表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/233

七十七話 ジャングルな七層

「ぬおー。こりゃたっぷりと茂ってるなー」


 俺達は今、『上野の迷宮』七層に足を踏み入れている。


 六層の『目玉の狩り場』の一つ下。

 初めて潜りはしたものの、レベル的にはまったく問題ない階層……なのだが、


「ぐっ! 本気で飛びづらいぞホーホゥ!」

「枝もそうですが根もスゴイ事になっていますし……こっちも歩きづらいですね」

「これぞ迷宮の神秘っ! 一つ下りただけなのに全然違うね」


 と、俺に続いて後衛組から声が上がった。


 その中で、なぜか楽しんでいる花蓮は別として。

 ズク坊もすぐるも、今までは迷宮に文句などなかったのに、嫌な顔でブーブー言っているその理由――。


 一言で言うなら『ジャングル』。


 俺達のホームである『上野の迷宮』は、地面も壁も天井も、三百六十度全てが雑草に覆われている。

 それがここにきて、さらなる進化を見せたのだ。


 雑草だけの世界に多くの木々(しかも全て大樹)が現れて、太い根や枝が好き放題に伸び、鬱蒼とした葉は視界を遮っている。

 上層から変わらず幅も高さもあり、大型トラックが何台もすれ違えるほど広い通路でも……そのほとんどが木々に覆われていては圧迫感が凄まじい。


 六層までが『草原』で、七層以降が森、いや『密林』か。


 これがエビルアイの六層を狩り場としている最大の理由。

 もちろん、出現モンスターの種類というのも理由の一つではあるが……、


 やはり一番は環境そのもの。

 根がデコボコして歩きづらい足元は、移動面での効率が悪すぎるのだ。


「まあ、相変わらず水分が多いから、すぐるの火が燃え広がらないのは助かるけど……。だとしても辛いわな」


 戦闘面においては、俺とスラポンの前衛組はどっしりと構えていればいいだけ。


 逆に後衛組は、【煩悩の命】を得た花蓮は例外として回避が基本なので、動きにくいこのフィールドは好ましくなかった。


 ……とはいえ、進むしかないけどな。

 強制ではなくても、ギルド総長から未踏の十六層以下の探索を頼まれているし、今日から積極的に下りて行こうと思う。


「ホーホゥ。バタロー、突き当りを右に曲がって、すぐまた右に曲がれば一体いる――あ痛ッ!」


 指示を出していたズク坊が、急に悲鳴染みた声を上げる。


 くッ! まさか敵襲か!?

 ……と思いきや、どうやら枝に翼が当たっただけらしい。


 振り返ってみれば、ズク坊の真っ白い翼の羽が一本、ヒラヒラと舞い落ちていた。


 ――うん、やっぱり飛びづらそうだな。

 お気に入りの『追い風のスカーフ』が引っかからないように飛んでいるみたいだし、ズク坊は索敵以外にも気を使わなきゃいけないみたいだ。


 俺自身はというと、ヤカンみたいに『闘牛気』を上げながら気にせず進むだけ。


 二十三牛力、推定十八・四トンの体重様様で、

 ミシミシャベキィ! と踏み潰して、結果的に地面を平らにしながら進んでいく。


「俺の通った道を歩くといいぞー。あとズク坊はゆっくり低空飛行でな」


 ◆


 ドドンドンドン――!


 ……効果音をつけるならこんな感じだろうか?

 俺達の目の前には、汗臭いジャングルの王者みたいなヤツが現れていた。


 名を『アームドコング』。

 ゴワゴワの黒い剛毛に体長四メートルほどの、草食でも肉食でもない『雑食』な、『四つ腕』の異形なゴリラである。


 思わず苦笑いしてしまうような見た目でも、普通に強い。

 ゴリゴリの武闘派という感じで、パワー・タフネス・スピードのどれをとっても高水準だ。


 六層のエビルアイは少々特殊だったが、やはり『上野の迷宮』はパワー系モンスターの迷宮だな。


 とまあ、コイツの説明はこれくらいにしておいてと。


「さて、んじゃ戦闘パートに突入といこうか!」


 最初の一体なので、今まで通りにどんな感じかリーダーの俺が戦ってみる。

 MAXの二十三牛力も必要なくても、決してナメずに全力で当たるとしよう。


 ズン! と俺は凄むように一歩前に出る。

 相手のドラミングに返すかのごとく、密林な足元を大きく震わせた。


 対して、アームドコングは――おっ、一歩後ずさったな。

 四本腕で筋肉ダルマな恵体モンスターなのに、俺を見て本能的にヤバイと感じ取ったか?


