つ。

 あまり期待していなかったのにコツコツ努力が実って、【モーモーパワー】が『二十四牛力』に上がっております。


 ――で、話を戻して今いる十層だ。

 この階層の出現モンスターは、何を隠そう初めての『上位種』である。


『オーガロード』。

 からの三層のボスで何度も屠ったオーガ、アイツの上位種が通常モンスターとしてご登場だ。


 名前からしていかにも強そうだが……ギリ『指名首(ウォンテッド)』には指定されていない。

 それでも非『指名首(ウォンテッド)』のモンスターでは、一、二を争う強さを誇る。


 また重要な素材の観点から見れば、一体およそ百五十~百六十万の稼ぎとなるのだ。


「とにかく、最先行だろうとオーガロードだろうとビビる必要はないか。まだ全然、過剰戦力気味だしな」

「たしかに、本気でヒヤッとした場面はまだないですね。先輩とスラポンの壁は越えられていませんし、何かあってもフェリポンが控えていますから」

「ふっふん、そうだよっ! 皆がトチっても万全の態勢だからね!」

『ポニョーン』

『キュルルゥ!』


 というわけで、俺達は自信を持って迷宮を進む。


 一人一人の実力と経験、パーティーの連携力も高いし、装備だけ一人前で過信している一部若手探索者とは違うのだ。


「おっ、発見したぞ。ホーホゥ。広場に二体が居座ってるみたいだな」


 と、ここでズク坊から索敵結果が伝えられる。


 本来であれば、初見の相手だとズク坊は必ず一体だけの場所に導いてくれるのだが……、


 この十層は珍しい『一本道』だからな。

 何体固まっていようと、決して避けて通る事ができなかった。


「いきなり二体ですか……。どうします先輩?」

「ん、俺が一体受け持つよ。残りのヤツは皆で集中砲火って感じで」


 すぐるの問いに即答して、俺はスラポンと並んで広場を目指す。


 下手に乱戦するよりもきっちり分けた方がいいからな。

 すぐるの魔術にスラポン&フェリポンの回復付きの盾、加えて【煩悩の命】で一定回数まで『無敵状態』の花蓮は十分すぎる戦力だ。


 そんな感じで作戦を決めて、見飽きた感のある密林をズンズン進んでいけば――。


 階段からひたすら真っすぐ進んで百メートルほど。

 押し潰すような威圧感を放つ、開けた空間が見えてきた。


 ◆


 グロォオオオオ――!


 同じく密林な広場に入った途端。

 待ってたましたとばかりに、二体のオーガロードの大気を震わす咆哮が重なって響いた。


「ったく、待ち構えるようにいやがって。さすが上位種、やる気満々だな!」


 俺は兜の下からオーガロード二体を睨む。


 鬼の形相に二本の黒い角、筋肉で隆起した赤黒い体に、身につけた小汚い腰布は――オーガと同じ。

 ただそこは上位種、当然ながら違いはあった。


 一回り大きく体長は四メートルを超え、大きな口から吐き出される息は、炎のように赤く煌めいている。

 おまけにオーガにはなかった『尾』があり、そこからは魔術師と同じ『魔力』を感じさせてきた。


 そんなヤツが二体、ドーム状の広場の中央に陣取っている様は……巨木の根や枝葉があっても、まるで『闘技場』みたいな印象を受ける。


「では先輩! 予定通りに!」

「おう。皆も大丈夫だとは思うけど、『命を大事に』だぞ!」

「モチのロンだよっ!」

『ポニョーン』

『キュルルルゥ!』


 すでに気配を完全に消したズク坊(非戦闘員)を除き、俺達は言葉を交わして行動に移る。


 俺は一人、根の上に立っている左のオーガロードに狙いを定めた。

 すぐに右にいる個体と引き離すべく、挑発して誘うように動く――なんて回りくどい事はしない。


『牛力調整』からの高速移動で、レスリングみたいな身長差を活かした低いタックルを見舞う。


 そして、オーガロードの片足をしっかり掴んだまま、広場の奥へとすっ飛んで行く。


 グロ、ォオオ……!


 対して、オーガロードは振りほどこうと必死に暴れるも、

 圧倒的な重さ(推定十九・二トン)の俺をビクともさせられず、いくら足を振っても振りほどけない。


 逆に俺は何度かの跳躍でいくつもの木々を通り過ぎ、仲間達と距離が取れたのを確認してから。

 ドッゴォオン! と、足ごとオーガロードをブン投げて広場の壁に叩きつけた。


 ――ほい、これで戦場を二つに分けられましたとさ。


 正直、いきなり『高速猛牛タックル』を見舞って吹き飛ばしても良かったが、何となく『コイツ耐えそうだなー』と思ったので、確実なこの手段を取ってみた。


 そんなふざけた事をされたら……やはりオーガロードも黙っていないようだ。


 ◆


 グロォオオオオオオ!