「そりゃ実力というか、そもそも階級が違うからな。……けど、手加減はしないぞウホウホパワーめ!」


 凶暴で怪力で、散々上位の探索者を屠ってきた悪名高いモンスターの一つだからな。


 散っていった名も知らない探索者達の分まで、モーモー暴れ倒してやりますか!


「うおぉおおお!」


『牛力調整』で一気に接近し、俺は踏み込むと同時に懐に潜り込む。

 そこから一発、どの程度タフなのか見極めるべく、少し跳び上がりつつみぞおちに右ストレートを見舞う。


 ドスン! と俺の拳が『プラチナ合金アーマー』越しに深くメリ込む。

 するとアームドコングの口から、あっさりうめき声と血が噴き出してきた。


 この手応えだと……やっぱり戦力差は相当あるな。

 切り札の『狂牛ラッシュ』はもちろん、単発の『高速猛牛タックル』でも沈むだろう。


 腕だって四本もあるというのに、カウンターは飛んでこなかった。

 もちろん、俺のパンチの威力が高いと言うのもあるだろうが……事前に調べた通り、体術的なものはなく、シンプルに『フィジカル頼み』のモンスターらしい。


「何だ、殴り合いにもならないか。こちとら牛力を落とすつもりはないから……サクッと倒させてもらうぞ!」


 ため息混じりに言って、俺はみぞおちに左右の連打(×三セット)を叩き込む。


 タフであるはずのアームドコングの巨体がくの字に折れ、早くもダウン寸前となったところで――ボグンッ、と。


 鈍すぎる音を響かせて、俺は跳び上がりからの膝蹴りを一発。

 前に押し返すように、倒れ込んできた剛毛な巨体をアゴから弾き返した。


 ――そこへさらにダメ押しを。

 確実にこれで仕留めてしまうために、空中からの『蹄落とし』を真下の胸部に叩き落とした。


「……ホーホゥ。図体だけじゃバタローの相手にはならないな」

「ですねズク坊先輩。腕が四本あろうとファイターとしての格が違いすぎました」

「勝者っ! モーモー戦士バタロー!」

『ポニョーン』

『キュルルゥウ!』


 そんな仲間達の声をかき消すように、密林の地に沈むアームドコング。


 アゴは粉砕、胸は陥没。

 凶暴なモンスターという存在から一転、約『百三十万ちょっと』を生み出す札束と化しましたとさ。


「あっさり終わったな……。よし皆、デカイから手分けして剥ぎ取っていこうか」


 皆に声をかけて、俺は腰に下げていた剥ぎ取り用ナイフを持つ。


 探索者あるあるとして、凄腕と呼ばれる探索者の場合、モンスターが大型だともはや剥ぎ取りの方が大変なのだ。


 一瞬で素材だけを剥ぎ取るという、超便利な【解体師】。

 大所帯パーティーでもない限り、この【スキル】を持つ探索者を抱えるパーティーなどないので……絶対に避けられない重労働である。


「あっ、奥から一体こっちに来てるな。ホーホゥ。まだちょっと離れてるけど、戦闘の音を聞きつけたみたいだ」


 ズク坊がそう言うので、俺とすぐると花蓮の人間組で、せっせとアームドゴリラの解体を開始。


 魔石と肝と胃袋と。

 ナイフと手元を真っ赤に染めながら、もう慣れすぎた手つきでオペみたいに剥ぎ取っていく。


 そうして得た素材は、おなじみのマジックバッグの中へ。


 ――あ、そうだ。

 このマジックバッグに関しては、実は新しいものに代わっているぞ。


 見た目は前と同じ真っ黒いリュックでも、最大容量が三百(リットル)(ジャグジー風呂くらい)から千二百Lと大幅に増えている。

 前のやつは探索者ギルドに返却して、今度のはギルド総長から貸し出されたものだ。


 特定探索者、というか凄腕の探索者として、国およびギルドへの高い貢献が認められての事だった。


 俺以外にも、すぐると花蓮もマジックバッグ(ポーチ型とリュック型)は当然持っているし、素材を大量に回収できるってわけだ。


「んじゃ、どんどん進むか。我ら『迷宮サークル』の今日の目標は――八層突入と稼ぎ一千万越えだ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