 鼓膜を叩くような咆哮をあげて、オーガロードは怒り心頭な様子で壁際から突っ込んでくる。


「チッ、やっぱり鬼だけあってタフだな――『ブルルゥウウ!』」


 牽制のために『闘牛の威嚇』を使うも、結果は残念ながら不発。

 オーガロードはほんの一瞬、ピクッとしただけで全然止まらなかった。


 ……さすがに非『指名首(ウォンテッド)』でもこのレベルだと効かないか。

 俺はすぐさま腰を落として半身に構え、周囲の枝葉をフッ飛ばしながら襲い来る巨大な赤黒鬼を迎え撃つ。


 ――そこから始まったのは、真っ向勝負でもちょっと『特殊』な殴り合い。


 俺は二メートルの距離を保って打撃を飛ばし、かたやオーガロードも拳に『魔力』を纏わせて殴りつけてくる。


 オーガロードの尾から魔力が供給されて、血流のように体を巡って拳へと到達。

 それがどういう原理か『具現化&硬質化』する事で、デカイ拳がさらにデカく、バンテージでも巻いたみたいに硬くなっていた。


 例えるなら、拳そのものが『鉄球』みたいになっている感じだ。


 まさにパワーvsパワー。

【スキル】で得た能力とモンスターの特性で少しだけ変則的でも、結局は腕力任せの男臭い殴り合いである。


「うおおおお――ッ!」

 グロォオオオ――!


 闘牛と大鬼の気合いと筋力が衝突を繰り返す。

 俺もオーガロードも意地でも回避行動は取らず、互いの攻撃を拳や腕で叩き落としながらバチバチにやり合っていく。


 ハードパンチャー同士、壮絶なる打ち合いは――二十秒近く経っても互角。

『プラチナ合金アーマー』がある分だけ有利なはずなのに、敵の凄まじい攻撃はしっかり上からダメージを入れてくる。


 だからか、強烈な無酸素運動も相まって、ついつい頭に血が上り気味になる俺。

 オーガロードの気迫に乗せられた事もあり、『牛力調整』での高速戦闘も忘れてガムシャラに連打を見舞う。


 どこかのジムにでも通って技を磨いていれば、もっと押し込めただろうが……。


 そこはもう仕方なし、拳を開かずにずっと握り固めたまま。

 とにかく武器である体重を目一杯乗せるように、一発一発をしっかり踏み込んで腰から打つ!


 すると、徐々にだがオーガロードを押し始める。

 少し頭が冷えて『闘牛気』の飛ぶ打撃に普通の打撃を織り交ぜれば、その流れは一気に加速していく。


 そうして、開戦直後からのラッシュで息切れを起こしたオーガロードにも助けられて。

 蹴りも加えた被弾覚悟で、さらに攻勢を強めていけば――。


 思いきり力んで振り上げた右アッパーが、オーガロードの頑強なアゴを破砕音と共に打ち抜いた。


 直後、オーガロードの巨体から力が抜けて膝から崩れ落ちる。

 射殺すようだった目は白目を剥き、尾に宿っている魔力はキレイさっぱり消え去っていた。


「……ふう。つい付き合っちゃったけど何とかねじ伏せられたか――お!」


 オーガロードが息絶えたのを見届けて、俺は振り返ってもう一つの戦場を見る。


 視界の中に飛び込んできたのは、密林の広場を照らすように絶賛炎上中の倒れたオーガロード。

 上位種も形無しといった感じで、その周囲ではズク坊達が勝利の舞(?)を踊っている。


 うむ、皆の方も大丈夫だったか。

 というかむしろ、あの緩んだ感じだと……容赦なしの集中攻撃で俺より早く終わらせたっぽいぞ。


 さすがは我ら『迷宮サークル』、上野一のパーティーだけあるな!


 ……ただ、余裕があるからこそリーダーとして一つ言っておきたい。


 焦げくさい臭いを放ち、無駄に燃え上がるオーガロードを見ての通り。

 どうやらヤツが……溢れ出る魔力からの『火力調整』を間違えたらしい。


「すぐる、このバカチン! モンスターまで火ダルマにしたら素材が痛むって何度も言ってるでしょうが!」

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